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2020年映画ZAKKIちょ~ 15本目 『SKIN/スキン』

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2019年製作/上映時間:118分/R15+/アメリカ
原題:Skin
劇場公開日:2020年6月26日
観賞劇場:新宿シネマカリテ
観了日:7月1日

全身入れ墨男子が、ぽっちゃり女子に恋をした?!

 2003年にアメリカで発足されたレイシスト(差別主義者)組織「ヴィンランダーズ・ソーシャル・クラブ」の主要メンバーであったブライオン・ワイドナーの実話をもとに製作された本作。

【あらすじ】
全身憎悪のタトゥーまみれの差別主義者が、初めて愛を知った時、決死の覚悟で更生の道を歩む!

 日本に住んでいると、差別の問題についてはどうしても対岸の火事で、意識的に人ごとのように感じられてしまう。
それは日本で生活していて誰かに日本人であることを馬鹿にされた事が無いから。

ただ、世界に視野を広げてみると、いまだに各国で人種差別は根深い。
ちなみに筆者は高校生の頃に、幸運なことに抽選でフランス・パリ7泊8日旅行が当たった事があるのだが、街中を物珍しげに見て歩いていた我々日本人ツアー団体に向けて、パリ地元のフーリガンみたいな若者数人に「ヘイ!ジャップ!」的な罵倒のようなものを大声で食らった覚えがある。
(ハッキリと何を言われたのか分かっていなかったが、小馬鹿にしたような口調だったことは覚えている)

しかし、例のウイルスが今年、世界的に蔓延したきっかけとなったのが、中国・武漢ということもあり、いつか欧米諸国などに再び海外旅行が出来るようになった時に、どこかの街で不運にも差別主義者と遭遇してしまったら、同じアジア人というだけで一緒くたにされて、「このウイルス野郎!」と罵倒だけにとどまらず、理不尽に石を投げられ暴行されることが今後起こり得るかもしれない。

 今年の春に北米を発端に巻き起こった差別主義に対する「BLACK LIVES MATTER」運動も記憶に新しい中、差別主義者団体とはどういうものなのか、それを脱会するということはどういうことなのか、興味が湧いたので、劇場へ足を向けた。

以下、「良かった点」と「良くなかった点」。

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○良かった点

 実話を基にしているからか、リアリズムに徹した作りで、ハードな展開にハラハラさせられながら更生しようとする男の覚悟を見守る気分で最後まで観終わった。

 スキンヘッドに全身タトゥーメイクで臨んだ、主演のジェイミー・ベル演じるブライオンの、序盤のレイシスト集団の暴動のさなかで、黒人を切りつけるなどの暴力や、タトゥーショップで組織の女と乱暴なセックスに励む激しい側面を最初に描きながら、彼の人生を完全に変えるきっかけとなる運命の女性、ダニエル・マクドナルド演じる3人の娘を育てるシングルマザーのジュリーとの出会いで変わっていく、心の動きの変化が良かった。
人と人が出会っただけで、ここまでガラッと人生観が変わることが興味深い。

 
ジェイミー・ベルと言えば、主演作「リトル・ダンサー」で華麗にくるくるターンしたり、バレエを踊りまくるほっそい少年というイメージが鮮烈に焼き付いている。
そんなか細かった少年が19年後にはスキンヘッドに全身タトゥー男を演じているのだから、味わい深い。

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 ブライオンの全身のタトゥーは、レイシストを象徴する憎悪とマチズモを示す誇りに満ちた揺るぎないアイデンティティーだったが、ジュリーと出会うことでそんな強い信念のタトゥーすらまるで意味のないものに感じるほどに人生観揺らいじゃうんだから、純真な愛の力の凄さを感じずにいられない。

 それまでハード・レイシストだったブライオンが、ひと目でZOKKON命(LOVE)しちゃった女性ジュリー、見た目はふっくらぽよんとした、3人の娘を何よりも大事にする肝っ玉母さんである。ブライオンはそこに優しく温かい母性を感じたのだろうか。それとも単に太めの女性がストライクだったのだろうか。

なんにせよ、ヒロインの女優さんは細いモデル体型みたいなありきたりな人材を起用せず、ふくよかな女優をヒロインにチョイスしている時点で作品のリアリティに対する本気を感じたし、説得力ある演技を見せつけられた。

2人の馴れ初めから、愛が成就し、色々な苦難が降ってきて、それぞれの誤解が生じて喧嘩別れしても、それでもまた元サヤに戻る2人の道程は観ていてやはりハラハラする。
本作は実話を基にした社会派ドラマとしてだけでなく、ラブストーリーとしてもむちゃんこ良かった。

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 そんな素晴らしい愛を知ったブライオンはさっそく、ずっとお世話になっていたレイシスト組織を抜けようとするが、組織は脱会を許さない!絶対に許さな~い!
脱会することは他人への情報漏えいを意味し、組織の崩壊につながるから。

子どもが出来なかった組織のボス夫妻は、街を歩いていた貧困少年を「飯を食わせてやる」とスカウトするなど、ブライオンほか組員を自分の子供たちのように洗脳する疑似ファミリーとしての組織を形成した、絆の深いコミュニティだったので、そりゃあ抜けるのなんか、コンビニのバイトのようにたやすいわけがない。

 そんな組織の執拗な追跡や報復をどうやってブライオンはかいくぐっていくのかが本編の見どころのひとつ。

 そして、本編冒頭から終盤までカットを分けて随所に見せていく、ブライオンのタトゥー除去手術シーン。
実話のブライオン氏のドキュメンタリーによると、そのタトゥー除去手術は計25回、16ヶ月に及ぶ過酷なものだったらしい。

レーザーかなにかでタトゥーにバチッと当てて消していく様子は、タトゥー入れるのも痛いのに、除去するのも凄く痛そうで観ていてなかなかキツい。

過去の自分との決別の儀式は、ここまで痛みと覚悟を伴うモノなのかと舌を巻く。
下記、実在のブライオン氏の除去手術によるビフォアアフター。こんなキレイに取れるもんなん?!

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×良くなかった点

 組織にいた時も抜けた時も常にブライオンに寄り添う、本当の家族のような存在の飼い犬・ボス。そのボスが酷い仕打ちを受けるのは、良くなかったというか、どうしても見てて辛いものがあった。これも実際にあったことなんだろうか。
これがジョン・ウィックだったら、即座に組織を壊滅させていたことだろう。

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結論

 本作の監督・脚本を担当したガイ・ナティーヴ監督は、これが初長編デビュー作品。本作の前に制作された、同じテーマである21分間の短編「SKIN」は、2019年アカデミー賞・短編賞を受賞。本作も様々な映画賞を受賞していることもあり、今後が期待される監督さん。
デビュー作とは思えない粗削りの部分が感じられない、どっしりとした作り込み具合だったので、これからも社会派ドラマなど撮っていくに違いない。

組織を抜けることがどれだけ大変なことか知りたい人にオススメ!

 それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。


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