『勝って兜の緒を締めよ』vsYS横浜(3/20)A【2022松本山雅】
・YS横浜戦レビュー
2連勝を目指して臨んだこの試合。
YS横浜が山雅の想定とは大きく異なるプランで入ってきたこともあり、落ち着かないまま試合が進んで行った。
前節以上に苦しんだ、紙一重のゲームをヒントに様々な要素を考えていきたい。
・両チームスタメン
山雅は前節から2人変更。3ポジションの人選が変わった。
大卒ルーキー住田が初出場。前貴之のメンバー外が気になる形。
ベンチ入りメンバー全体としても、山本と住田が入れ替わった他、前が抜けたところに安田が入る形で、ほぼ入れ替わりがないと言っていい。
YSは前節と全く同じメンバー。
ベースポジションに関しては3-4-2-1で間違いないだろう。
・YSの山雅対策
そう、ベースポジションは変わらないのだが、アプローチが違った。
まず守備では、シャドーがSHを隠しながらプレスをかけてくる。(そのSHにはボランチが監視する機会が多かった)
そこで、山雅のほかのパス供給先に目を向けると、SBは高い位置を取った場合WBに捕まる。FWは3vs2で数的優位を作られ、挟まれて対応されていた。
そして、攻守において、シーンに合わせて中盤の形を変化させてきた。
特に攻撃では、岐阜戦ではほとんど見せなかったビルドアップ。
中盤の底に1人入るような形で、アンカーを設置。
そのアンカーも最終ラインに降りると、IHの位置にいる選手が降りてくるような形で、常に前プレスを行う山雅の前4枚を困らせる形をとってきた。
特に狙われたのが山雅のSHがストッパーに対してプレスに行った背後のスペースで、ボランチやシャドーの選手が受けて前進という形を多く作っていた。
また、FWのプレスが揃わず、GK+3CB+アンカーのどこに狙いを定め、どのように誘導していくのかということをはっきりさせることが出来なかった。
前節岐阜戦のやり方を踏まえて対策を取った山雅としては、1つ不意打ちを食らったような形になってしまった。
・徹底した攻撃
しかし、山雅も怯むことは無い。
繋ぐことが難しいシーンではロングボールで逃げつつ、繋ぐ際にはSHのポジショニングのマイナーチェンジで対応。
恐らくベースポジションが5-4-1のような形になることから事前に用意していた形ではあったと思われるが、基本的には前節と同じようにハーフスペースに位置取りながら、SHが比較的低い位置で受ける形をとり、プレスから逃げてスペースでボールを捌くような役割を担っていた。
結局そこも対応はされるため、臨機応変に立ち位置を変えるものの、相手のプレッシャーが遠い段階でそこにボールを供給できるシーンは多くなかった。
そのような状況の中、3CBの脇にロングボールを供給し、何とか収めたところからの展開というのが増えていくことになり、結果的にそこから得点も生まれた。
ただ、FWの動きは求められていたものを満たせておらず、今節苦戦した理由だった。
FWは基本的に裏抜けや起点を作るロングボールを収めるだけでなく、相手の最終ラインを押し下げる動きを求められる。
今節においては相手のプレスが早かったこともあり、ロングボールを蹴るタイミングは比較的早かったように思える。
その影響か、ボールを引き出す動きではなく、ボールに反応して走り出すことが多かった。ここで自分たち主導のコントロールを実行できた場合、もう少し試合はコントロールしやすかったように感じる。
・右サイドは何故詰まるのか
ここ2試合右サイドでの展開は詰まってしまい、スムーズに行くことは決して多くない。
もちろん、左サイドが常に崩せるような関係を持ち、強力である訳では無いのだが、原則通りに位置取り、パス交換していくという関係には至っていない。
その理由は
①可変にかけている人数が違う
②パスを供給できる出来ないがある
③受け手のタイプが違う
の3つが考えられる(複合的に絡み合っている可能性もある)
①まず、前節の基本的な形から
米原にパスを散らさせて、パウリーニョにある程度バランスをとってほしいという役割を大まかに与えていることは理解できる。
今節はパウリーニョが真ん中に降りて、散らす位置を落としていたが、その1列前の米原が絡むのは結局左サイドになりがちである。(パウリーニョが右に落ちるシーンはあまりない)
そうなるとシンプルにパス交換する人数が多いのは左サイドになり、よりスムーズになっていく。
②また、縦パスを入れる際に速いパスを入れれる存在は、現在のメンバーだと米原と常田である。両方とも左利きで、速い展開を作りやすいのが左になっているという属人的な理由もある。
その事で、より前方にボールを運ぶ際に、時間がかかり、相手のスライドが間に合っているという側面もある。
③さらに、SHのキャラクターも1つ理由として挙げられる。
住田や前節の龍平は、ある程度相手が近くても受けれるタイプ(かつ左利き)であり、後ろの選手からすると縦パスをつけづらい印象を受けるだろう。
対して佐藤や菊井は全体のポジショニングを見ながらこれから空くスペースに留まることも出来るため、パッと見出しやすいシーンが多いのは事実。
この点は受け手の問題も多少はあるが、出し手にとっても大きな課題であることは間違いない。
必ずしも同じパターンでサイドを崩そうとしていないにしても、右サイドの停滞は長期的な課題になりうる。
SHにどのようなキャラクターを置いて打開するのかの答えを探しながら、裏を使って打開という現実的な策を併用することがやはり望ましいだろう。
・守備のズレ
1点目を得た直後から、疲労からか守備ブロックの全体のスライドの遅れが顕著になる。
(51分03秒からの流れ)コーナーキックに繋がったシーンなど、2ボランチのポジショニングが適切な位置ではないシーンが増加。
特に米原のポジションがズレることでパウリーニョとの間が開き、その間を通されたり、しっかり戻りきれないことで斜めのパスをギャップに刺され、あわや失点に繋がるシーンを作り出してしまった。
その中で、メンバー交代が功を奏す。
稲福はパスこそ米原のように散らせないものの、ズレたポジショニングを戻し、危険なペナルティエリア侵入を減らした。
さらに自陣深くでプレスバックしてボールを奪った菊井が縦パスを刺し、攻撃のスイッチを入れたところから追加点を得ることが出来た。
FWのプレッシングのテコ入れは出来ないタイミングだったため、左右に振り回される状況はそこまで変わらなかったが、何とかフレッシュな選手がその状況を打開してくれた。
(菊井本当に守備が上手い。外を切りながら中誘導して稲福に刈り取らせた67分のプレーがとても良かった。その後、相手は左WBの5番を使いづらくなっていた。)
・2-1は危険なスコア
誰もが今節は行けると油断した。
私自身連れに「安心して少しふわふわした気持ちになっている」と伝えていたのだが、改めて見返すとこの時間帯は全体的にその雰囲気を持ってしまっていた。
その中で、セットプレーからその雰囲気を大きく変えられてしまった。
(人づてなのであまり大きなトピックとして挙げづらいが、)セットプレーでは常に後手を踏んでいた様子で、そこから得点されてしまった。
最終的に約10%が得点に繋がるというデータがあるコーナーキックを11本許してしまったことも含めて考えると、1本返されたのはデータ上妥当と言える。
そこで高さ回復(米原→稲福の分)の榎本と守備リーダー橋内という交代カード自体は妥当だったものの、タイミングが間に合わず。
そこからフォーメーションを変更することになる。
そして、フォーメーション変更後より顕著にサイドを攻められる。
特に左サイドに入った13番河辺が下川に1vs1で仕掛ける状況が生まれ、トップ下に入った菊井も間に合わない。
中央からパウリーニョが出てくることで中央の枚数が減るという危機的な状況が常に発生していた。
選手主導で5-4-1に変更したものの、逆サイドは榎本か小松のどちらかが相手のWBを追いかけなければならず、ミスマッチとなっていた。
その中で、ギリギリ耐えきったことに関してはプラスとして捉えたい。
・アウェイ2連戦の総括
内容は50点というところが正直なところか。
勝ちきったことと反省点が現れたことで有意義な2連戦になったものの、構造上の欠陥やキャンプでトレーニングしきれていない部分(ドリブル対応等)を見破られ、相手の長所とも噛み合ったことで苦戦したという事実ははっきりと存在する。
特に今節YS戦は、相手がJ2クラブであれば確実に負けていた試合である。
ただ、ここでシステムをいじるというところに思考が行くとは考えられない。
名波さんはベース(守備)のフォーメーションを4-4-2で捉えていることは恐らく間違いない。(3-1-4-2でもWBが縦ズレすれば4-4-2になるため)
WBの縦ズレが上手くいかず中盤に負担がかかるという守備面でのポイントと、ベースポジションから可変して混乱を生み出し、より捌ける選手が多い状態で攻撃するという攻撃面のポイントを加味し、このシステムでしばらく続けるのではないかと考えている。
そして、次の捉え方は4試合で勝ち点8というところが目安になってくる。
その中で、全体的に相模原戦に照準をあわせ、守備の基本的なマークやボールアタックの確認・プレス連動など大原則的なところを詰めて行くことに着手するのではないかと考えている。
もちろん、鹿児島戦で劇的に改善するということは考えづらいため、徐々に改善していくことに期待する他ない。だからこそ、まずひとつ昇格に向けて乗り越えなければいけない壁を乗り越えるための優先順位を理解することで、一つ一つ目の前の相手に勝つことを考えていくことが昇格への近道になるだろう。
勝って兜の緒を締めよ。
本当の戦いはまだまだこれからだ。
原点回起