本のタイトルを決めた理由① 「あたり前に未来が生まれる町」と、名付けられなかった書名『ボトムアップタウン』について
書籍『A GUIDE to KUROISO』の出版が本の形になって世に出てから、早くも8ヶ月が経ちました。(8ヶ月……)
本当は、出版直後から「この本づくりにまつわるあらゆる出来事や感情を書き残して、オーディオコメンタリーのような、スピンオフのようなものとして楽しんでもらえるようにするぞ」という気持ちがありました。
ただ、あらゆる出来事や感情に(勝手に)押し流されて、書いたまま長く下書きに眠っているものがいくつもあります。
そうして僕が文章を眠らせてしまっている間にも、少しずつ少しずつ、書籍を手に取っていただける場所が増えていきました。
1つの町を掘り下げた本が、離れた土地に暮らす人々にどのくらい届くんだろう……と考えることもあったけれど、いまでは北海道から九州まで、全国30店舗以上のお店に取り扱っていただいています。
noteで本の紹介文を書いてくださったお店さんもあります。とても、本当にとても嬉しいです。
『A GUIDE to KUROISO』は文字通り、栃木県にある「黒磯」という1つの町にフォーカスして、Huuuuがはじめて「町の魅力を1冊に詰め込む」ということにチャレンジした本です。
「1つの町を1冊の本にする」というのは、本作りのテーマとしては、かなり絞られたテーマです。いったい何千部つくればいいのか、どのくらい売り切ることができるのか、何もかもわからない状況から本作りがスタートします。
しかも、黒磯もまた知る人ぞ知る町。「コーヒーとカフェが好きで、町の名前を知っている」という方を除けば、名前を聞いたこともないという方も多いと思います。
それでも黒磯の本をつくった理由が、書籍のタイトルには込められていると思っています。
この本の正式なタイトルは、『A GUIDE to KUROISO 栃木県、黒磯。あたり前に未来が生まれる町』。ただガイドをするのではなく、町の価値観を言葉にできないか?と試みました
一軒一軒の店が、未来を見据えて店づくりをしていること。それが世間へのポーズではなく、自分たちの営みを考え抜いた先に自然と生まれていること。
町の空気をつくっているのは「お店」の存在なんじゃないかと、1年間の取材を通して強く感じました。
そんな考えを、本に込めました。
「黒磯を知ってほしい」という気持ちがあるのはもちろん、「この本の中には、きっと、あなたの町と繋がることが描かれている」と確信しています。
このnoteでは、「本のタイトルをどう決めたのか」というテーマを通して、取材と本づくりの日々を振り返ります。きっと、おもしろい紆余曲折だったはず。
最初のタイトルは「ボトムアップタウン」だった
実は、最初にもうひとつのアイデアがありました。
当時「これが本の名前になるかも?」とまで感じた、町をあらわすコピー。それは、『ボトムアップタウン』というもの。
取材チームが最初に興味を持ち、考えるようになったのは「店が町をつくる」というイメージでした。
そこには編集者たちにとっての「旅先のお店」の存在の大きさもあるかもしれません。
編集者にとって、取材に訪れた場所が「生まれて初めて訪問する地域」ということは少なくありません。そんなときは、目的地への道中に気になって入ったお店で、その土地のことを聞きます。そうして、お店を通して町のいろいろな魅力と出会う。
僕たち編集者にとって、現地のお店が「町の入口」のような役割を担ってくれていると言っても過言ではありません。
本作りのチームのなかで、一番最初に黒磯の町を訪れたのは、Huuuu代表の徳谷柿次郎さん。黒磯本でいえば、「出版レーベルの代表」であり、「プロデューサー」としての立ち位置から、本のことを考え続けていました。
そんな柿次郎さんがまず最初に惚れ込んだのも、やはり黒磯の「お店」たちでした。
取材のために黒磯に通いはじめて、お店の方々や、地元で働く人たちに話を聞くと、「あのお店がなければ今の町はなかった」「このお店が駅前にできたことで、また少し人の流れが面白くなっている」……聞こえてくるのは、店がきっかけで生まれていく町の変化のこと。
個人的にも、「そこに店があること」と「町に人がいること」は決して無関係ではないと思います。酒場ができれば夜の町は明るくなるし、美味しいパン屋さんができれば休日の朝の人通りが増える。そんな風に、町と店とは密接に関わり合っているはず。
町の規模や人口密度、その他さまざまな違いがそれぞれの地域にあって、状況は異なるでしょう。それでも、1つの店が、誰かがその土地を訪れる理由になる。そんなことを信じたいと思っています。
そして、僕たちが出会った黒磯の町はそんな「町と店と人の関係」を、もっとずっと前から体現してきた町でした。
2010〜2020年の10年間の間に、「まちおこし」「地域づくり」について僕たちが触れられる情報量が圧倒的に増えました。
行政の予算を大きく使ったり、誰かが旗振り役となって生まれた一枚岩のコミュニティが町を新しく変えていく。そんな風に見える地域づくりの物語をたくさん知り、それぞれの素晴らしさに触れてきました。
ただ、黒磯の町で起きていたのはそれとは少し違う、店と町の物語。個人の思いや思想をもとに育まれたインディペンデントな店が、結果的に町を少しずつ変えていくような、有機的な町の変化でした。
トップダウン型の取り組みではない、個人の意思が芽吹いたことから生まれていく町の個性のあり方を「ボトムアップ」と捉えた僕たちは、「ボトムアップタウン」という旗印を掲げて町を見るようになりました。
このテーマを漠然と抱えながら、取材は進んで行きました。ただ、店主たちに直接会い、話を聞き、なぜボトムアップの店と街が生まれているのか?の理由を探るうちに、他の言葉が浮かび上がってきたのです。
この先には、「あたり前に未来が生まれる」というキーワードがチームのなかでポロッと生まれるまでの紆余曲折があるのですが……この続きはまた、このnoteで書いていこうと思います。
出版から時間が経ってなお、この本を多くの人に届けたいという気持ちが強くなっています。
少しでも本に興味を持ってもらえたら、ぜひ黒磯の本を手に取ってみてください。栃木・黒磯エリアの話だけじゃない、「いい街とは?」という問いと応答が、詰まった一冊です。
▲ご購入はこちら(風旅出張STORES)
▲litlinkにて、取扱書店のリストを更新中です。ぜひ、お近くの町に取り扱いのお店がないか、探してみてください。
取り扱いいただける書店、お店も募集しています。ぜひ気軽に、以下のアドレスから連絡をください。近々、仕入れてもらいやすくなるキャンペーンも企画しておりますので、ご案内できます。
info@huuuu.jp
風旅出版 乾隼人
この本が置かれてほしいのは、栃木県のお店だけではありません。黒磯から遠く離れたどこかの町のお店に置かれ、栃木を知らない誰かが手に取ってくれたとして、伝わるものがあるはず。
その人が自分の暮らす町や故郷の土地について考えを巡らせている人であれば、なおさら、多くの文脈とメッセージを汲み取ってくれることと思います。
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