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二歩目『オイラは咬ませ犬で当て馬』
朝、日課のお散歩に出かけると寒さに凍える二月。そういや二月の鳥取は寒かったな。今回は冬の鳥取へ足を運んだ時の話をしましょうか。
オイラはカニに目がなくてですね。カニならばサワガニでもイワガニでもズワイでも毛ガニでもクリガニでもタラバガニでもスベスベマンジュウガニ……いや、これは毒があるので食べませんが。
この時も無性にカニが食いたくなりまして。思い立ったが吉日。いざ鳥取へ! ってな具合に軽装で出かけました。そりゃぁもう近所のコンビニエンスストアに行くような格好でございます。
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飛行機を降りてびっくり。ありゃりゃ、雪が降っているじゃぁないですか。オイラTシャツ、ジーパンにパーカーですぞ。
空港の横には無料の水族館があり(とっとり賀露かにっこ館)、小規模だが十分に楽しめる。
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鳥取産松葉ガニの最高級ブランド「五輝星(いつきぼし)」。二〇一五年に生まれたブランドで、五つの基準を元に県内の目利き人が選んだ最高級のカニ。第一号は賀露港で水揚げされ、七十万で競り落とされたんだとか。
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カニの足にきらめく、このタグは、〝俺、五輝星ですから〟感を全面に押し出している。数時間後にはオイラの腹の中に収まっているだろうカニを見て腹の虫が騒ぎ出す。
早速、予約した料理屋さんへと向かうと、出迎えてくれたのは本日オイラに食われる予定のズワイガニ。皿から足がはみ出るほどの美脚。
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甲羅にくっついているプツプツはカニビルの卵。本来カニビルは岩など硬い場所に卵を生むのだが、これがカニについているということは脱皮してから時間が経っている=肉が詰まってて美味しい。ということらしい。
ズワイガニの輝く御御足を見てみるとタグが付いてる。〝五輝星〟じゃねぇじゃねぇか。しかし、どれが美味いかなんて門外漢のオイラがわかるわけがない。今回訪れた料理屋さんはミシュランの星付きだ。そりゃぁ大層良いカニを仕入れているに違いない。
十品以上のコースをぺろりと平らげた。この料理の腕前があれば何も安いカニでも絶品になるんじゃぁないか。というドケチ根性が頭をよぎった。
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今回目指すは、三朝温泉。レンタカーを借りていざ出発だ。とその前に腹ごしらえ。街征く人におすすめラーメンを聞いたところ、大工町通りにある四川坦々麺が美味いという。リアルな口コミの信憑性ってのは、火を見るより明らかだというのが良い。
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オイラは鳥取の雪を見くびっていた。進むにつれて段々と積もる雪の厚さが増してくる。それは道路標識の先っぽだけが見えてるくらい。とどまることを知らない。運転している目線より積もった雪が高くなると、なんだか異世界に迷い込んだ感覚に襲われる。滑る。ブレーキを掛けるが三〇メートルは平気で滑る。
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三朝温泉に近づくと、まるでオイラを歓迎してくれたかのように雪がやんだ。雪の白と雲の白が空の青を引き立てる。
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部屋から見える景色は、随分と風流だ。夜ご飯まではかなり時間があるので、三朝温泉街をぶらっと散歩してみる。
「取り返せ北方領土」「日本人ならだれでも靖国神社参拝あたりまえ」なるちょいと主張強めな看板を掲げた通りを歩く。昭和レトロなゲームセンターを発見し店に入ると、立派な射的場がある。
血が騒いだ。きっとオイラは前世は西部劇に出てくるようなガンマンだったのかもしれない。鉄砲から飛び出た年季の入ったコルク玉は次々と標的を射抜いていく。結果、店を出た俺の両手にはガラクタたちの入ったビニール袋がぶら下がっていた。
宿への帰り道、温泉街の端っこに「藤井酒造」という酒造を見つけた。中に入ると陽気な店主が試飲を進めてくる。雪にシバレた体を温めるにはちょうどいい。
「じゃ、飲んでる間に国分太一くんが来た時のデーブイデー(DVD)を観せてあげる」
店主のおじさんの副音声付きでDVD鑑賞すること十五分。この酒造のラインナップをほとんど飲んだ。中でも美味しかったのは、「三朝正宗」「白狼一九九八年」「白狼一九九六年」。古酒に関してはシェリー樽熟成をさせたかのような芳醇な香りがするが、樽は一切使っていないとのこと。
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冷えた体で入る温泉は最高で、雪景色を堪能しながらゆったりと楽しむ。このまま一生入ってられるのではないかと思ったほどだ。三朝温泉はラドン温泉のため、ガンの罹患率が日本で一番低いという謎のエビデンスを見せられました。むつかしいことは良くわからないけれど、気持ちかったのは間違いない。橋の上から丸見えなので注意。
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二泊三日で出かけた鳥取旅。カニと酒に舌鼓を打ちっぱなしの旅でした。他の季節も良いけれど、カニの時期に行くのがおすすめ。