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『新型コロナの科学』を読んで

新型コロナウイルスについては、断片的な情報があちこちで出回っているものの、体系的に整理された情報がなかったため、専門家に薦められてこの本を読んでみました。

新型コロナについては、「このような対策を取って下さい」という情報ばかりで、そもそも新型コロナウイルスとはどのようなもので、科学的にはどのような性質があり、どのように感染するのか、科学的分析結果や統計データはどうなっているのか、日本の対策はどのような根拠に基づいているのかということについての情報がなく、とてもモヤモヤしていました。

そんな中、この本は、そんなモヤモヤを吹き飛ばしてくれる名著でした。

以下まとめと感想。

【新型コロナウイルスとは】

○  ウイルスは一人では生きていけない。

○  ウイルスが細胞に入り込むためには、細胞膜上のレセプター(受容体)にくっついて細胞の中に入らなければならない。

○  がん細胞と細菌は倍々に増えていくが、ウイルスは細胞内でウイルスを複製し、天文学的な増殖スピードで爆発的に増える。

○  ウイルスのゲノムは常に変異を続けている。変異はランダムで起きるが、歴史的には、感染性を広げ、毒性を下げる方向に向かう。それがウイルスにとって1番の生き残り作戦のため。

【感染源と感染経路】

○ 新型コロナ感染の最も重要なルートは感染者の唾からの感染。咳、くしゃみ、発声、呼吸などにより飛び出た唾。

○ 飛沫はほとんどが2メートル以内に落下するが、条件によっては微細なエアロゾルとなり、数メートル先まで届く。湿度が低いとエアロゾルになりやすい。

○ 尿や血液からウイルスが検出された症例はない。

○ 便からはウイルスが検出できたが、感染性はなかった。

感染源と経路の基本知識の確認。「呼吸」と書いてあり、話をしなくとも呼吸によって少量の唾が出て感染することもあるのかもしれません。一緒にいたけど話をしていないから大丈夫ということではないかも。

重要なのは、尿や便からは感染しないということ。ここはノロウイルスなどと大きく違いますね。

また、ウイルスが検出されるということと、そのウイルスに感染性があるということは別の話ということ。

【スーパースプレッダー】

感染者の中には、一人で何十人にも感染させる「スーパースプレッダー」と呼ばれる感染性の高い人がいる一方で、誰にも感染させないような「無害」な感染者もたくさんいるとのこと。

感染者は皆同じように感染させるのかと思っていましたが、違うようです。

【感染後の経過】

○  潜伏期は5日程度だが、長い人は10〜14日のこともある。症状が出ない潜伏期でもウイルスを放出し感染させる。

○  感染者の20%は肺炎になり、さらに2〜3%は重篤化する。

○  肺の肺胞を覆う表面の細胞の表面に新型コロナウイルスのレセプターがある。これにより肺炎を引き起こす。

○ 血管の内皮細胞にもレセプターがある。血管細胞の炎症は血栓を作りやすくする。血栓が飛び火をすれば、脳、心臓に梗塞を作る。血栓は、肺炎と並ぶ、コロナ感染の重大な合併症。

○  感染後の後遺症。倦怠感、呼吸が苦しい、咳が最も多く、記憶障害、睡眠障害、頭痛などの全身の痛み、味覚・嗅覚障害、脱毛、心臓の異常。

○  感染者の致死率は日本では約2%

○  がん、急性心筋梗塞に比べると致死率は低いが、進行が早いのが問題。悪化すると1〜2ヶ月で死に至る。

○  80歳以上の致死率は21%、70歳以上で8%で、全死亡者の85%は70歳以上。

このあたりの情報は概ね出回っていますが、個人的には後遺症が最も怖いですね。

倦怠感のようなものがずっと続くと、日常生活にかなりの支障が出ることが想定されますが、おそらく治療方法はなく、いつまで続くかもわからないのでしょう。

コロナ感染との因果関係について明確な診断ができないとなると、仕事ができなくなっても社会保障や保険給付が受けられないおそれもあります。

後遺症状態が最も経済的ダメージが大きいかもしれません。

【有効再生産数】

○ 有効(実効)再生産数とは、1人の感染者が何人に感染させるかを表す数字。

○ 有効再生産数が1を超えると感染が拡大していることになり、1以下だと感染が減少していることになる。

感染者数という数値は、検査数に比例して上がるため、感染者数の増加=感染拡大かと言うと微妙だと思っていましたが、有効再生産数を見ることで、感染の増減傾向がはっきりすることがわかりました。

【無症状感染者からの感染】

○ 無症状者からの感染は例外的な感染様式ではないことは、既に疑う余地のない事実となっている。

○ 50%前後の感染は無症状感染者からの感染。

○ オックスフォード大学の分析によると、46%が発症前の無症状感染者から、38%が症状のある感染者から、10%が最後まで無症状の感染者から、6%はその他の感染ルートからの感染であると推定されている。

発症前の無症状感染者からの感染が想像以上に多いようです。ここは盲点になりやすい気が。

つまり、自分や他人がいま体調に問題がなくても、既に感染していて、そこから感染するリスクがあるということですね。

自分が感染していないことを確認するためには、自覚症状は指標にはならず、検査をする以外ないということになりますね。

【日本政府の対応】

○ 日本のコロナ対策の最大の問題は、PCR検査を制限したことである。PCR検査は日本モデルの「アキレス腱」であった。

○ PCR検査の拡充に反対したのは他ならぬ厚労省であった。

○ コロナと生きる時代に必要なのは、PCR検査の徹底により社会の安全と安心を保証することである

厚労省の反対理由は、検査により医療崩壊するということだったようですが、検査せずに感染が拡大すれば医療崩壊リスクがさらに大きくなることは言うまでもありませんね。

このような失策にもかかわらず、日本では欧米ほどのパンデミックとなっていないのは、国民が行動を自粛し、マスク着用、手洗いなどを励行したことが最も良かったとのこと。

「三密」キャンペーンのわかりやすさ、クラスター対策、医療従事者の献身的な貢献、保健所職員の頑張り、介護施設関係者の努力なども評価されています。

その他、科学的根拠や専門家の意見を軽視した政府の対応について詳しく説明されており、驚きと変な納得感(やっぱり日本の大きな組織ってそのレベルだよね)を感じましたが、ここでの詳述は控えます。

PCR検査をやりまくることによる感染予防効果がどの程度あるのかは科学や統計的な分析による検討が必要だとは思いますが、不安解消のためには、希望者がもっと気軽に検査できる体制を整えてもらいたいですね。

【検査と診断】

○  PCR検査は信頼性が高いが、サンプルの採取時期と採取方法に影響されやすい。

○  発症後2週間以内であれば、PCRの感度は70〜80%

○  PCRの特異度(感染していない人については陰性が出る確率)は99%以上。

○  抗原検査はPCRより感度が高いが、ウイルス量が多くないと検出できない。

○  抗体検査は感度100%だが、現在ではなく過去の感染を検査するもの。集団の感染状況を把握するときに使われる。

PCRは好条件でも感度70〜80%ということで、感染していても20〜30%は陰性となってしまう(偽陰性)ようですね。このため、一度だけではなく繰り返し検査を行う必要があるとのこと。

つまり、「PCR陰性=感染していないことの証明」という図式は成り立たないということ。

抗原検査と抗体検査は別物。抗体検査は発症後3週以降でないと検出できない(現在感染しているかの検査には使えない)。

【感想】

最近は症状の有無にかかわらずPCR検査を行う機運が徐々に高まってきているように思いますので、ワクチン接種と併せて、この流れがもっと加速するといいですね。

この本は、感情的になって日本政府の対策を扇動的に批判するのではなく、感染症の歴史や基礎知識の解説から始まり、コロナの広がりを時系列で振り返り、各国の対応を評価し、さらにはコロナの治療や予防を解説した上で、それらを俯瞰したこれからの社会の展望を語るという、まさに名著であると思いました。

こんなものが専門外の人間でも読めることに感謝。文字というのは本当に偉大ですね。

僭越ながら、この本を書かれた黒木登志夫先生に心より敬意を表します。


※この記事は専門外の一般人が書籍の感想をまとめたものにすぎませんので、正確性について責任は負えません。疑問点等については原典である書籍をご参照下さい。

※この本の書かれた時点から、変異等によりコロナウイルスの性質が変化し、感染率や致死率などの数値は変動している可能性があります。

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