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七十八話 進行

 全員が飛び降りると、班長は新兵を集合させた。
 「連隊まで七キロあるから、今のうちに小便しとけ!」
 
 依然、厳しい表情での命令だ。
 この地に着いてから、班長の態度が明らか打って変わった。急変、否、一変したと言ってもいい。裏を返せば、浅井ら新兵たちは、今までお客さん扱いされていたのだ。
 
 班長の本当の姿に触れ、新兵たちは、蜘蛛の子のように高粱コーリャン畠に散り、放尿する。
 すると乾いた寒風が逆風にあおられ、小便が顔にリバースされて来た。
 
 「うおぉー--」
 ただでさえ極寒の寒風だ。それが尿という水分を伴い勢いを増す。自分の小便だけならまだしも、周囲の他人の小便まで飛んで来るので、たまったものではない。
 小便しながら、皆互いに逃げ回る――高粱コーリャン畠で異様な現象が起きたいた。

 「集合!」
 班長の命令だ。だだっ広い高粱コーリャン畠に、新兵たちは再び集る。整列が終わると、馬に乗った輸送司令が姿を見せた。

 浅井ら新兵を乗せた輸送列車には、日本馬も多数運ばれていた。しかし、輸送司令が乗っている馬は彼の当番兵が連隊から曳いて来たのだろう。輸送司令自身の馬らしく別格だった。
 「身体つきもよく、その上栗毛だ。様になっている・・・」
 浅井は、しばし見入ってしまった。

 輸送司令は、各班長から新兵の員数を聞き、確認を終えると「出発!」と号令。自らの馬を先頭に歩き出す。そして、各班長は新兵に四列縦隊を作らせ、輸送司令の後に続く。行進が始まる。
 
 浅井ら新兵たちはこの行進の練習を佐倉連隊の営庭でさんざんやらされていた。そのため皆戸惑うことはなかった。逆に「ここで来たか!」という感じだ。
 機敏に四列縦隊を作り、枯れた高粱の茎を踏みしめる。日頃の鍛錬の甲斐あり、スムーズに進行した。

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