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1歩目:エッセイ【オイラは咬ませ犬で当て馬】
1歩目:旅人いぬがみとうま
東京の端っこの昭和末期。姉の真似ばかりしていたオイラは、ままごと、ピアノ、そして姉のスカートを履いていた。
結び目のあるヘアゴムで髪をちょんまげみたいに結い、近所の公園に一人遊びに行っていた。
「とうま君、男なのにおかしいよ」
近所に住むヨウコちゃんに遭うといつもそう言われた。無視するオイラに砂を掛けるこのいじめっ子。だから、公園にヨウコちゃんが来ると急いで玩具をお気に入りの袋に詰めて逃げるようになった。
そんな幼少期のオイラは一人でふらふらと勝手に出かけることが多かった。三歳の頃、当時のオイラの足で三十分以上かかる姉の通う幼稚園まで出かけた。
これがこの世に生まれて三年。初めての一人旅だった。
いつもはお母ちゃんの自転車で通っていた道のり。自分の足で歩くと視点の高さも、道のりの長さも、全く別の世界に見えた記憶がある。
それが、とても色鮮やかで。ゆっくりと流れていく景色が今でも鮮明に思い出せる。
この経験が〝旅人いぬがみとうま〟の原点なのかもしれない。
日本各地、世界三十カ国あまりを旅したオイラのエッセイの始まり始まり。