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昔は、好きなタイプが犯罪者だった

一時期よく遊んでいた女の子は、
とても嘘つきだった。

私は、嘘と本当の境界線がわからなくて、
うん、うんと話を聞いていた。話し終えると、たいていの場合、「嘘だよ」と彼女は言った。

でも私は、その嘘が嘘かもしれないと、
いつだって本当のところはわからなかった。

彼女はたまに「私HIVなんだ」とか「人殺したことあるんだ」とか言っていた。いつものように、「嘘」って言っていたけれど、私は最後まで、それが本当なのか、嘘なのかわからなかった。

ディズニーシーの、海底二万マイルの順番待ちの通路で、そんな話をしていたのを今でもたまに思い出す。

私は彼女に、「べつに人殺したことあっても気にしないけどね」と言っていた。冗談の空気は漂っていたけれど、私はけっこう本気で、恋人や婚約者が
犯罪者でも良いと思っている。

自分は普通の人とは違うっていう自負が、子供の頃からずっとあった。高校生くらいの頃にはもう、普通の人と付き合って、普通に結婚して、普通に子どもを産むような人生は無理だと思っていた。

だから、相手には十字架が必要だと思っていた。

ジュール・ヴェルヌの『海底二万マイル』で、主人公の海洋生物学者は、ネモ船長率いるノーチラス号から脱出する際に、「何が起きても運命を共にする」ことを仲間に誓う。

十字架を背負っていない人間は、簡単に裏切る。
そういう意味で、私は犯罪者に恋をしていた。

一時期よく遊んでいた女の子は、
とてもとても嘘つきだった。

今思えば、彼女の名前すら嘘だったんじゃないとすら思う。
でも今はもうわからない。

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