2020年映画ZAKKIちょ~ 25本目 『恋するけだもの』
2020年製作/上映時間:86分/日本
劇場公開日:12月5日
鑑賞劇場:アップリンク渋谷
鑑賞日:12月16日
けだもの×バケモノ?!もう好きになったら止まらない!純愛気ちがいバイオレンス!
【あらすじ】
田舎町で働く内気な青年・宙也。ある日、謎の関西弁の女装男が現れ、宙也にひと目惚れをする!
2018年に制作された18分の自主製作短編「恋のクレイジーロード」を長編映画として白石晃士監督自らリブートした、とんでもバイオレンスラブストーリー。
「恋のクレイジーロード」は未見の状態であったが、白石監督の5年ぶりのオリジナル長編というだけでも興味をそそられた。
また、上画像のポスタービジュアルの原色バリバリのポップな色使いが気になるし、どことなく80年代邦画感漂うタイトルフォントなども惹かれるものがあり、内容はまったく調べず、軽い気持ちで劇場へ足を向けた。
○良かった点
良かった点は下記2点。
1.登場する役者が濃い!白熱の演技合戦
2.おぞましくも無垢な恋!ド直球ラブストーリー
1.登場する役者が濃い!白熱の演技合戦
白石晃士監督による久々のオリジナル長編ということで、ありきたりな作品が作られるわけがない!
本作には7人のキャストが登場するが、その誰もがそれぞれ忘れられない演技をスクリーン上で見せてくれる。
まず何と言っても、本作一番の強烈なインパクトを放っているのが、“江野祥平”こと宇野祥平だろう。
白石晃士作品における、宇野祥平が演じる”江野祥平”は「オカルト」「超・悪人」「殺人ワークショップ」「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章」などの作品で同名のキャラクターとして登場している。
それぞれの作品のなかで、様々な人格で”江野祥平”を演じ分けてきた宇野祥平だが、本作で演じる”江野祥平”はこれまで以上に、人智を越えた対話が通じない気ちがいレベルのヤバさで面食らった。
傍から見れば、新世界のピンク映画館に出没して相手を物色してそうな関西弁のヒゲ面の女装オヤジだが、スコップ捌きで銃弾を跳ね返すし、格闘になってもやたら強えし、自分の意中の相手(男性のみ)じゃなかったら問答無用で殺すし、絶対に絡まれたくない人物。
それに加えて、実は人間じゃない?!と思わせる描写も出てくるし、久々に「目に見えているものがすべてではない」という言葉を思い出した。
江野祥平の股間に何が付いているのか、想像を巡らせるだけでも一日過ぎてしまう。
想像させる余地を与えてくれるのも映画の醍醐味。
本作の主役である田中俊介扮する宙也、いじめられ体質の気弱な青年…というわけでもなく、オープニングから何やら不穏な動きを見せて、タダモノではない雰囲気を匂わせていく。
クライマックスでは、元BOYS AND MENならではのダンスで鍛えたダイナミックな身のこなしを見せ、白石監督作品としては観た事が無い本格的なアクションシーンが目を引く。
田中俊介は人間とは別の生き物のような不気味な役柄も演じ分けていて、ゾクゾクする。
そんな主人公の宙也と”江野祥平”と敵対する関係となる工務店の社長(木村知貴)と同僚2人(細川佳央、上のしおり)。
何と言っても、冒頭の宙也に対するパワハラシーンはかなり迫真なもので、いい加減しつこいと思うほどねちっこく見せていき、なかなか観てて辛い。
もちろん、その後のカタルシスを高める為に必要最低限のシーンであることは分かるのだが、やたら長く感じる。
しかし、このパワハラシーンを観ながら気づいた。
この劇場って、代表者がパワハラで元社員たちに提訴されてるし!
そう思い出したら、今この劇場で観ているという体験で、リアルとフィクションがない交ぜになったような、居ても立っても居られないゾワゾワした気分になった。
さすがに劇中のように、リアルではションベンを飲ませるようなハラスメントまではしていないだろうが。
筆者はこうしたパワハラ案件になると過剰に反応する節があるので、このニュースを知ってからというものの、本当はもう二度とこの劇場には足を向けたくなかったのだが、本作を上映しているのがココしか無かったからやむをえず。
しかしやむなく向かって観た映画の冒頭からパワハラシーンという、何たる偶然か。
パワハラしていいのは映画の世界だけ!リアルではダメ!
そのほか、「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズでおなじみ、みんな大好き大迫茂生&久保山智夏コンビも出演しているぞ!
スナックのママとボーイという、抜き差しならぬ男女関係を一触即発のぶつかり合いで演じていて、この2人の絡みを観てるだけでしみじみニヤニヤしてしまう。
(余談だが久保山さんはメイキング映像などで、笑顔の時に見せる八重歯がキュート!)
最初から最後までまったく飽きさせず、各役者陣の演技が作品を引っ張っていくところが本作最大の魅力と言える。
2.おぞましくも無垢な恋!ド直球ラブストーリー
本作は、”江野祥平”と宙也による、人智を越えたスピリット・アニマル2人のぶつかり合いの記録であり、純情恋物語でもある。
常に男を物色し、「付き合って!」と猛烈なアタックを断ると問答無用で抹殺する、傍から見ると厄介な女装おじさんの”江野祥平”が初めて、花束みたいな恋をした相手が宙也である。
特に注目なのは、”江野祥平”が初めて宙也を見初めるシーン。
少女漫画かよ!って思うくらいにスローモーに情緒たっぷりに見せていき、どう見てもヒゲ面のヅラおじさんの”江野祥平”が、乙女に見えた瞬間である。
最初から最後まで”江野祥平”はピュアで一途である。
その盲目的とも言える純愛ピュアネスは一環として貫き通され、結局、頑なに拒んでいた宙也の心さえもほのかに動かす事となるのである。
前述した「目に見えているものがすべてではない」という言葉が再びラストシーンで浮かんでくる。
宙也を一途に愛す”江野祥平”の熱情に、何か大事なことを教わった(ような気がした)。
◆結論
以上のように、表面上は、”江野祥平”のビジュアルインパクトもあり、頭のおかしい連中が出てくる変態気ちがい映画っぽく見えがちだが、その実、映画としては実にスッキリとまとまって見やすい、各役者陣の演技が冴え渡る、86分あっという間のアクションバイオレンスラブコメディの傑作である。
上映館は少ないが、時間を作って劇場へ出向くだけの価値はある。
それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。