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2020年映画ZAKKIちょ~ 28本目 『私をくいとめて』

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2020年製作/上映時間:133分/G/日本
劇場公開日:12月18日
鑑賞劇場:TOHOシネマズ錦糸町オリナス
鑑賞日:12月19日

ひとりでなぜ悪い!さりとて恋すれど妄想!暴走!ラブコメディ

【あらすじ】
おひとりさま暮らしを満喫する31歳の黒田みつ子。彼女の脳内には相談役「A」が存在し、何か困ったことがある時には会話して問題を解決し、平和に暮らしていた。ところがある日、取引先の若手営業マン・多田に恋心を抱いてしまった!

 2017年に松岡茉優主演で公開され、数々の映画賞を受賞し、興行的にもロングランとなった、妄想女子の恋路を描いた傑作「勝手にふるえてろ」から3年。
同じく綿矢りさ原作による、大久明子監督作品の最新作が本作。

前作である「勝手にふるえてろ」は、サブカル女子の恋愛物という内容と監督のユーモアのセンスがなんだか妙にハマってしまい、劇場で3回くらい観に行ってしまうほど好きな作品。

綿矢りさとのタッグによる大久監督の最新作というだけでなく、今回は映画作品としては、2014年の「海月姫」以来となり、のん名義としては初の実写主演作ということで事前情報だけで期待値がグングン上がる中、遂に暦の上ではディセンバーに公開の運びとなり、さっそく劇場へ足を向けた。

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○良かった点

1.観ててニヤニヤ!不器用だけど微笑ましさ満載の恋模様
2.2020年以降のディスタンス時代だからこそ沁みる「おひとり様」の意味

1.観ててニヤニヤ!不器用だけど微笑ましさ満載の恋模様

 のんと言えば、日本アニメ史に残る歴史的作品となった2016年製作「この世界の片隅に」の、戦時中でありながら日々をたくましく生きる主人公、北條すずを演じ、ふんわりした声質と素朴な透明感がまだ記憶に新しい。
(さりとて最近、彼女が自分の肩書きとして名乗っている「創作あーちすと」という言葉については非常にモヤモヤさせられる)

実写作品である本作において、そんな彼女が演じるのは、のんの実年齢より年上という設定の31歳OLの、みつ子という独身女性で、なんでもひとりで行動して楽しんでしまうという現実にも普通にいそうな役柄。

そんなみつ子は、かっぱ橋へ食品サンプル作りの教室に行き、天ぷらのサンプルを作って、その帰りに本物の天ぷらを買って、両方テーブルに並べて間違えて食品サンプルの方を箸に取って「お~とっとこっちじゃねぇよ!」と食べるふりをして、なんだかひとりで楽しそう。

ただ唯一、異常性を感じるのは、一人、自分の部屋にいる時に、「A」という名の脳内の相談役と実際に声を出して会話をしているというところ。
頭の中にそういう別人格のようなものが住み着いていて、脳内で会話するとか、独り言をぶつくさつぶやくならなんとなく分かるけど、声に出して会話しているのはだいぶ電波飛んでてヤバい。

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 本作はそんなみつ子と、お得意先の営業マンであり、年下の男性である多田くんとの恋愛経験の少ない2人による、不器用な恋路を、くすっと笑える独特なユーモアを盛り込んで描くラブコメディ。

「ひとりになりたい」けど「繋がりたい」という2つの反する気持ちが交錯し煩悶するみつ子と、どうにも傍から見て好青年すぎる多田くんとの、うぶなやりとりを観ているだけでニヤニヤが止まらない。

そもそも冒頭、いきなり出会ってそんな日にちも経っていない中で、みつ子の家に手料理の夕飯を作って貰って、ジップロックに詰めて貰って玄関で待ってる多田くんとか、「ちょ待てょ、いきなりどんな距離の詰め方だょ!」と最初は心の中でツッコミを入れたもんだが、嬉しそうに夕飯を用意してるみつ子の姿を観てると、またニヤリ。

 健全な20代男である多田くんを観てると、同じ男性目線からすると、ちょっとみつ子に対してプラトニックすぎやしませんかい?と思っちゃったりもする。
みつ子ん家にあがって2人で手料理を食うタイミングが割と最初の段階であったのに、飯食っただけですぐ帰って何も無いってのはちょっと良い子すぎでしょう。
これが俗にいう、草食系男子というやつなのだろうか…。

たとえその場で発情して行為を起こさなくても、何かしら進展のアクションを起こしてもいいんじゃないかと、何を考えているのかよく分からない多田くんを観ていて思う。
もちろん、みつ子もあの時点では多田くんが何考えてるのか分からなかったんだろうな。

そもそも付き合ってもいない女性が、そう簡単に男性ひとりを家にあがらせないだろうし、あがらせたってぇ事は、もうその時点で脈ありサインでしょうが!そうしたサインを気づいておきながら敢えて鈍感な振りして、そのサインをスルーすることが相手を傷つけることだってあるんだぞ?!

なんだか、筆者の脳内の「A」が文句を言い始めましたが、それでもこの2人のやり取りは観ていて、終始ニコニコ。

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2.2020年以降のディスタンス時代だからこそ沁みる「おひとり様」の意味

  パンフの情報によると、本作のクランクイン日は2020年3月16日。
つまり、世界情勢的にコ口ナ禍がじんわりと起き始めているなかで撮影が始まったことになる。
一度撮影は中断され、脚本は改稿され撮影プラン変更に伴い、国境を越えられないという事情からイタリアロケの予定を、国内撮影に余儀なくされるという事態に。(同年7月4日にクランクアップ)

 本作には明確に語られないものの、単純に独身女性の「おひとり様」ライフと年下くんとの恋を描く中に、現実で起きているコ口ナ禍における他者との距離感にもついても活写する。

 本作中盤の山場となる、みつ子がイタリアまで出向き、移住して結婚し子供を身籠っているみつ子の親友である皐月(橋本愛)に会いに行くシーンで、マスクをして、家から出るのが怖くなってしまったという皐月が、まさしくそれを表している。

「世界の異変、不穏な空気を誰よりも早く察知せざるを得ない役割を担ってほしい」と監督が橋本愛に指示したとのことで、皐月とみつ子のイタリアパートは本作において、どこか異質かつ深みを与える描写となっていた。

ちなみに、このイタリアパートは正直、筆者はパンフ読むまで国内ロケと知らず、「おととしイタリアにロケに行ったのかな?金かかってんな~」と呑気に思ったくらい、違和感なく、みつ子がイタリアに行っているように見せてくれていた。

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 本作は自粛、自重などで家にひとりで籠りがちな今だからこそ刺さる作品でもあった。

独身OLの気ままな一人生活を描きつつも、前述のイタリアに住む皐月との再会、何を考えているか分からない多田くんとの掴めない距離感なども描かれるなかで、より他者との共存の尊さが浮き彫りになる。

ひとりは気楽で何でも出来て楽しい。だけど、それだけでは何かが欠けているような気がする…。


そうした事を含めて考えさせられてしまう、ディスタンス時代の今こそ観られるべき、エンターテインメント作品になっている。

 さらに、劇中で、みつ子が苦手な飛行機に乗るシーンで大々的にかかる、大瀧詠一の「君は天然色」が、機内に飛び交うカラフルな言葉のバルーンと共に、本作にポップな彩りを与えてくれている。

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◆結論

 以上のように長々と書いてきたものの、筆者の感想を一言で要約すると下記。

「好き!」

もうこの言葉を叫ばずにいられない作品である。

上述の通り、みつ子と多田くんとの絶妙な距離感だったり、イタリアパートでの皐月との心の結びつきなど、監督独自のユーモアと志を大いに感じる事が出来る、個人的にも大好きとなった傑作となっていた。

それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。


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