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【書評】三浦清宏『近代スピリチュアリズムの歴史』

19世紀に始まった近代スピリチュアリズム。

霊能者と科学者がタッグを組み、ときに反目やスキャンダルを経験しつつも、霊的現象を追求してきました。

その歴史を解説してくれる良書が、三浦清宏『近代スピリチュアリズムの歴史』。

著者は芥川賞作家にしてスピリチュアルの研究家。日本心霊科学協会の理事をつとめていたこともあるそう。

大まかな構成は以下の通り。

・ハイズヴィル事件と近代スピリチュアリズムのはじまり
・心霊研究の黄金時代(大物霊能者たちの紹介)
・心霊研究の黄金時代(大物科学者たちの紹介)
・心霊研究から超心理学へ
・明治以降の日本のスピリチュアリズム事情

スウェーデンボルグやアンドリュー・ジャクソン・ディヴィス、D.D.ホームといった霊能者たちの伝記的パートは読み物として最高に面白い。

またクルックスやリシェをはじめとする科学者たちや、コナン・ドイルのような作家など、こんな大物たちが霊能研究にかかわっていたのかと驚きます。降霊術が近代ヨーロッパの家庭で当たり前の風景だったというのもはじめて知った。

心霊研究が超心理学へと発展していく流れについても、わかりやすく解説されています。

ただ、一部の頭の堅い科学者や一般人の描写は読んでいて面白いものではないです。まあ資料としてはそういう情報も載せなくてはいけないのですが。流し読み推奨。

最後の「日本のスピリチュアリズム」のパートはかなり啓発的だったので、以下、そこをざっくり紹介しておきます。


日本のスピリチュアリズムの特徴と問題点

三浦いわく、日本のスピリチュアリズムには次の2つの特徴があるそうです。

・守護霊の多様さ
・その結果としての閉鎖性


日本人の守護霊は種類が多い

背後霊には大きくわけて支配霊と守護霊があります。

支配霊はその個人の成長をサポートする存在。成長の度合いに応じて支配霊が入れ替わることもままあります。

一方で守護霊は支配霊のさらに上にいる存在。

日本人はこの守護霊の種類が異様に豊富なことが特徴です。たとえば遠い先祖、神仏、宗祖、土地の神など。それも神道系がよく見られるそうです。しかも無口な守護霊が多いため、正体がはっきりしないことが多い。

さらに興味深いのは、日本人には自然霊が多いこと。代表的なのは次の3つ。

・竜神
・天狗
・狐

自然霊のなかでもっとも力が強いのが竜神。水にかかわる自然霊です。まばゆい光となって見えたり、白髪の仙人みたいな姿で見えたりします。

天狗は山にかかわる自然霊。念力などの力をもちます。

人間にいたずらしがちなのが狐、蛇、狸などの自然霊。もっとも多いのは狐だそう。人間に福をもたらす白狐がいる一方で、人間に憑依することを狙っている存在もいて、霊能者の手を焼かせます。

霊能が目覚めはじめた人は、初期の段階でこうした自然霊に憑依されることが多いらしいので、注意が必要です。

これは日本に特有の現象で、欧米では自然霊が人間に憑依することはないそうです。たしかに妖精が人間に憑依したとかは聞かないですよね。むしろ人間の世界とははっきりと隔絶された場所に存在しているイメージ。

「八百万の神」とかいいますが、それも単なる思想じゃなくて、実際の霊的世界をそのまま表すことばだったのかもしれないですね。


日本のスピリチュアリズムの弱点

このような背後霊の多種多様さが、日本のスピリチュアリズムに課題をもたらしていると三浦はいいます。

背後霊の種類がバラバラだから、霊能者同士のコミュニケーションが難しいのです。そして自分の背後霊こそが絶対のものだと思い込みがち。

その結果、日本の霊能者は教祖化しやすく、さらに孤立化が深まりがちだと著者は指摘します。


欧米の場合はそうなっていないそうなんですね。唯一神への信仰が有効にはたらくからです。

守護霊が違っていても、その背後には絶対的な存在としての神がいる。その神のもとではすべてが平等になります。結果として霊能者同士のコミュニケーションが容易に。霊能者は新たな教祖になりにくく、一般人にも平等に接する傾向があります。

これはインパクトのある見方ですよね。一神教は現代や未来のスピリチュアリズムにとって枷になる印象でした。日本をふくむアジアのほうが、宗教分野においてもこれからあらゆる面で優位に立つだろうと思ってました。しかしスピリチュアリズムにおいて一神教ならではの強みがあるというのは、目からウロコです。

霊能者同士の横のつながりをいかに強化していくか。これが日本のスピリチュアリズムの課題だと著者は述べています。


三浦清宏の『近代スピリチュアリズムの歴史』は、19世紀以降の近代スピリチュアリズムを把握するには絶好の良書。ちなみに新版は画像が大量に挿入されています。

海外だとアーサー・コナン・ドイル(シャーロック・ホームズの作者)のThe History of Spiritualismという名著がありますが、本書はその日本版といった趣。

どちらも小説家が書いている点でも共通していますね。


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