第22回:思い出し笑い『落語娘』(&ツルコ)
第22回:『落語娘』
*intoxicate vol.75(2008年8月発行)掲載
てっきりNHKの朝ドラ「ちりとてちん」みたいな、女の子が噺家になってしくじったり楽しかったり悩んだり元気になったりって映画なんだろう、って思ってました。だってタイトルが『落語娘』なんですもん。
この夏、公開される映画です。夏ってところがポイントだったんですね。そう、ニッポンの夏といえば怪談ですから。のんきに笑うつもりで観たら、そちらの要素も若干あったんで、予期せぬコワイ思いもしちゃいました。日本のホラー、苦手っす。
イイ思いをしたのは、主演のミムラ(&津川雅彦も)に落語指導をした、柳家喬太郎さんでしょう。あのまなざしでまっすぐ見つめられちゃったりしてさぞドキドキしたことかと。ここんとここうしたイイ思いしてますよね、噺家さん。「タイガー&ドラゴン」で薬師丸ひろ子と一つフトンで寝てしまった春風亭昇太さんといい、映画「しゃべれどもしゃべれども」で国分太一&香里奈の師匠になった柳家三三さんといい。いまスポットライトが当たっているところにいるからこその“役得” ってことで。生きてると思いもよらないことがあるものです。「しゃべれども〜」では、ゆずがテーマ曲を歌ってたんですが、そのサントラ盤には映画で国分くんが挑戦した古典落語「火焔太鼓」を古今亭菊志んさんが演じたものが収録されています。昨年、真打ちになったばかりの若手噺家さんですが、まさか①こんなに早く自分の落語がCDに、②しかも大師匠・古今亭志ん生の十八番ネタを演じ、③さらにゆずとのカップリングで、世に出ようとは思いもしなかったことと思います。いやほんとに。ですから、喬太郎さんの一番弟子がミムラさんだというのもありな時代なんだなあと思った次第。
映画でのミムラさんはとても自然に、落語好きが高じて入門したばかりの一生懸命な噺家さんを演じています。歌舞伎や能のように世襲で芸の伝承を行っていない落語の場合、師匠は弟子として認めれば惜しみなく芸を教え(もちろんお金もとらずに、です。立川流は例外)、師匠以外の噺家たちも稽古をつけてくれますし、独り立ちできるまではなにかと面倒をみてくれる。ただし弟子は師匠がクロだといったら、たとえシロでもクロだというくらい、絶対服従。たとえ理不尽だと思っても、そういう世界だと納得するしかありません。映画で津川雅彦演じる師匠は落語界の異端児的存在。破天荒な師匠に振り回されて、しかも女の子だし住み込みだからもう大変。落語界ならではの、師匠と弟子という関係の面白さもこの映画の見所です。
そんなミムラさんが前座ということで稽古している落語が、おなじみの「寿限無」。喬太郎さんの「寿限無」がお手本ですが、もしみなさんもミムラさんの師匠から稽古をつけてもらいたい!と思ったら、ちょうどいいお手本があるんですよ。新作落語の評価が高い喬太郎さんですから、自作の落語を収録した『落語秘宝館』シリーズがすでに4作めとなっていますが、今年、古典落語をおさめたCDが初めてリリースされました。落語のなかでも前座噺とよばれる軽い噺ばかりを演じたもので、「寿限無」が収録されてます。さらに、師匠の歌を聴きたい人は『の・ようなうた』でたっぷり、どうぞ! ミムラさんもぜひ、ご自分の師匠の「ホテトル音頭」を聴いてみてください。「私は古典落語しか演りません」みたいなまじめな顔して稽古をつけてくれた(かもしれない)あなたの師匠、じつはこーんな人だったんですよーん。