体内ブラック企業 vs ペヤングの極激辛
この世のどんなブラック企業と比べても、
俺の体を超える劣悪な労働環境はないと思ってるんですよ。
この世界で最強のブラック企業は、間違いなく俺の体内やと。
何って脳のパワハラがすごすぎんのよ。
俺の脳って、体の事を何も考えずにエグい指示だけ飛ばしてきよるからさ、各内臓が目の下クマ作って死にかけてんのに、
「じゃあ、今からオールな!」みたいな事ばっかいうんすよね。
しかもその生活が30年近く続いてますから、
体は完全に社畜化しちゃって、とりあえず仕事引き受けちゃうんすよ。
それこそ俺めちゃめちゃ酒飲むんすけど、すぐ顔赤くなるんすよね。
多分やけど、そもそも俺はそんなに酒強く無いんやと思うんすよ。
なんか酒飲んで赤くなる人って、基本的に酒の免疫がない人なんでしょ?
それで無理やり飲ませてるんすから、もうイカれてもうてるでしょ。
唱和のアルハラですからね。今時、大学生ですらやんねぇっすからね。
弱い酒を死ぬほど飲ませるわ、
お腹弱いのにエブリデイ揚げ物で楽しむわ、
体からしたらたまったもんやない労働環境でございますよ。
中でも胃への風当たり。これが目も当てられんのですよ。
さっきちらっと言いましたけど、
俺はお腹がめちゃめちゃ弱いんすよね。
腹出して寝たらすぐお腹壊すし、
揚げ物も酒も、刺激物はてんでダメなんすわ。
まぁでも、弱いからこそ腹は余計に付け込まれてるんでしょう。
俺の脳は胃の事をまるで考えずに、すぐに口からものを捨てるんすわ。
一キロのつけ麺、食べ残されたピザ、油を吸い切ったコロッケ、シャガールみたいな淡い夜…
入らない、食べれないなんていう隙を与えず、
とにかく脳は手と口に「ほりこめ!!!」と指示を出して、
一旦胃に詰め込むだけ詰め込みよるんですよね。
俺の胃が労基に駆け込んだら、一撃で脳は業務停止やと思いますよ。
業務は年中無休で、パワハラを受けて、意見も言えないんですよ?
そんなん絶対イヤやもん。
俺が胃なら盲腸とかに転職するもん。
そんなかわいそうな俺の胃なんですけど、
初めて、パワハラ脳が「俺の胃がヤバい」と思った事があったんすよ。
この前、ペヤングの極激辛を食べたんすよね。
バラエティの罰ゲームとか、辛さ実証系の動画とか、
とにかく行き切った辛さが必要な時に必ずと言って良いほど登場する、
次元を超えた辛さが話題のペヤングで一番辛い焼きそばでございます。
俺はこの極激辛ペヤングを一度でいいから食べてみたいと思ってましてね、
事あるごとに近所のコンビニとかで探してたんですよ。
ってのも、よくテレビで辛いもん食べる番組ってやってますけど、
ほんまに?って思うことがちょいちょいあったんですよ。
そりゃ辛いから汗もかくでしょうし、
食べるのがしんどいってのはわかりますよ。
でも量が多くて物理的に食べられないとか、
臭いがきつすぎて吐き気がするとか、
そういうもんじゃなくて、ただただ辛いだけ。
んなもん、口に捨てりゃええだけでしょ。
まぁそんなことをずっと思ってて、
何の気なしに入ったビレバンで。
運命のご対面です。
「泣けるほど辛みが強い」なんて注意、読むはずがありません。
こっちは「肺がんのリスクを高める」って文句を読み飛ばして
たばこ吸うてるんですから、注意無視なんてお手のもんですよ。
秒で購入して、その夜早速食べることにしたんすよね。
お湯を入れて三分、ソースを入れてかき混ぜて、とりあえず完成でございますよ。
はじめ匂いがやべぇんやろうなって思ってたんすけど、
正直そこまででもないんすよ。
別に鼻を近づけてもむせ返るような感じでもないしさ、
たしかに辛そうな匂いはしてるけど、全然大したこと無いわけ。
ほんで昨日の残りのチキンナゲットと白ご飯とを机に並べまして、
とりあえず味わからんなるんもイヤやからナゲットを食うたんすよ。
もうおかしいんよ。
ナゲットが辛いんよ。
さっきペヤングを作ったときについたソースが残ってて、
それがちょっと口に入っただけで、爆裂に辛いんすよ。
言うてちょっと残ってたくらいっすよ?
いままでそれなりに辛いもんは食べてきましたけど、
ここまでの経験はしたことがなかった。
オラ、ワクワクすっぞ。
もうテンションもおかしくなっています。
夢の極激辛を前に、完全におのぼりさんでございますよ。
そしていざ、ペヤング極激辛を口に入れる時がやってきます。
まずは一口と、束をすくって口に入れる。
すすると同時に鼻に上げる猛烈な刺激。
そして押し寄せる怒涛の激痛。
いまわたし、硫酸飲み込みましたか?
もう盛大にむせ返ります。
そりゃそうですよ、こっちは硫酸直のみしてんすから。
ただ、口に入れたものは飲み込みます。
流石の脳もむせるまでは許しても、
口に入れたものを吐き出すなんて許すはずありませんからね。
その瞬間、口の猛烈な痛みに悶絶でございます。
もう辛いとかじゃなく、ただただ痛いんすよ。
すると次は口から喉から食道から、
ペヤングの通り道があまねく熱くて痛みだすんすよね。
こんなもん熱湯を飲まされる中世の拷問と状況は同じですよ。
ワクワクなんてしてる場合やなかったんすよ。
敵は思ってるより力をつけてたんですわ。
俺の脳も、臓器が悶えまわるあまりの惨状に、
流石に言葉を失っていました。
くちびるは痛みで腫れ、口の中は焼けるように熱く、
喉も食堂も悲鳴を上げています。
まだ汗も出ず、この状況が全身には伝わっていない様子だが、
最前線は一撃で瀕死の状況まで追い込まれている。
そして俺の脳は判断を下します。
よし、口に捨てよう。と。
この脳、馬鹿なんですよね。
食べ物を粗末にしてはいけない、って倫理観はあるのに、
体を大事にしようって根本が備わってないんすから。
その倫理観一辺倒で突っ走った結果生み出した奥義が、
「口に捨てる」ですから。捨てちゃってますからね。
そうときまれば、心を無にしてひたすらにペヤングを消費するほかありません。
俺の体も無茶ぶりには慣れてるからさ、
さっきまであんだけ「死ぬ!無理!」って言うてたのに、
脳に「いけるよな?いけるよな!」って言われたら、
「はい!」しか言わんようになるんよな。
もういける気しかせんのよ。
一心不乱に極激辛を口に入れまくって
気づいたら3分で完食ですよ。
流石のパワハラ脳も、体の損傷が甚だしい過ぎて放心状態ですわ。
そりゃもう体ボロボロですからね。
口を中心に激痛が止まらんですよ。
今まで体験したことない辛さに俺もさすがに体が心配になりましてね、
流石にこのままやと俺ヤバいやないかと思って、
とりあえず卵を持ってきたんすよ。
このまま激辛だけ腹に入ってる状態はヤバそうやないですか。
濃硫酸を希硫酸くらいにはしといた方が、
ちょっとはマシになりそうやと思ってさ、
残ってるご飯に卵をぶち込んで、優しい卵かけご飯を食べようと思ったんすよね。
なけなしのやさしさですよ。
「普段気遣ってあげんで悪かったな。これでも食えよ。」
そんな気持ちで卵かけご飯を口にほり込みます。
ただ失ったものの大切さは、
後でしかわからないんですね。
何の味もしねぇでやんの。
ちゃんと味覚を無くしている。
卵かけご飯を食べているのか、ぬくい泥を食っているのか、
それすら、わからない状況です。
味覚も嗅覚もイカれておりますから当然っちゃ当然ですわ。
そして遅れていろんな異常が現れるんですよ。
滝のような汗と引かない口の腫れをはじめとして、
よだれは止まらんし、涙は出てくるし、なんかずっとむせるし。
何なんですか、極激辛って新手のシャブなんすか?
これはノリとかやないです。
極激辛はまじでみんな、気ぃ付けてください。
ちなみに俺は胃の謎のぬくもりに震えて
正露丸とビオフェルミンをオーバードーズして眠る訳でございますが、
次の日の喫茶店のトイレで「ごめんなさい。」と言いながら
30分こもって悶えることになりましたとさ。