2020年映画ZAKKIちょ~ 6本目 『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』
2019年製作/上映時間:110分/R15+/ドイツ・フランス合作
原題:Der Goldene Handschuh
劇場公開日:2020年2月14日
観賞劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町
観了日:2月15日
驚きの実話!
1970年代ドイツに実在した連続殺人犯の淡々とした生活風景を描く、
サスペンススリラー。(ブラックコメディ的でもある)
監督は「女は二度決断する」「ソウル・キッチン」「愛より強く」などの代表作があり、カンヌ映画祭で審査員を務めるなど、ドイツを代表する映画作家ファティ・アキン。
【あらすじ】
ハンブルクにある安アパートの屋根裏部屋に暮らすフリッツ・ホンカ。彼は夜になると寂しい男と女が集まるバー「ゴールデン・グローブ」に入り浸り、酒をあおっていた。鼻が曲がり、歯がボロボロな容姿のフリッツが店で出会った娼婦を次々と悪臭の漂う家に招き入れ、一人また一人と手にかけていくのだが!
ドイツ映画はあまり観る事は無いが、予告編を観たり、前評判を聞いたりして、殺人鬼の生活を描く作品として期待を込めて、劇場へ足を向けた。
以下、「良かった点」と「良くなかった点」。
○良かった点
何はともあれ、メインビジュアルにデカデカと映し出されている事から察しられる通り、ヨナス・ダスラー演じるフリッツ・ホンカの胸クソ悪さよ!
これに尽きる。
上の場面写1枚だけで理解できる異常性よ!
1970年代に5年間で4人の中年娼婦を殺害した実在の人物フリッツ・ホンカ。
さらにもともと交通事故で鼻が潰れて、両目も焦点が合っていない醜い風貌だった事も加わって、監督が子供の頃、イタズラをすると大人に「気をつけないとホンカがやってくるぞ!」とよく言われていたというほど、ドイツでは恐れられた存在という。
しかも驚きなのが、劇中でホンカが娼婦を物色する為に訪れるバー“ゴールデン・グローブ”は現在でも実在しているとのこと。
そんなホンカが、「鶯谷デッドボール」にいそうな40~50代の中年娼婦を集中的に狙っているのは、けしてデブ専なわけではなく、単純に誘ったらたとえホンカがどんなに醜悪な見た目でもホイホイ付いていってしまうからだ!
さらに実在の彼の性的嗜好として背が低くて、歯の無い女性が好みらしく、理由としては自分が160センチちょっとしかないのと、口淫の時に男性器を噛み千切られるかもしれないという恐怖心を持っていたかららしい。
なので、本来は「若い子が好きだ!」と酒場で見かけた女学生を妄想の対象にするホンカは、けして珍しくない、どこにでもいる普通の男といった印象を受ける。
しかし、ホンカが住む屋根裏部屋は、常に悪臭が漂っていて、
観ていて臭いが伝わってくるよう。
悪臭の原因については、観てのお楽しみ!
娼婦を殺害していく様子が、時にスプラッター的に、時に娼婦とくんずほぐれつの中で描かれていくのが、なかなかにリアル。
常に「シュナップス」(ドイツ産のアルコール40度以上の焼酎)の瓶を手離さないほどのアルコール依存症だったホンカが酒を断った途端、殺しも止める描写は分かりやす過ぎて面白かった。
不思議なのは、こんな人間として踏み外すほど最低な行為をした、鼻が潰れて目の焦点が合っていなくて極端な猫背のこの男を筆者は嫌いになれなかったという事だ。
いやそれどころか、反省した彼が生活改善の為に酒を断って真面目に夜警の仕事に転職した時にはむしろ「がんばれよ!もう何も事件起こすなよ!」と心で応援したくなってしまったほどだ。
それというのも、ホンカ自身が低所得層の人間で、交通事故で顔面が潰れ、脳の機能も一部欠落し、更にアル中という環境下の男で、正直「ジョーカー」のアーサー・フレック以上にドン底な男なのである。
更に本作の大きなトピックとして、40代の醜い風貌のホンカを演じるのが、若干22歳の美青年俳優ヨナス・ダスラーという点も衝撃的なのである。
以下の動画は、そんな美青年俳優がおぞましい風貌に変わっていく、精度の高いビフォアアフターの特殊メイキング映像。凄い技術。
女性ファンからしたら、複雑な気分になるだろうが、演じる役者からしたら、チャレンジングな役柄だし、やりがいあったんだろうなと想像できる。
そして、まったく前情報を入れていなかった自分としては、後で知って本当にビックリした件でもあった。
×良くなかった点
作品として見せる説得力としては絶対的にプラス要素なんだけど、40~50代の中年娼婦(軒並み、もの凄く巨漢か皺くちゃ)の裸体が惜しげも無く披露されて、正直ビジュアル的に、観ていて相当キツかった。
老け専、デブ専嗜好の人なら眼福かもしれない。
もはやバーで酒を飲んだくれるか身体を売ることくらいしかする事のない底辺の女性のリアリズムが見事に描かれていて、残忍な殺害シーンよりも中年娼婦の肉だるまのような、たるんだ裸体を見せつけられる方がよほど残忍だった。
ただ、面白いと思ったのは、ホンカが性の妄想の対象とする、若い女学生の将来の姿が、バーでたむろする中年娼婦なのではと観客に見せていくところ。
若さや生きがいを失った末路すらも描かれていて、胸に沁みた。
結論
最近は、「ジョーカー」や「パラサイト 半地下の家族」など、底辺の人間を描く映画が評価を得ているが、その2作を遥かに超越するドン底っぷりを楽しめて、クスッと笑えるところも多々ありながらも、絶望的な気分になる作品としてオススメしたい!
それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。