若者たちのリアルな恋愛『わたし達はおとな』【下北沢のミニシアター「K2」にて鑑賞】
今回はkayserが担当します。
2022年1月に誕生した下北沢の新しい複合施設「(tefu)lounge(テフラウンジ)」。着々と開発の進む下北沢の南西改札口徒歩0分という好立地にあります。
その施設の2Fにあるのが、ミニシアター「K2」です。この「K2」はクラウドファンディング・プラットフォームを運営するMotion Galleryが新たに立ち上げたもの。
実は筆者も微力ながら、応援支援させていただいています。そんな関係もあり、もっと早く足を運ぶはずでしたが、なかなか機会に恵まれず。ようやく訪れることのできたミニシアター「K2」を紹介しつつ、そこで鑑賞した現在公開中の『わたし達はおとな』も併せて紹介します。
ミニシアター「K2」
大学の時に上京してから、何度となく訪れている下北沢。思えば、もう30年近く通い続けているお気に入りの街です。ここ数年の変貌ぶりは驚いてしまいますね。一抹の寂しさを覚えつつも時代の変化には逆らえないものなのかとも感じています。
かつて1980年代から2000年代にかけて、東京にはミニシアターブームが起こりました。この下北沢街にもその流れは押し寄せ、1990年代にはミニシアターが2つオープンしました。
現在も存続している「下北沢トリウッド」と映画製作スタッフが作り上げた「シネマ下北沢」です。「シネマ下北沢」は惜しまれつつも2008年に閉館しています。
そんな下北沢に新たに誕生したのが「K2」というミニシアター。座席数70席。日替わりで上映スケジュールを組み、旧作から新作までジャンルを問わず、さまざまな映画を鑑賞することができます。
劇場と同じフロアにはカフェも併設されており、コンセッションとしても利用できます。筆者が利用した際の客層は幅広く、高齢のご夫婦らしい2人組や若者といった、いかにも下北沢らしい客層でした。末永く下北沢という街に根付いていってほしい劇場です。
映画『わたし達はおとな』
新しいミニシアター「K2」で鑑賞した記念すべき1本目に選んだ作品が映画『わたし達はおとな』です。注目の新鋭監督・加藤拓也の描くあまりにもリアルな若者たちの恋愛を描いた作品。
新しい劇場で鑑賞するにふさわしいフレッシュなスタッフとキャストで構成された映画です。詳しく紹介していきます。
映画『わたし達はおとな』とは
メーテレと制作会社ダブが共同で企画を進めている【(not)HEROINE movies】。“へたくそだけど私らしく生きる”等身大の女性のリアルをつむぐ映画シリーズとして、次世代を担う映画監督と俳優たちを組み合わせたプロジェクトです。
新鋭監督・加藤拓也
今回そのプロジェクトのひとつとして監督起用に白羽の矢が立ったのが加藤拓也。オリジナル脚本『わたし達はおとな』で長編映画デビューを果たしました。18歳でイタリアへ渡り、映像演出を学び帰国後、「劇団た組」を立ち上げた逸材です。
『俺のスカート、どこ行った?』や『死にたい夜にかぎって』などの連続ドラマの脚本を担当しつつ、舞台演出も手掛けてきた加藤。徹底したリアリズム、独特の視点で描く人間模様、痛いくらいの共感を呼び起こすセリフ。その実力は今後も注目されていくことでしょう。
日本映画を担う実力派俳優たち
加藤拓也の独特な世界観を表現するために必要不可欠なのが演じる俳優陣の高いスキルです。俳優陣に実力がなければ成立しません。
そんな中で起用された俳優たち。主人公の優実を演じる木竜麻生は、今や押しも押されもせぬ映画監督、瀬々敬久が見出した俳優です。映画『菊とギロチン』で主演を務め、続く野尻克己監督作『鈴木家の嘘』でもヒロインに抜擢されました。各映画賞の新人賞を総なめにした期待の新人です。
優実の恋人・直哉を演じるのは藤原季節。故・松田優作の妻、松田美由紀に見出され芸能界デビューを果たします。『佐々木、イン。マイマイン』で主演を務め、『his』『くれなずめ』『明日の食卓』『のさりの島』『空白』など多くの映画に出演しています。
そのほか脇を務める菅野莉央、桜田通、山崎紘菜などの若手実力派と片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太といったベテラン俳優陣が集結。これ以上ない俳優たちが揃いました。
あらすじ
主人公・優実はデザインを学ぶ大学生。仲良しの4人組で旅行に出かけ、まだ経験のないことなどとりとめのない話で盛り上がる普通の大学生です。元カレの将人からは、ことあるごとにアプローチされ、うんざりしていました。
そんなある日、大学の同級生が所属している演劇サークルのチラシを作らないかと声を掛けられます。快く引き受ける優実。演劇サークルの演出を手掛ける直哉を紹介されます。
チラシの作業が進むうちに、徐々に近づいていく優実と直哉。デートを繰り返すうちに半同棲状態となっていきます。そんな毎日の中、体調を崩す優実。心当たりのある優実は、妊娠検査薬で検査をするのでしたが......。
斬新なカメラワークに痛いくらいリアルなセリフ
最初のうちは執拗なまでに“ヨリ”が続いていくカメラワーク。観客の不安感を煽っていきます。そして、冒頭から優実の衝撃的な告白。そこから、物語は優実と直哉の2人の過去に遡っていくのです。
特に優実と直哉の会話が秀逸で、本作のみどころのひとつ。まるで、脚本が存在していないのではないかと思わせるくらいのリアリティをもって、主演の2人が演じていきます。
加藤拓也のつむぐセリフひとつひとつに心が揺さぶられていくことに。特に藤原の芝居が上手過ぎて、嫌な気持ちでいっぱいになってきます。この木竜と藤原の絶妙な芝居は必見の価値ありです。
また筆者のお気に入りのシーンは、ラストのエンドロール。カメラは長回しのまま、優実が朝食を作って食するまでをひたすら流し続けています。
この前のシーンからの流れ、映像センス、演出センスには脱帽でした。ぜひ、チェックしてみてください!
kayser