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2020年映画ZAKKIちょ~ 22本目 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

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2020年製作/上映時間:140分/G/日本
劇場公開日:9月18日
鑑賞劇場および鑑賞日:丸の内ピカデリー(1回目 9月18日)、グランドシネマサンシャイン VESTIA(2回目 9月26日)、丸の内ピカデリー DOLBY CINEMA(3回目 11月14日)

「愛してる」の意味を真摯に伝える、京アニ渾身のアニメーション大作

【あらすじ】
戦時中に、感情を排した無敵の兵士として訓練された少女ヴァイオレット・エヴァーガーデン。
彼女は敵国との戦闘中により両腕を失いながらも、戦後、「自動手記人形」と呼ばれる手紙の代筆業の職に就き、徐々に人の心を知っていく。
そして幼少期より愛情をもって育ててくれたギルベルトが、戦後もどこかで生きていることを信じ、彼への思いを抱えて生きていた。
ある日、ヴァイオレットが働くC.H郵便社に宛先不明の一通の手紙が届くのであった!

 暁佳奈氏によるライトノベルが原作で、2018年に京都アニメーション制作でテレビ放送され、その美彩な作画に加えて、手紙を通じて人と人とを結ぶという普遍的なテーマや、エモーショナルな作風から、日本のみならず海外でも人気を博しているアニメーション作品の完全新作劇場版。

 まず最初に言っておきたいのは、本作は、この壮大なラブストーリーを締めくくるシリーズの完結編であるということ

「え~、まったく観た事ないし、わかんないよ」と、
思った人もちょっと待って!
そんな人でも、いきなり劇場に足を運んでも楽しめるように、本作1本でも、回想などで過去のシーンを描いている為、なんとなくキャラクターの背景が分かるようにチューニングされていて、作品としては成立している。

 ただし、TVシリーズ13話+OVA1話+昨年9月公開の「外伝」(すべてNetflixにて独占配信中!)を踏まえてから本作を観ると、もちろん発涙量の差が段違い。
TVシリーズを観ていたら、主人公のヴァイオレットの想いに、ギルベルトの優しさに、すっかりと感情移入してしまっている自分がいる事に気づく。

筆者も当然、すべてのシリーズを踏まえた上で、テンション的にも感情的にも一番昇り詰めた状態で劇場へ足を向けた。

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○良かった点

良かった点は下記3点。

1.大号泣必至のエモーショナルのつるべ打ち
2.
京都アニメーションの底力を感じる人物、背景描写
3.ドラマチックな物語を盛り上げる
劇伴曲の数々

1.大号泣必至のエモーショナルのつるべ打ち

 本シリーズの一貫している特徴であり、最大の魅力は、手紙のやりとりを通じて、揺れ動く人の心を優しく、繊細に、真摯に、情熱的に、ドラマチックに、エモーショナルに活写している点。
これはTVシリーズから本作まで貫徹していた。

 たくさんの人が犠牲になった戦争を経て、国が復興していき、文明や科学が進歩していく街で、人々が暮らし生きていくという、どこの国でも現実にあるような、普遍的な話である。
ゆえに、主人公だけでなく、その他の登場人物ひとりひとりにも人生があり、ドラマがある。
TVシリーズは、ヴァイオレットの手紙の代筆業を通して、様々な立場の人々の、手紙を届けたい相手とのドラマを経て成長していく彼女の姿を描いていった。

そのエピソードを通じて、最初は人の心がまったく分からない、それこそ「人形」のようだったヴァイオレットが相手の事を考えて手紙を書くという行為から、徐々に人間的な感情を理解していく様子にも感情移入をし、都度、涙腺を刺激されてしまったものだった。

 そんなこんなで、完結編である本作。
オープニングからエンディングまで、エモーショナルのつるべ打ち。

これまでの物語の集大成であり、ヴァイオレットの揺れ動く心の終着を描いている。
「手紙」という人と人を結ぶ交信手段から、より便利で、声や息遣いを感じられる「電話」へと移り変わっていく文明の変遷を見せていく中で、人から人へ、想いを伝える事の重要性を本作は教えてくれる。

 本作を監督した石立太一監督は、舞台挨拶で、「この映画を観終わった後に、自分の身近な人、大切な人に伝えたいことを伝えられているのか、と思って貰える作品になってたらいいなと思っている」と述べていることからも、その意図がスクリーンから伝わってくる。

 そのほかに、本作が刺さる理由としては、それまで人形のように感情が欠如していた主人公ヴァイオレットが、人間らしく、一途な少女らしく、感情をむき出しに爆発させていく姿
それを観ているこちらも彼女に寄り添いながら感極まり、心が熱く昂り、気づいたら目尻から水滴がほろほろと落ちていく。

 それだけでなく、今回のヴァイオレットの依頼人である、入院中の少年ユリスのエピソードも更に被せてくるように泣かせ殺しにかかってくるのである。
過去の京都アニメーション作品でもおなじみの吉田玲子氏による見事な脚本が冴え渡る。

 映画のキャッチコピーで「ハンカチをご用意ください」といった、さぁさぁお泣きなさいお泣きなさい!的な煽り文句は好きではないが、本作はそんな無粋なキャッチを必要とするまでも無く、ちょっとでも涙もろい人からしたら涙腺ダム決壊映画なので、水滴を拭く物が必要なのは間違いない。

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2.京都アニメーションの底力を感じる人物、背景描写

 このアニメ作品が上品で美しい人間ドラマとなり得ているのは、京都アニメーションの技術を総結集した、キャラクターおよび風景の精緻な描き込みによる事も大きい。

 本作で描かれる街並みや、空、木々、海などや、目に優しい自然の風景、雨や風や水の描写、世界観に没入してしまうその映像美は、もはや世界基準のクオリティ。

 昨年7月の放火事件で35歳の若さで亡くなった美術監督の渡邊美希子氏による日常の光景や自然など、ただそこにあるものの美しさを追求した成果は、本作の、現実感を醸し出す世界観を構築するうえで大事な要素であることが観ていて分かる。

 キャラクターデザイン・総作画監督の高瀬亜貴子氏によるキャラクター造形は、美男美女を端正にかつ人間臭さを表現して見せる。リアル過ぎる人間の姿ではなく、そこはアニメーションの世界というファンタジー要素を盛り込んでいる。
流麗な風景に溶け込み、息づくキャラクター達の描写に、時に「はぁ…美しい」と嘆息したり、時に「おい、切なすぎるだろ!もうやめろ!」と熱くなったり、色々と感情を揺さぶられてしまう。

本作がスペシャルな傑作となり得ているのは、ドラマの世界へと没入させてくれる、この2つの要素によるところも大きい。

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3.ドラマチックな物語を盛り上げる劇伴曲の数々

 上述のように、繊細で精緻な描画だけでも凄いのに、本作は全編、日本のアニメーションとしては異例なほど美しく流麗でゴージャスなオーケストラ楽曲が響き渡る。
若手の作曲家エバン・コール氏が音楽を担当。

要所要所のシーンで、キャラクター達の心情を表現し、観客の気持ちを更に昂らせるように、鳴らされる劇伴曲がバチッとキマることで、極上のドラマが成立し、鳥肌すら立つカタルシスが生まれる。

録音はドイツのスタジオで行われたようで、本作のサントラを聴いていても、クラシックのアルバムのような上品さがあって大変耳心地が良い。

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◆結論

 日本が胸を張って世界に発信できるアニメーションアート作品であり、2Dアニメーションで現在出来る最上級の表現を駆使した極上のエンターテインメントである。

 本作の観客動員数は、9月18日の公開から11月8日までで、120万人を突破。興行収入が17億円を記録し、まだまだ現在進行形で更新中。

11月13日より、日本の新作アニメーション映画としては初のドルビーシネマ上映も始まり、その興行成績をどこまで伸ばすのか見どころ。

京都アニメーションの皆さま、「愛してる」の意味を教えて頂き、ありがとうございました!

それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。

©暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

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