日本で使えない薬!?
こんなすごい薬があるらしいよ!
あ、、でも日本では売ってないんだって。
ってことは米国とか?
そうだねー
こういうことって、時々あるんです。
(非医療者ではこんな会話ないですよね。。。)
欧米では売っているけど日本ではまだ売っていない薬。
なぜこのような事態が起こるのか。
簡潔に答えるのは難しいですが、日本の制度や製薬企業の問題が複雑に絡んでいるようです。
こんな方は必読
欧米と日本で売っている薬の違いを知りたい方
薬の進歩に興味がある方
日本の医療を変えたい方
上述ように、他国では売っているのに日本では売っていない薬がある、なんて話はどこかで耳にしたことがありませんか?
病気とは無縁な健康体の方は聞いたことがないかもしれませんね。
持病を抱えていて定期的に通院している方や、ご家族が闘病中の方は、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
特に指定難病や悪性疾患(いわゆる「がん」)を抱えている場合、こんな状況に遭遇するかもしれません。
難病?
悪性疾患?
そうです。
勘の良い人はお気づきかもしれませんが、既存の薬では治療が難しく、新しく薬が開発された時に生じる事象になります。
このように、海外では売っているのに日本では売っていないことを『ドラック・ラグ』と呼びます。
ドラッグは薬、ラグは遅延ですね。
タイムラグ、のラグです。
厳密にいうとドラッグ・ラグという言葉には2つの意味があります。
1つは、先の通り他国では発売されているのに、日本では発売されてないこと(未承認薬といいます)。
もう1つは日本でも発売はされているが、発売までに要した時間が他国よりも長かったこと、です。
どちらも、他国比較してのラグですね。
一般的に使用される意味
&
実際の臨床で問題になるのは、
前者の「未承認薬」ですので、
今回は未承認薬について勉強しましょう。
実際に、未承認薬はどれくらいあるのでしょうか。
データをご紹介します。
2016年−2020年の5年間に欧米で承認された新薬246品目のうち、176品目(72%)が日本では未承認薬だったそうです。
(医薬産業政策研究所のレポートからのデータです)
176/246 。。。
ちょっと多すぎない?
って感じるのが普通のリアクションだと思います。
表現を逆にしましょう。
日本で発売されているのは
246品目中70品目しかないのです。
ちょっと寂しいですよね。
そもそも、薬は実在するのに、どうして売っている国があって日本では売っていないのか。
決して意地悪ではないです。
その国が承認している薬かどうか、が鍵なんです。
では誰が承認しているのか?
岸田さん?(内閣総理大臣)
いやいや
加藤さん?(厚生労働大臣)
いやいや
国ごとに定められた機関があります。
日本ではPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
米国ではFDA(米国食品医薬品局)
欧州ではEMA(欧州医薬品庁)
という機関の承認を得て、国内での発売が認められます。
ということは、、
日本のPMDAが厳しすぎるのか?
固く考えずに、もっと承認してよー
状態なのか?
PMDAだって承認したいのです。
でも、そこにはきちんと定められたルールがあります。
そのルールに沿うと、どうしても上記のような結果になるのです。
国だって問題は認識し、色々と対策をしてくれています。
難しい言葉が並びますが、複数の国で同時に行う国際共同治験を促進させたり、治験・臨床研究ネットワーク体制を推進したり、PMDAの審査員を増やしたり。。。
なんのこっちゃ。
でも、何かしら考えてくれているのはわかる。
しかし、国が取り組んだ結果、2010年代に国内未承認薬の割合低下を認めましたが、2016年を底として再度増加傾向になっています。
一筋縄にはいかないのです。
薬って難しいんですよ。
承認基準はそれぞれの国/地域で異なります。
新型コロナワクチンもそうであったように、他国で使用しているから日本でも使用して良いってわけではないのです。
この件に関しては、ワクチン反対派の皆さんが一番よく感じられていると思います。
国として安全性や効果をしっかり調査したのか?
本当に大丈夫か?
他国がやってるからって日本でやる必要があるのか?
と言った、日本特有の慎重な姿勢を推奨する声が出ましたよね。
その姿勢でルールを設けると、ドラッグ・ラグのような問題があるのも納得できませんか?
薬に関してもう1点。
欧米人に対して効果が高く安全だからといって、アジア人も同等とは限らない。
アジア人に対して効果が高く安全だからといって、日本人も同等とは限らない。
だから、国内での慎重な検証が必要なんです。
承認は早かったけど、普及した後に、
やっぱり効果はありませんでした。
思ってた以上に重篤な副作用が多かったです。
では取り返しがつきませんよね。
少し気持ちが落ち着いてきましたか?
それでもやっぱり、他国で使用できる薬が羨ましくなることもあります。
冒頭でも述べたように、指定難病や悪性疾患(いわゆる「がん」)を抱えている場合、新薬は喉から手が出るほど待ち遠しいものです。
薬効別に見ると、国内未承認薬に占める抗悪性腫瘍薬(がんに対する薬)の割合は約20%と最も多く、そのハードルの高さを感じます。
少しでも成績の良い抗悪性腫瘍薬の開発に、全世界が必死に取り組んでいます。
海外での開発が日本より進んでいるという事実は間違いありません。
しかし、日本にだって実績はあります。
悪性腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボ開発の柱は京都大学の本庶佑先生です。
その功績が評価され、2018年にはノーベル生理学・医学賞を受賞されています。
私の専門である肺癌でオプジーボが使用できるようになった2015年、全国の呼吸器科医の空気が一変したことは今でも鮮明に覚えています。
様々な学会や勉強会に足を運び、最新の治療に関して必死に勉強しました。
オプジーボが関与するセミナーやセッションは人が溢れ、会場全体が熱気と興奮に包まれていた記憶があります。
少し観点を変えますが、国内未承認薬は、あくまで国内で売っていない、のであって、決して国内で使用できないわけではありません。
どこかの医療機関が海外承認薬を輸入して治療に使用することもできる、極端なことを言えば非医療者が個人輸入して使用することもできる。
例えば、肥満に対する薬、脱毛に対する薬、勃起不全に対する薬なんかを、海外から輸入して飲んでいる人、見たことありませんか?
私も今現在、国内未承認薬を処方しています。
効果や安全性をクリニックとして検討し、患者さんのメリットを考えると、使用する価値は十分にあると判断した結果です。
保険診療の病院では、なかなか難しいですが、自由診療のクリニックでは意外に見かけるものです。
実はあなたも日常的に、国内未承認薬を目にしているかもしれません。
盛りだくさんの内容になってしまいましたが、今回は国内未承認薬のドラッグ・ラグについて考えました。
この記事を読んでどう感じるかは十人十色だと思います。
正しい、間違っているの白黒はっきりする話ではありません。
医療について、薬について、日本の医療制度について、考えるきっかけになれば嬉しいです。