男女の心の機微を絶妙に表現!映画『水は海に向かって流れる』
今回はkayserが担当します。
長編デビュー作『子供はわかってあげない』で多くのマンガファンを虜にし、「このマンガがすごい!2015」ではオトコ編第3位を獲得した漫画家・田島列島。
そんな彼女が「第24回手塚治虫文化賞新生賞」を受賞するきっかけとなった『水は海に向かって流れる』が実写映画化され、2023年絶賛公開中です。今回は、映画『水は海に向かって流れる』を紹介します。
田島列島ってどんな漫画家
短編マンガ『ごあいさつ』がMANGA OPENという新人漫画賞で第24回さだやす圭賞を受賞し、「モーニング」にてデビューを果たした田島列島。この時は田谷野歩というペンネームでした。その後、田島列島に変更し、ゆっくりとしたペースで短編を発表していきます。
2014年から同じ「モーニング」で連載が始まった『子供はわかってあげない』が話題となり、マンガ大賞2015で2位にランクイン。2018年より「別冊少年マガジン」にて『水は海に向かって流れる』の連載を開始し、各漫画賞を総なめにしました。
もともとは美大で映画などの勉強をしていた田島列島。卒業後しばらくしてマンガの新人賞に投稿します。いきなりの受賞で漫画家デビューを果たすことに。
漫画家では高野文子に影響を受けたそうです。どことなく、その作品性が似ていますよね。素朴な絵柄を持ち味とする一方で、一筋縄ではいかない独特な世界観を作り出しています。
長編2作品は「家族」をテーマとして描いており、そこに複雑な人間関係が絡んでくることに。徐々にその絡み合った糸が、するっと紐解かれていくような物語の展開は、田島列島の得意とするところ。
多くのマンガファンの心を鷲掴みにしている漫画家のひとりです。
長編デビュー作『子供はわかってあげない』
田島列島を語る上で外せない作品が、長編デビュー作『子供はわかってあげない』です。高校2年生で水泳部サクタさんは、同じ学年で書道部のもじくんと好きなアニメ繋がりで偶然仲良くなります。
出会ったばかりの2人でしたが、サクタさんの実の父親探しが始まるのでした。そんな2人のひと夏の物語です。
この作品も実写映画化され、2021年に劇場公開されました。田島列島の描く、繊細な高校生たちの物語を『南極料理人』『さかなのこ』で知られる沖田修一監督が映画化。沖田監督ならではの素朴な世界観と田島列島の持つ軽やかさと奥深さが相まって、温かくユーモア溢れる作品となっています。
映画『水は海に向かって流れる』
前作『子供はわかってあげない』が各漫画賞で高く評価されると同時に実写映画化もされ、田島列島という名も広く知れ渡りました。
その独特な世界観が多くのマンガファンに支持される中、3年という月日を経て、ついに『水は海に向かって流れる』の連載が始まります。
複雑な人間関係を軸に高校生とOLの恋模様を描いた物語です。前作同様に、「家族」がキーワードとなっています。
前作と被らないように恋愛ものにしたつもりが、結局は「家族」や「人生」を描くお話になりました。そのことで、作者自身も自分の興味のあるところが、「家族」や「人生」なんだと気付いたといいます。
そんな映画『水は海に向かって流れる』のメガホンを取るのは、『そして、バトンは渡された』や『ロストケア』で知られる前田哲監督。多くの作品を手掛けるベテランです。
脚本の大島里美もテレビドラマ『凪のお暇』など数々のヒット作を生み出してきた実力派。そんな2人がタッグを組み、田島列島の世界を描いています。
主演には、広瀬すず。その相手役を、子役から活躍する大西利空がオーディションで見事射止めました。この2人の好演が光る本作は、高良健吾、戸塚純貴、勝村政信、北村有起哉、坂井真紀、生瀬勝久と豪華キャストが脇を固めています。
雨で始まる物語
『水は海に向かって流れる』では、「雨」という存在が大きな役割を果たしています。これは実写化においても原作同様に重要な要素を担っています。
主人公たちの出会いも「雨」から始まりました。高校入学とともに、叔父の家から学校に通うことになる大西利空演じる直達。初めて叔父の家を訪ねる日、駅に着くと雨が降っていました。
そこへ、叔父の代わりに傘を持って迎えに来たのが広瀬すず演じる榊さん。彼女は、叔父が暮らすシェアハウスのメンバーのひとりでした。
この出会いが2人の運命を大きく変えていきます。それぞれの家族の過去に起こったある出来事。
そのことで、榊さんはずっと怒りを抱え、直達は事実を知らずに過ごしてきました。2人が一緒に暮らすことになり、運命の歯車が動き出すことに。
「雨」が降るたびに、榊さんと直達の関係が近づいていきます。映画では、ラストにも「雨」が。原作とは異なるそのラストは、観客にその後の2人の関係を委ねる形になっています。
映画オリジナルのシーンは他にもちらほら。マンガと映画で見比べてみても面白いかもしれませんね。
登場人物の名前
田島列島の作品に登場するキャラクターの名前。筆者は、このキャラクターたちの名前の音のトーンが好きです。『水は海に向かって流れる』でいえば、榊さんは千紗で、熊沢くんは直達とか。
叔父さんは茂道(ニゲミチ先生)、女装の占い師・泉谷さんは颯、颯の妹は楓と名前の響きがいいんです。なんだか、つい発音したくなる名前なんです。
特に意味があるわけではないのかもしれませんが、これも作者のセンスが光っているポイントではないでしょうか。
kayser
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