アイアム・アイアン・アポロン
シャンフロのクソゲー二次創作です
『人類から音楽が失われた近未来』
『音を奪った敵を倒し、人類に音楽を取り戻す為…』
『生み出されたその名は人造生命体”アポロン”』
『鋼鉄の身体を持ち、アイアン・アポロンと呼ばれるそれは』
『音楽を奪い、それをその身に封印した敵を打ち滅ぼすまで…』
『人類へと音楽を取り戻すまで、アイアン・アポロンの戦いは続く』
黒い背景に、銀色のタイトルが表示される。
『アイアム・アイアン・アポロン』
「凄いな、ここまで無音だ。SEもない」
タイトルコールの時くらい何かあってもいいだろうとは思いつつ、俺はゲームスタートの文字へ指を伸ばす。
アイアム・アイアン・アポロン、通称ああああ。あを一個省略するのが肝らしい。
その実態は、音ゲーとFPSの融合を果たした、新感覚ミュージックガンアクションというジャンルだ。
当然俺の食指が動いたという事は、例に漏れずクソゲーな訳だが。
ロックロールのワゴンが充実しているのは、何というかこう、複雑な気持ちだ。
とはいえ岩巻さんもイチオシのものではあるので非常に楽しみだ。
一瞬視界が真っ暗になり次に目の前に現れたのは、荒廃した近未来の街並みだった。
手には一丁のセミオートハンドガンが握られている。
「なるほど? こいつでノーツを撃てということか」
背景と比べて随分丁寧に作り込まれている得物をしげしげと眺めていると、前方の地面に白く縁どられたリングが展開される。大きさは相撲の土俵くらいか? そこまで大きくない。
その中心には、得体の知れない謎のキューブが浮いている。
うーん、一般的な音ゲーと照らし合わせると、恐らくリングの縁が判定線なのだろう。
とすると、ノーツはあのキューブから出てくるということか。
そんなことを考えていると、カウントダウンを告げる数字が表示され、0になると同時に黒い人型の敵(ノーツと思われるもの)が出現した。
音ゲーなのにこれまで一切音が出ていないことにワクワクしつつ、こちらへと進んでくるノーツがリングの縁に重なる瞬間を完璧に見極めて、引き金を引い「弾が出ない?」
んん? ワッツハプン?
何故弾が出ないのか、もしや操作そのものが出来ないという出オチ(バグ)か?
これ、トリガーがやけに硬いというか、あれ? もしかして…
「わぁ、セーフティー掛かってるぅ」
これもしかして、初弾装填とか全部手動でやるタイプの…
結局のところ、このゲームは音ゲーのくせに超リアルなガンシミュレーターでもあるということが分かった。
音ゲーで初めて聞く音が、銃のスライド音とは思わないじゃぁん…。
どっかのガンマニアが飛びつきそうなゲームだ。
いやもしかしたら既に持ってるかもしれん。
一回目の挑戦は、銃の挙動を確認するのに回して二回目の挑戦。
だって最初のノーツを撃てなかったの悔しかったしぃ…。
「ていうかこれチュートリアルじゃないんだな、普通に最初のステージっぽい」
音ゲーなのに、プレイしたい曲を自分で選べない辺りも大変クソである。
二回目にして、カウントダウンの最中にセーフティーの解除など諸々の動作が出来ることを発見した俺は、準備を整えその時を待ち、ノーツと判定線が重なる完璧なタイミングで弾丸を人型ノーツの頭へと撃ち込んだ。
倒されたノーツからエネルギーの様なものが出てきて、俺ことアイアン・アポロンへと吸収される。
瞬間、俺の肩部に搭載されていたスピーカーから音が流れ始める。
スローなテンポのヴァイオリンの音色だ。なるほど、ようやくプロローグの意味が分かった。
その後も二体目、三体目と倒していくと音が連続して紡がれる。
うーん、初めて聴くが中々いい曲だ。
それはそれとして発砲音がうるさいな。
…
初見パーフェクトクリアとはいかなかったものの、最初のステージは難なくクリアできた。
これ、ノーツが真っ直ぐこっちへ来るんじゃなくて、波紋の様に広がっていくんだな。
離れていくノーツを意識しつつ、向かってくるノーツを処理するのが地味に…
「いや、でも音楽は良いんだよなぁ」
最初のステージの曲なのに非常に耳に残る。
◇
続く第二、第三ステージをクリアして俺は悩んでいた。
「えーと、スキルは何育てるかな…」
『弾倉拡張』、『リロード速度向上』、『移動速度向上』、『跳躍力向上』…
様々なスキルを眺めながら、ふと違和感が生じた。
「あれ? 俺、音ゲーやってんだよな…?」
当たり前のように受け入れてたけど、このスキルツリーは何だ?
しかも、やたら銃関係とかアクション方面のスキルツリーばっか充実してるし…
音ゲーでスキルがあっても、判定線での判定が緩くなったりコンボのスコアが増えたりとかじゃ。
「うーん、音ゲーに加えてFPS要素とリアルすぎるガンシミュレーター、そして成長要素…」
何だろう、このゲームの製作者のやりたかったこと全部丸ごと鍋にぶち込んで煮込んでみましたみたいな、闇鍋感は。
まっ、嫌いじゃないんだけどね。
というか、現時点ではそこそこ面白いゲームとして成立している気すらしてくる。
そして何よりも、音楽が良い。
どうもインストゥルメンタル中心らしいこの音ゲーの曲は、クラシックっぽいものからジャズっぽいものまであるが、どれも良曲といえるものでプレイしながらではあるが聞き入ってしまうものが多い。
「高度なプレイヤースキルを要求してくる系のゲーム、それだけなら普通に良いゲームだ」
一体どこに地雷があるのか。
「考えていても仕方ない、か…」
とりあえず弾倉やリロードは手前のプレイヤースキルで何とかするとして、移動速度と跳躍力向上、と。
一見無駄に見えるこの二つのスキルだが、意外と使い道がある。
まずこのゲーム、ステージクリア毎にリングが大きくなっていっている。
加えてノーツがあっちこっちへと進んでいくので一ヶ所に留まるよりも動いて撃った方が処理しやすいだろう。
跳躍力を上げたのは、全体のノーツの位置を俯瞰的に見るためだ。
「こればっかりはスキルを上げないと対応出来なさそうだからな」
準備を整えた俺は、第四ステージへと挑むのだった。
第四ステージのリングの大きさは25mプールくらいか、ハンドガンで端から端の的を狙うには、結構なエイム力が要求されるな。
だがそこは、スキルで補えばいい。
開始と同時に飛び出してきたノーツを順番に処理していく。
今回はロック調の曲か。エレキギターの音色が気持ちいい。
大きく時計回りに移動しながらノーツを処理していると、他のノーツよりも速く移動する「赤い」人型のノーツが目に入った。
高スコアが出るノーツか、ギミックなのか、まだ判断はできないがやることは決まっている。
リングの縁と重なった瞬間、ヘッドショットを決める。
「ん?」
なんか、曲の音量が上がったような…。
発砲音と混じって良く分からないな。
黒黒黒赤「あっ」黒黒リロード黒黒黒黒黒赤「これ」黒黒赤赤赤「マジか!」
「気のせいじゃない…!」
「赤い」ノーツを撃つたびに曲の音量がデカくなっている。
ちなみに今は、至近距離でパラボラアンテナくらいある銅鑼を鉄球クレーンでぶっ叩いたくらいの音がする。
もはや銃の発砲音なんて、安物のクラッカーが不発に終わった時くらいには気にならない。
「んおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!うるせええええええええ!!!!!!!」
しかしフルコンするためには撃ちたくなくても撃たねばならない。
はいそこ赤ァ!
ここまで来たら絶対に初見ノーミスでクリアしてやると、決意を込めてトリガーを引いたが、またもや妙な違和感が…。
「ハハッ、ジャムってやがる…。そっかぁ、ここまでリアルにやるんだなぁ」
クソがよ! 爆音、いや超爆音とでもいうべき音の洪水の中、腹立ちまぎれにハンドガンをノーツに投げつけた。
あ、判定出るんだな。
◇
鼓膜に直接「音」という概念をぶち込まれたような感覚、強制最大音量1000%、騒音MAXの工事現場の音が川のせせらぎに思えるレベル、例えるならこんなもんか。
「音が痛い…」
別に急に詩的なことが言いたくなったわけじゃない。
「っていうか、これもうそういう拷問だろ!!!」
拷問は条約で禁止にされたはずだろー!
この際、音量が上がるのはもうそういうものとして割り切るしかない。
設定から音量をミュートにすることも考えたが、このゲームの良さである曲を聞き逃すってのもな…。
他の音ゲーなら無音フルコンボも可能な俺ではあるが、曲を楽しめるなら楽しみたいという気持ちもある。
NASAで開発した超高性能耳栓とか持ち込めないっすかね… あ、無理? そうっすか…。
結局最終的に、耳の中に爆竹を詰め込まれたような状態になったがなんとかステージクリアはできた。
クソがよ。
(あとがき)
ネタを思いついてからコツコツ書いてましたが、公式とネタが被ってしまったため筆を置きます。新ネタ思いついたらまたやるかも