日常の習作


公園の横を通り過ぎるとき、何も書いていない看板が見えた。その看板の下には白い花がたくさん咲いてあった。僕は墓のようだと思った。周りでは子供がいっぱい遊んでいた。


ある女の後ろ姿を見た。後ろ姿だけで、幼い性格であることがわかった。覚えているのはショートカットの襟足が乱れていたこと、ズボンを履いていたこと、その色がライトブルーだったこと。


ハンバーグを作った。ラップを剥がし、中に入っているひき肉を取り出す。プラスチックの容器に肉片が一つ残っているのが見えた。僕はそれを摘んで、すでに取り出した肉の塊の一部に加えてやる。そうして安心する。


3つ数えてね。少女が言った。僕は3つ数えることにしたが、雲の3つなのか、セイヨウタンポポの3つなのか、毛皮のように暖かい3つなのかわからなかった。僕はそのまま目を閉じている。


置き書きが残されてあった。「水草が揺れるときの角度で」僕は机の上に置いてあった赤褐色のライターを取り上げて、窓から放り投げた。外は雨がしとしと降っていた。皿には目玉焼きが手付かずのまま残されていて、僕はちょうど、それをもう一度燃やしてみようと思ったのだった。


名前だけを知っているが、しかし話したことのないおじさんが僕の隣にそっと腰を下ろした。婆さんはなあ、やっぱりなあ。僕はその言葉の続きを待つ。窓から外に目をやると、晴れでも曇りでもない空のまぶしさだけが僕の目に飛び込んできた。おじさんは言う。婆さんはなあ。僕は外を見ている。膨らみかけた会話の切れ端のようなものは、一度だけ軽く身をひねらせて宙へ飛んでいった。僕は空のまぶしさのおかげで、その輪郭さえも掴めるような気がした。


僕は真夜中に泳ぐ。このプールにはもったいほどの大きな柳が、水面に向かって枝を垂らしている。一本の枝だけが際立って長く伸びていて、プールサイドにもう少しでふれそうだ。今日は月は見えない。ゴーグルをかけて覗く月は、授業参観のときの休み時間のような、特別感がある。僕は水中に潜り、再び次の25メートルを泳ぐことに意識を集中する。足で壁を蹴ると、僕の体はすいすいと水の中へと伸びていった。真っ暗な水の中、消えかけた白線がぼやけて見える。僕はそれを追いかけて泳ぐのだが、いつもどこかで見失い、気がついたら隣のレーンの白線を追いかけている。それを僕は、水中から顔を上げて、ゴーグルを外した瞬間に気づくのだ。


水島くんのメガネの縁が青いことに気づいているのは、多分私だけだ。彼はいつも、水で濡れているのではないかと疑うほどに大人しい。前髪は目の上まで長く、歩くと気にす、す、すと音を立てる。そして冬にはベージュのカーディガンを着る。水島くんは家で大きな犬を一匹買っているらしい。私はまだ名前を知らないその犬が、どれぐらい大きいのか想像してみる。水島くんのソファで丸くなったり、餌を分けてもらったりする犬のことを考える(それはたぶん黒いグレーハウンドだ)。水島くんと大きな犬は、芝生の上で寝転がる。犬が遊んで欲しそうにボールを加えて持ってくる。水島くんはそれを遠くに放り投げた後、腕を後ろで組んで目を閉じて眠ろうとする。風が、背の低い芝生の草も揺らしている。そんな水島くんの、メガネの縁が青いことに気づいているのは、私しかいない。

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