おいしい「オリジナルビール」の作り方(北米編)
この記事は P2B Haus アドベントカレンダー12日目 の記事です
忘れもしない2016年3月19日、まだP2B Hausを立ち上げる前の sotarok がカリフォルニアに遊びに来たので、肉を焼いてビールを振る舞ったんですよね。その時に出したのは写真にある通りBear RepublicのRacer5とBallast PointのGrapefruit Sculpinだったわけですが、特にGrapefruit Sculpinを彼がいたく気に入りまして、僕も大好きなビールだったのでそうだろうそうだろうガハハと肩を叩いて乾杯していたらあれよあれよという間にビール屋を始めたばかりか自分のIPAまで造ってしまって、さすがの行動力よと感嘆しきりであったことを昨日の事のように思い出します。つまりP2B Hausはワシが育てたガハハ。
アメリカがなぜクラフトビールの約束の地みたいになってるかと言えばいくつかの要因があるわけですが、最も大きな点は間違いなく醸造関連の法環境です。
日本の場合は、ビールなら年間で最低でも60,000リットル、発泡酒でも6,000リットルを造れない限りそもそも醸造免許が下りません(これでも2004年の改正までは2,000,000リットルだったので大幅な改正ですが)。
一方アメリカでは1979年に自家醸造が合法化され、年間100ガロン(378リットル)以内なら幾らでも造れます。制限値そのものより「そこまでなら自由に造ってよい」という日本とは正反対な制度のベクトルが肝心で、つまり家庭でちょっと試すだけなら誰でも自由にビールが造れるわけです。そうして造っているうちに、俺にも分けてくれ私にもと近所で評判になり、いつのまにか100ガロンのラインを超える頃には地元で話題のブリュワリーになる、という具合に多くの著名なクラフトビールが世に出てきたのです。結局、山の高さや多様さは裾野の広さと比例するんですよ、聞いてるか国税庁。
じゃあどうやって造るんだって話ですが、ビールに限らず酒なんてのは古今東西どこでも「甘い水に酵母をブチ込んで発酵させる」が核心です。そこに使われる材料、酵母、副原料、手法などで様々な酒が生まれてくるんですね。で、ビールの場合はそれが麦芽を煮出して糖化させた麦汁であり、Safale US-05など多種多様なビール酵母であり、そして副原料というにはあまりに存在感が大きい各種ホップであるわけです。
で、アメリカの場合はその辺の材料やら機材やらが、街にだいたい一軒はあるビール醸造用品店さんで気軽に買えるんです。これは最寄りの「More Beer! More Wine!」という店です(最近残念ながらオンライン販売のみに移行してしまいました)。
店内には醸造に関する器具がプロユースからお試しレベルまでほぼなんでも揃っています。麦芽を煮る鍋からそれ用のデカいガスコンロ、煮た麦汁を急速に冷やすためのチラーや発酵用のガラス瓶、etcetc、買おうと思えば樽も買えます。
麦芽は量り売りされており、自分で挽いて持ち帰ります。
ホップや酵母も棚からお好きなものをお選びください状態です。三つ子の魂百までじゃないですが、最初に造ったビールがMosaicベースだったので、僕はやはりMosaicがけっこう大好きですね。
おいおい麦芽から煮るなんて面倒じゃないか、裾野が広いなんてとんでもない、って思う方もいるかもですがご安心ください、あらかじめ抽出済みの濃縮麦汁を水で溶いて煮ればOKというお手軽キットも販売されています。それも一流、どころか超一流クラフトビールのレシピでですよ。もっともこの辺りも北米クラフトビール文化の特徴で、写真にもあるRussian RiverのシグネチャビールPliny the Elderなどは、Brewmaster自らがレシピを公開してくれています。皆それを試しては「本家はすげーー!」と感嘆したり、その中から次のRussian Riverが生まれてきたり、一方でリスペクトなくコピーして売り抜けようとする輩はdisられて市場から速攻追い出されたりするわけです。ガリガリの資本主義国家でありながら、こういった辺りにギルドっぽさを感じてそれがけっこう心地良いなと思うんですよね。キリンのスプリングバレーが微妙な立ち位置にあるのもこの辺がクラフトビールのマインドの根っこにあるからなんじゃないかと思います。
肝心のビール造りの詳細になるとまた話が長くなるので、雰囲気としてはこの辺を見ていただくとしてここでは割愛しますが、ともあれ「ここでは誰もが自由にビールを造れる!」という雰囲気はかつてのゴールドラッシュもそうだったのだろうなというアメリカらしい前向きなダイナミズムを強く感じます。だからおいしいオリジナルビールを作りたいなら北米に移住しよう!と本稿のタイトルからしたらそうなりそうなところですが、でもそれじゃあいかんでしょう、聞いてますか国税庁。今からでも遅くないので「法令上の各種義務の遵守などのコンプライアンス低下の懸念や最低製造数量基準のもう一つの目的である酒類の品質・安全性が確保できなくなるおそれがある」とかヘタレなことを言っている暇があったらさっさと最低製造数量基準を撤廃してアメリカ式に移行しなさい。その方が税収は増えるぞ、このPliny the Youngerを賭けても良い。そんな厳しい制約のなかでhackの限りを凝らして素晴らしいビールを生み出している日本のローカルブリュワリーを見ていると、制約が解き放たれた場合どんなに豊かな光景が生まれるのだろうかともう期待しかありません。もっと造ろう盛り上げよう日本のビール文化!みんなP2B Hausで僕と乾杯!