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8月11日公開オススメ映画『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』

映画ライターの松 弥々子が、8月11日に公開されるオススメ映画『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』をご紹介します。


クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男

映画『レザボア・ドッグス』(1992)で鮮烈なデビューを飾った映画監督、クエンティン・タランティーノ。
映画が大好きで、ブラックスプロイテーションをはじめとするさまざまなジャンル映画を見て育った彼は、その豊富な映画体験と映画の知識を活かした映画作りで、1990年代の映画界に旋風を吹き込みました。

監督作の『レザボア・ドッグス』(1992)や『パルプ・フィクション』(1994)はもちろん、脚本を手がけた『トゥルー・ロマンス』(1993)、原案で参加した『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)も、衝撃的でした。若かりし頃の私も、タランティーノ作品を見ては、映画好きの友人や先輩たちと盛り上がったものです。

8月11日に公開されたドキュメンタリー映画『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』は、そんなクエンティン・タランティーノについて、彼の歴代の作品に参加してきた俳優やスタッフたちが、タランティーノの人となりを思い思いに語るドキュメンタリーです。

初期作品から参加してきたマイケル・マドセンやティム・ロス、彼の作品でスタント&俳優としても活躍するゾーイ・ベルなど、さまざまな俳優たちのタランティーノへの思いを知ることができます。

第1章 革命

この作品の第1章で描かれるのは、タランティーノのデビューの衝撃です。
カンヌ国際映画祭の公式上映作品としてミッドナイト上映された『レザボア・ドッグス』(1992)は、カンヌに集まった映画人たちの間で瞬く間に話題に。タランティーノは、クルーズに招待され、レニー・ハーリン、オリヴァー・ストーン、ジェームズ・キャメロン、ポール・ヴァーホーヴェンらそうそうたる大監督たちと面識を得たそうです。

そして、第二作となる『パルプ・フィクション』(1994)では、第47回カンヌ国際映画祭ではパルムドールを受賞しました。
この作品の象徴でもある、ユマ・サーマンとジョン・トラヴォルタのダンスシーンですが、実はトラヴォルタが演じたヴィンセント・ヴェガ役は、最初は別の俳優が演じる予定だったそう。『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』では、その俳優が、「俺だったらああはできなかった」と語っています。

第2章 強い女性&ジャンル映画

前二作の評価も高く、一躍時代の寵児となったタランティーノが三作目のテーマとして選んだのは、幼い頃から好きだったジャンル映画でした。

『パルプ・フィクション』でパム・グリアの出演シーンを悩んだ末にカットすることとなったタランティーノは、パムに「次はあなたを主役にする」と約束したそう。そして出来上がったのは、ブラックスプロイテーションを意識した映画『ジャッキー・ブラウン』(1997)です。
黒人の中年女性ジャッキー・ブラウンが、人生の逆転をかけた計画を実行する様子を描いています。

そして、『キル・ビル』(2003)&『キル・ビル Vol.2』(2004)。
ユマ・サーマン演じるザ・ブライドの復讐劇ですが、カンフー映画や日本のヤクザ映画へのオマージュに満ちた一作。
ブルース・リーのような黄色のトラックスーツ姿のユマ・サーマンと、梶芽衣子のような白い着物姿のルーシー・リュー、二人が雪の降る庭園で日本刀で決闘するシーンは、今も名シーンとして多くの人の記憶に残っています。

『デス・プルーフ in グラインドハウス』では、スタントマンのゾーイ・ベルをメインキャラクターに起用し、殺人鬼と死闘を繰り広げるスタントマンの女性を描いたスラッシャー・ムービーです。ゾーイ・ベルが、過酷な撮影模様について、興奮しながら語っています。

第3章 正義

『イングロリアス・バスターズ』(2009)では、タランティーノはユダヤ人女性によるナチスへの復讐を描きました。
この作品でタランティーノ作品へ初参加し、ナチスのランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツは、その素晴らしくも嫌味な演技で第82回アカデミー賞助演男優賞を受賞。これ以降、タランティーノ作品の常連俳優となっています。

さらに、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)では、ジェイミー・フォックスをタイトルロールに迎え、元黒人奴隷の男性が、愛する妻を奴隷として買った裕福で外道な白人男性へ復讐をする物語を作り上げています。

この作品で外道な奴隷主を演じるのは、レオナルド・ディカプリオ。さらに、黒人奴隷でありながら、部下の奴隷たちを非道に扱う奴隷長のスティーヴンをサミュエル・L・ジャクソンが演じています。

『ジャンゴ 繋がれざる者』は、西部劇というジャンル映画の形式をとった、タランティーノらしい復讐&虐殺劇なのです。

『ヘイトフル・エイト』(2015)は、吹雪の中で小さなロッジに閉じ込められた8人の男女の姿を描きミステリー&西部劇です。西部劇版『レザボア・ドッグス』とも言われ、サミュエル・L・ジャクソン、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーンといった俳優たちが登場し、ワケありの登場人物たちが殺し合いを繰り広げるのです。

そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)では、1969年のハリウッドを舞台に、シャロン・テート事件を阻止し、マンソン・ファミリーへの復讐を果たしています。

長編映画10作で、監督引退?

タランティーノは、長編映画10作品を監督したら、映画監督を引退すると明言しています。
現在、9作品の長編を監督しているタランティーノのこれからはどうなるのでしょうか。

2023年現在、タランティーノは9作品の長編映画を監督しています。盟友ティム・ロスは、タランティーノ引退後の計画を「少し知っている」のだそうで……。

ハーヴェイ・ワインスタインとの関係

この『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』では、少し歯切れの悪い部分があります。それは、ハーヴェイ・ワインスタインとタランティーノとの関係です。マイケル・マドセンが自分の体験を交えながら、ハーヴェイについて語っています。

『レザボア・ドッグス』から『ヘイトフル・エイト』まで、ハーヴェイ・ワインスタイン率いるミラマックス社、もしくはワインスタイン・カンパニーで作品の配給を行なってきたタランティーノ。

これだけ密接な関係で、ユマ・サーマンやミラ・ソルヴィノという身近な女性も被害にあっています。にも関わらず、彼は「知っていたけれど、何もしなかった」のだそう。力関係的に、はっきりとした対応は難しかったのかもしれませんが、これはタランティーノの汚点の一つでしょう。
とはいえ、こういった汚点が暴き出されていくことで、自浄作用となれば良いのですが……。

監督10作目は……

「会話劇」「大虐殺」「弱者による復讐」という大きな特徴を持つタランティーノ作品。ブラックスプロイテーション、ヤクザ映画、西部劇、スラッシャームービーといったジャンル映画のフォーマットを用いつつ、タランティーノにしか作れない映画を制作し続けてきました。

また、『イングロリアス・バスターズ』からは、歴史の「if」として、虐げられてきた者が、実在の加害者に復習する物語を描いています。

監督10作目となる『The Movie Critic(原題)』では、1970年代の映画批評家が主人公なのだそう。
きっと、往年の映画にまつわる知識が各所にちりばめられた、映画ファン感涙の物語になるに違いありません。もしくは、映画批評家、そして歴史に埋もれた映画関係者たちの権力者への復讐劇なのかも……。

『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』(101分/アメリカ/2019年)
原題:QT8: THE FIRST EIGHT
公開:2023年8月11日
配給:ショウゲート
劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国にて
Official Website:https://qt-movie.jp/
© 2019 Wood Entertainment


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