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2月23日・24日公開オススメ映画『エンパイア・オブ・ライト』『ちひろさん』『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』
映画ライターの松 弥々子が、今週末、2月23日・24日に公開されるオススメ映画3作品をご紹介します。
エンパイア・オブ・ライト
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1980年代、イギリスの海辺の街で暮らす女性の出会いと愛情、そして友情を描いた映画『エンパイア・オブ・ライト』。
主人公は、心のバランスを崩したりしながらも、映画館でマネージャーとして働く女性・ヒラリー。彼女の働くエンパイア劇場で、若い黒人男性スティーヴンが働きはじめます。建築を学びたいと思いながらも、その道を阻まれたスティーヴンと交流するうちに、ヒラリーの鬱屈した日々は、だんだんと変わっていくのですが……。
1980年代のイギリスは、失業率が高く、移民である黒人への差別も激しかった時代です。仕事を無くした白人が黒人に対して暴力をふるったりする事件も起きていました。本作『エンパイア・オブ・ライト』は、そんな時代を舞台に、生きづらさを抱えながらも懸命に生き、自らの人生を切り開こうとする人々の姿を描いています。
ヒラリーを演じるオリヴィア・コールマン、スティーヴンを演じるマイケル・ウォードの演技もすばらしく、作品をより真に迫るものとしています。
作品の冒頭で映し出される「Find Where Light In Darkness Lies(暗闇の中に光を見出す)」という言葉が、映画館の暗闇の中で人生を学んできた私には、とても心に響きました。
『エンパイア・オブ・ライト』(115分/イギリス・アメリカ/2022年)
原題:Empire of Light
公開:2023年2月23日
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
劇場:全国にて
Official Website:https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ちひろさん
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ある海辺の街にあるお弁当屋「のこのこ」で働くちひろさん。映画『ちひろさん』の主人公である彼女は、ホームレスの男性や男子小学生、女子高生など、偶然に出会った孤独に生きる人々と自然体で接し、彼らの人生にちょっとした希望を与えていきます。
『窓辺にて』『愛がなんだ』など、すばらしい人間ドラマを次々に生み出し続ける今泉力哉監督が手がけた本作では、元風俗嬢で今は海辺の街で自由に暮らすちひろさんを、有村架純が演じています。
小さな街で平凡に生きる人々であっても、日々にはいろいろなことが起こります、嫌なこともあればうれしいこともあり、ちょっとへこんでしまう時もある……。そんな時、ちひろさんはただ話を聞いてくれたり、お弁当を食べさせてくれたり。勝手に自分を責めたり攻撃的になってしまう人々も、ちひろさんと接しているうちに自分を許せるようになっていくのです。そんなちひろさんも、たまには水底に沈んだりしながらも、少しずつ元気を取り戻したりもします。
自分を理解してくれる人はどこにもいないのかもしれない……。そんなふうに感じたことのある人に必要なのは、きっとちひろさんみたいな人なのだと思います。
この『ちひろさん』は映画館で公開されるだけでなく、Netflixでも配信されているので、ぜひ映画館とNetflixの両方で楽しんでみてください。
『ちひろさん』(131分/日本/2023年)
公開:2023年2月23日
配給:アスミック・エース
劇場:新宿武蔵野館ほか全国にて公開、Netflixにて全世界配信中
Official Website:https://chihiro-san.asmik-ace.co.jp/
(C)2023 Asmik Ace, Inc. (C)安田弘之(秋田書店)2014
日の丸~寺山修司40年目の挑発~
1967年に寺山修司によって制作された伝説のテレビ番組「日の丸」。
「日の丸と言ったらまず何を思い浮かべますか?」
「日の丸の赤は何を意味していますか?」
「あなたに外国人の友達はいますか?」
「もし戦争になったらその人と戦えますか?」
という質問を道ゆく人たちに矢継ぎ早に無機質にインタビューし、答える人々の様子だけを映し続けるという番組でした。
この1967年のテレビ番組が問うたテーマを、55年後にふたたび問うたのが、この映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』です。
1994年生まれのTBS社員である佐井大紀監督は、みずから路上に立ち、道行く人々に同じ質問を投げかけます。
そして、1967年当時に寺山修司と親交のあった人々や、当時の番組で寺山に抜擢されインタビュアーを務めた女性たちにインタビューを行っていきます。
そこで浮かび上がってくるのは、クリエイターとしての寺山修司の厳しさとエゴイズム、そして佐井監督の内省。コンプライアンスに縛られた現代で、クリエイターはどこまで理想を貫けるのか。佐井監督は画面を通してその悩みを吐露し、弱さを隠さずにさらけ出していきます。
このドキュメンタリー映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』では、現代の日本人が「現代の日本人が日の丸をどう考えているのか」という問いへの答えはほとんどありません。しかし、道行く現代の日本人たちの答えや、佐井監督の内省そのものが、現代日本人の曖昧さや、複雑な環境下で生きる現代ならではの難しさなどをはっきりと描き出すという、少し変わった構造のドキュメンタリーとなっているのです。
『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』(87分/日本/2023年)
公開:2023年2月24日
配給:KADOKAWA
劇場:角川シネマ有楽町、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国にて順次公開
Official Website:https://hinomaru-movie.com/
©TBSテレビ