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言語化の最大の敵、音楽

 「NO MUSIC, NO LIFE」の文字をあなたもどこかで目にしたことがあるだろう。
 これは黄色のCDショップのために木村透氏が作り出した有名なコピーだが、あまりに有名すぎてそこかしこにパロディも溢れている。私がいじくるならこうだ。

 NO MUSIC, NO CAR
(ちなみに、「やっちゃえ、日産」も同氏が作ったとのことです)

 なぜなら私は音楽を聴いていないと5分以内に車に酔うのだ。さながらカップヌードルが3分を過ぎると伸びていくように。
 SURVIVE!
(「今日から社内公用語を英語にします!」で知られる日清のCMが好きだ)


 キャッチコピーの話はさておき、要は幼い頃からCDプレイヤーを持ち歩く必要があって、それはいつしかMD、SD、Walkmanに移り変わり、今では月額1080円で世界中のあらゆる音楽にアクセスするようになっている。

 よく音楽を聴く方だとは思う。けれどあらゆるジャンルに精通している訳ではなくて、気に入った人や曲をひたすら聞き込んでいるだけなので決して詳しいわけじゃない。近頃ようやく自分の好きなジャンルが「オルタナティブ」であるとわかった。オルタナティブのこともよく知らない。やたらとジャンルが広いのと、略してよく使われる「オルタ」の元の単語だということしかわかっていない。

 詳しいことはどうでもいいのだ。好きな音楽を見つけられればそれでいい。
 今日の日記は、今日の私が好きな音楽についてのメモだ。
 

 まずは数年前に出会ってからずっと聴きこんでいる歌手の話をしたいと思う。

 現時点で最も地上波に乗った歌声はこちらだろうか。Moe ShopさんとコラボしたNetflixの CMソングだ(0:40~)。ちなみにこういった曲調のものを彼女が歌う機会は少ない。

▽Netflix特別アニメーション60秒「アニメで言葉があふれだす。」



 とりあえずこちらを聴いてほしい。いつもはこんな感じだ。
▽理芽「ピルグリム」


 もう一曲挙げるならこれだ。
▽理芽「ファンファーレ」

 ひたすら音楽だけを聴いている状態なので、理芽については最低限のことしか知らない。どうやら彼女はバーチャルシンガーという分野の歌手らしい。武道館公演を行った花譜とは「姉妹」とのことだ。少し前まで米国に留学していたそうだが、最近日本に帰ってきたのでリリースが活発になっている。

以下は花譜とのコラボ曲。流石、気合いが入っている。この数年で最も繰り返し聴いている2曲だ。

▽花譜(feat.理芽)「まほう」

▽理芽(feat.花譜)「魔的」



 どうして彼女の曲と歌声が好きなのだろう? どうしても滲み出してしまう仄暗さに惹かれてしまうのかもしれない。メインビジュアルのこちらを見据える目と目を合わせれば一目瞭然だ。

 しかし声を聞いて欲しくて、あえてYoutubeではなくspotifyのリンクを引用・・・・・・しようと思ったものの、イントロが好きな曲も多いので、結局差し替えられるものはYoutube に繋げてみた。
 とにかく見た目だとかMVだとかは後からで良い。今の時代、興味を持って貰うには収益を望むには動画しかないような状況になっているけれど、情報を削る方が聞こえてくる音もあるはずだ。だから、あの人を知るにはまずは音から聴いて欲しい。

 彼女たちを纏めている事務所は二人を含むシンガー達を「魔女」と呼称している。それは極めて正しい表現だと思う。人の耳をここまでのめり込ませているのだ。名前負けしてない。かっこいいぞ。


 この事務所、かなり面白い試みとして彼女たちを人工歌唱ソフトウェア「音楽的同位体」としても売り出している。MegpoidやGACKPOIDなど実在の人物をそのままモデルにした歌唱ソフトは過去にもあったが、専業の歌手でありデビューから数年の時点でソフトが発売されているのには驚いた。彼女たちは本気でバーチャルと現実の垣根を行き来しようとしている。
 そうして理芽は「裏命」、花譜は「可不」として新たに名前を与えられて、インターネットのそこかしこで歌を歌っている。そうして作られた曲を彼女たち自身がカバーすることもある。

 これらの曲について、個人的には人の声で歌われたものよりもソフトウェアが歌った原曲の方が好きだったりする。昨日16周年を迎えた初音ミクと藤田咲の例でその現象のことは知っていたけれど、少し温度の乏しいフラットな歌声で歌われる方が、すんなり自分に寄り添ってくれることもある。

▽Misumi feat.裏命「不完全愛情進行中」


 彼女について書いてみて分かったのだが、思いの外言葉で伝えられることが少なくて驚いた!
 曲の起承転結も声の形も文字では伝えられない。専門用語はわからないしわかってもらえるとも思えない。ギターのFコードの指運びが難しい、ということしか知らない。そもそも人それぞれが好む曲調なんて違うのだから、こればかりは聴いてみてとしか言いようがない。



 なんでこんなにも言語化ができないものに心惹かれてしまうのだろう。

 小学生の頃を思い出してみよう。
 真面目であることを求められた家だったので、読む本は二十四の瞳、漫画はサザエさんの単行本、耳にする曲は歌謡曲と、上質には違いないものの固いと言わざるを得ない娯楽に囲まれて日々を過ごしていた。
 休日は車で移動することが多かった。そうして毎回酔った。しかし乗り物酔いで引き起こされる多大なるデメリットと、唯一の解決方法が耳を塞いで音楽に集中することだと身をもって示せば、固~い親も、私が何かを聴いていても何も言うことはできなかった。
 そうして手に入れた耳元の世界は、まだCDをねだる必要はあるものの、ようやく自分で選んで触れることができる「好きのしっぽ」だった。

 その後、学生時代に「シングルCD買っとるの意味わからんのやけど?」とギャルにTSUTAYAの存在を教えてもらい、レンタルを重ねて好きなアーティストを掴んだ。
 超暗黒社畜時代は勤務時間の唯一の癒しだった車の中で、FM802からメジャーマイナー早朝深夜問わず最新の曲を教えてもらった。ラジオは夜明けの暗がりの中でも、事故車両を眺めながらのんびり進んでいく夜更けの高速道路にも寄り添ってくれた。

 ラジオに教えてもらった歌手で一番好きなのはこの人だ。早々に引退したものの、焼き芋屋さんを経て、Diosというグループになって帰ってきてくれた。絶対歌い続けると思ってた。艶やかで軽く突き放すような声色が魅力的なボーカリストだ。

▽ぼくのりりっくのぼうよみ「パッチワーク」

▽Dios「裏切りについて」


 令和という元号にもようやく慣れてきた現在の私は、Apple Musicが教えてくれるおすすめを中心に聴いている。雑談やラジオで教えて貰っていた知らない曲を、自分の好みに沿うように教えてもらえるのだ。お店に行かなくても指先一つで新しい曲にアクセスできる。だんだん上がっていく月額料金も十分納得してしまうほど重宝している。

 しかしこうも思う。今の私は自分でちゃんと好きなものを探せていないのではないか? 今までも与えられてきた、それでも時には自分の好きには沿わないものも聞き流しつつ未だ見ぬ好きを探し続けていたはずだ。なにもかもをそのまま受け入れる小学生以前に逆戻りしてないか? このままでは安牌な「自分の好き」に甘んじて、大きく偏った人間になってしまうかもしれない。

  というわけでタイのトップソング100を聴いた。ちょうどこれから名前もわからないタイのカップ麺を食べるのでBGMが欲しかったのだ。
ちなみに「タイ BGM」と検索しても良さそうなものは出てこなかった。当たり前だ、良いインストアルバムはタイトルに「タイ BGM」なんてキーワードを入れている訳がない。

 1位から順に耳にして驚いた。なんとなく日本のポップスに通じる曲調だった。ボカロ文化が浸透して、BPMがどんどん早くなっていく現在のポップシーンには見当たらない、少し前の、もしかしたら少し先の穏やかなポップス。しかし、何を歌っているのかてんでわからない。多分愛だろう。
 
 3位は英語の歌だった。曜日について歌っているのはわかる。日本のランキングに洋楽が上がってくることはそんなに多くないよなあ、やはり英語とかけはなれすぎた言語だからか・・・・・・と思ったら日本のランキングにも同じ曲が食い込んでいた。ランキングを見ることはほとんどないから知らなかった。世界的ヒット曲だった。

 その後ろに続いていた、恐らくタイでヒットしたドラマのサントラなのか、高校教師が主人公と思わしきジャケットを眺めて、カップ麺ではなく甘辛い焼きそばだったそれを食べ終えて、私は日本の音楽の元へと戻っていった。

 好きから抜け出すことは、どうやら難しいらしい。そもそも好きは何かを偏らせないと生まれない。博愛主義者の気持ちはわからない。結局どこかに固まってしまうのだ。ダンスホールの中心か、部屋の隅か、私は多分隅の方が好きだ。


 そもそもおすすめに乗っかることは悪いことではない。メディアは最新か定番の曲を紹介するのに手一杯だが、サブスクは思いもよらない少し前の曲を教えてくれたりする。
 
 例えば、何気なく見つけて聞き込んでいた人が、随分前に亡くなっていることを友人との雑談で知ったり。

▽レイ ハラカミ「Owari No Kisetsu」


 聞き逃していたボカロ曲を知れたこともあった。
(よく聞き込んでいたオーケストラのアルバムにも収録されていたのに、ずっと飛ばしていた。おすすめされていなければ聴くことはなかっただろう。今年見つけられて一番嬉しかったボカロPだ。MVも素敵だ)

▽はるまきごはん「メルティランドナイトメア」

▽東京フィルハーモニー交響楽団による演奏もおすすめ


 新しいモノのみがもてはやされない点だけでも、サブスクのおすすめは信用できるのかもしれない。
 本当はただの「好き」を列挙するだけなら、noteではなくtwitter(現ペケ)に書いていればいいのだが、できない。なぜならYoutubeのリンクを貼るだけでメディア欄に格納されるから。私はYoutube屋さんではない。

 我慢していたけれど、呟きたいことはたくさんあるのだ。


 蓮沼執太フィルの最新アルバムの冒頭4曲の流れが最高だとか、
▽蓮沼執太フィル「GPS」


 名前の読み方も知らない女性ふたりによるこの曲はずっと聴いていられるとか、
▽[ahi:]「Panache’」


 好きな作曲家を辿って知った幼い声色の彼女たちは実はアイドルで、新曲が出ないなと思ってたら解散が発表されていて、ぎりぎりのタイミングでラストライブの視聴に間に合ったとか、
▽sora tob sakana「信号」


 ずっと真夜中でいいのに。は、やっぱり「サターン」が一番好きだとか、連ねるときりがない。
▽ずっと真夜中でいいのに。「サターン」




 そうして昨日の私が見つけて、今日よく聴いているのはこの曲だ。

▽トルネード竜巻「言葉のすきま」


 この曲、リリースは17年前、2006年らしい。

 私が初めて大好きなアーティストを自分で見つけて、絶対に死ぬまで音楽を聴き続けてやると決めた年と、同じ年だった。



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