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「泳げ!たいやきくん」は、なぜ毎日焼かれていることを知っているのか
今の中高生は、泳げたいやきくんを知っているんでしょうか。
20代後半の私世代より上の方からすると、日本で一番売れたCDとして、名前を知らない人は居ないと思います。調べてると、どうも青山テルマに負けたらしく、そういわれると最近テレビでもあまり見ない気はします。ただ少なくても僕ら以上の世代からすると、帝王級の貫禄を持った超有名曲でございます。
そんな泳げたいやきくん。歌詞の内容について、今までいろいろな人が『おかしい』と話題に上げてきました。
まいにち まいにち ぼくらは てっぱんの
うえで やかれて いやになっちゃうよ
あるあさ ぼくは みせのおじさんと
けんかして うみに にげこんだのさ
たいやきくんは、焼かれることに嫌気がさして海に逃げ込んでしまいます。初めて泳いだ海で自由を噛みしめ楽しく生活する、たいやきくん。そんなある日、たいやきくんは釣り人に吊り上げられてしまいます。
やっぱり ぼくは タイヤキさ
すこし こげある タイヤキさ
おじさん つばを のみこんで
ぼくを うまそに たべたのさ
最後にたいやきくんは、釣り人に食べられてしまいます。その衝撃的なラストに、当時の小学生は度肝を抜かれたことでしょう。
ただこのエンドに対して『おかしい』という声が上がったのは、当時も同じだったのではないかと思います。
「海でふやけたたい焼きを、食べようと思う釣り人の神経を疑う。」
「タイヤキがお腹を空かせて、釣り餌に食らいつくわけがない。」
「そもそも、おじさんと喧嘩してどうやって海に行きついたのか。」
これほど売れた曲ですから、様々な声が上がったことでしょう。ただ僕が、どうしても腑に落ちない点はここじゃないんですよ。
まずふやけたたい焼きを食べる神経で有ったり、たい焼きがお腹を空かせる設定は、「メルヘン」で片付いてしまうと思ってるんですよ。そもそも、たい焼きと店主がケンカをするところからスタートしてますから、この世界ではタイヤキがしゃべることは普通で、動くことも認知された世界なわけですよ。そんな世界だったら、タイヤキがお腹を空かせたって不思議じゃないですし、釣り人も刺身を食うような感覚でつったタイヤキを食ったんかも分からんですわ。
僕が言いたいのは、ソコじゃないんですよ。
まいにち まいにち ぼくらは てっぱんの
うえで やかれて いやになっちゃうよ
たいやきくんは、どうして毎日焼かれていることを知っているのかってところなんですよね。
そもそもおじさんと喧嘩するきっかけが、毎日焼かれて嫌になったからじゃないですか。でも、たいやきくんは鉄板の上で生まれ、そして人に食べられて死んでいくはずでしょ。
だったら、知ってるはずがないんですよ。
自分が毎日焼かれているという事実をさ。
たい焼きとして命を宿してるわけですから、鉄板の上で焼かれ、たい焼きの形になった瞬間から、意志を持つというのが自然な考えですよね。
それこそ前回、だんご三兄弟の時も命を宿すポイントについては検討をしました。
ただたいやきくんに関しては、あのパカッと開く金型の中に生地を入れ、焼きあがって金型が開いた瞬間に、たいやきくんになるって考えるが普通やと思うんですよ。一番古い記憶が、焼き上がりですから、少なくとも「毎日焼かれている」という感想を持つはずがないんですよ。
これが、泳げたいやきくんの一番『おかしい』部分やと思うんですよね。
どうしてたいやきくんが、毎日焼かれていると知っているのかについて、考えられる要因として真っ先に浮かぶのは、やっぱり「売れ残っている」ですよね。たいやきくんは売れ残っていて、それで毎日鉄板の上で焼かれているんじゃないかと。
ただこれは、よく考えるとありえないと気づくはずです。
焼きあがったたい焼きを何日も鉄板の上で焼くって、ありえないですから。
そもそも、2日も3日も前に焼き上げたたい焼きを、そのまま店で売っているっていうこと自体がありえない話です。いくら時代が違うとはいえ、焼きあがったたい焼きを鉄板の上で毎日焼き続けるって、確実に焦げますし、ありえない状況やないですか。
だから、「売れ残っている」から毎日焼かれていることに気づいたというのは、ありえない話なんですよ。
じゃあ他に何があるのか。
可能性としては、記憶が継承されているってのもゼロではない。
言うたら輪廻転生ですわ。人に食べられた瞬間に、次の焼きあがったたい焼きに意志が移って、また食べられると次に焼きあがるたい焼きに移る。そうして記憶が継承されて続けているから、たいやきくんには毎日焼かれている記憶があるんじゃないかと
ただ自分で書いておいてなんですが、いくらメルヘンの世界だからって、記憶の継承はぶっ飛びすぎていると思うんですよ。いうまでもないですが、死んだ者の記憶が、ワープして別のたい焼きに移るって、どうやったって理屈が通らないですもん。で言うと、記憶の継承もあり得ないわけです。
売れ残っている訳でもなければ、記憶が継承されている訳でもない。
となると、残る可能性はひとつですよ。
たい焼き粉に人格がある場合です。
みなさん、プラナリアってご存知ですか?
ヒルみたいなうねうねした生き物で、二つに切るとそれぞれが別の個体になるって言う、ちょっと気持ち悪い生き物です。ただこのプラナリアの興味深いところが「記憶」でしてね。プラナリアは二つに切っても、両方に同じ記憶が残ってるらしいんですよ。
これと同じことが、たい焼き粉に起こっているとしたら。
たいやきくんのストーリーは成立するんですよ。
まず店のおじさんは、たい焼き粉から見える位置でたい焼きを焼いていたと考えられます。もしくは大量に生地を作っていたか。ですが「毎日」と言われるからには、少なくとも1週間分くらいの生地を作る必要がある為、流石に衛生的にそんなことはありえないでしょう。やはり、おじさんはたい焼き粉から見える位置で、たい焼きを焼いていたはずです。
そしてたい焼き粉は、毎日見ていたんですよ。自分の体の一部だった者たちが、毎日焼かれて、たい焼きになっていく姿を。そして、それに嫌気がさした。
そんなたい焼き粉の記憶を継承したのが、たい焼きくんだったというわけですよ。だからたいやきくんは、喧嘩をして海に逃げ込んでしまった。これ以外、考えられる可能性が無いんですよ。
たいやきくんが、どうして毎日自分が焼かれていると知っているかについては、一応の結論が出ましたが、この結論により、ふたつの事が解りました。
まずひとつは、おじさんは早くたい焼き粉を買い替えて場所を移した方がいいし、多分明日からもたい焼きは逃げ続けると言う事。
もうひとつは「泳げ!たい焼き粉!」が正解。