<よりみちコラム 行ってみて・やってみてわかった地域性>/「ニューヨークから今、これから」イラストレーター 森 千章さん/公募インタビュー#3
(2020年5月下旬)
+ 行ってみて・やってみてわかった地域性 +
日本人はニッチを追究、欧州は売れ線中心
森さん Creema(クリーマ)のイベントに行って面白いなと思ったのは、その時、売り手のみなさんそれぞれ、すごくニッチな世界を追究していて、しかもアマチュアなのにプロ並みのテクニックを持ってるんですよ。
私、旅行が好きで海外のマーケットも行くけど、私が見る限りでは海外のマーケットは売れ線を売ってて、独自の世界を追究するって意外とないんですね。特に西洋の国のマーケットに行った時に感じたのは、普段の生活の時は個性的であっても、ものを売るに際しては完全に合理的な価値観になる。例えばきのこだけのグッズみたいな、誰が好きかわからないけど自分は好き、みたいなものを作る人ってマーケットの中ですごく少なくて。
日本人っていうのは、自分の好きな世界を広めていい場だったらどんどんニッチに行くけど、公の場になると途端にそういうのを隠す気がして、それもすごく面白いなって思ったんですよね。
──今まで全然スポットが当たらなかったニッチなものって、バズるとすごいですよね。
森さん どうしてそれまでバズらなかったんだろうと思いません?最初の瞬間は本当にそれを好きな人が注目したのかもしれないですけど、それだけじゃバズるまでにはならなくて、波紋になって広がってバズっていく時は、「注目されているもの好き」みたいな感じの人が波紋を広げていくんだと思いますね。
バズるという現象には、ニッチなものが好きな人と、波紋を広げる「注目されているもの好き」の人も、どっちも必要なんでしょうね。
ギャラリー展示@金沢 一点もの重視の土地柄
──イラストの展覧会などもされているんですか?
森さん 最近は都内ではやってなくて、ずっと地方の方で旅行がてらやっていました。
──楽しそうですね。
森さん 楽しかった。地方も行ってやってみなきゃわからないことがたくさんありました。
私、留学したNYCの大学の提携校があったから、石川県金沢市の学校に留学前の一年間、あちらに住んで通っていたんです。その縁もあって、金沢で展示をやりたいなと思ってギャラリーを探したんですけど、まず石川県の金沢市っていうのは、現代美術のギャラリーとか工芸の工房みたいなのはあるけど、イラストレーションギャラリー的なものはあんまりない。人口の割合的にもイラストをやってる人がそんなにいないからかもしれないですけど。
また、金沢は工芸の町だからかもしれませんが、一点ものの作品ではない、私のイラストのような、印刷物になって完成するようなものに関しては、あんまり反応が感じられなかった(笑)。
私、あまり原画を売るのが好きじゃなくて。私の中では、イラストというのは印刷物になったのが完成品だと思っているんですね。だから、売るのもプリントアウトされたグッズだったりとか、壁にかけるような絵もプリントだったりして、その分原画よりも安く手に入るから私はいいと思ってるんですけど、逆に金沢の人たちは、「え、これ原画じゃないんだ?」という感じで、全然反応が薄いんですね。
あと、昔ながらのお店の社長さん同士の付き合いが根付いていますね。私が展覧会をさせてもらったところは昔お布団屋さんで、古民家をすごくきれいにリフォームされて、ギャラリースペースも兼ねたところだったんですね。隣に服飾の専門学校もあったから、結構そこの生徒さんが来るかなと思ったけど、ほとんど来なくて(笑)。私の絵に魅力がなかったからもしれないけど、大勢来てくださったのは、その布団屋さんの社長さんのお知り合いの方々。やってみなきゃわからないもんだなーと。面白かったです。
──地域性みたいなものがあるんですね。
森さん すごくありますね。私、お隣の富山県でも展覧会をやったことがあって、富山はまた違って、 もう少しオープンな印象でした。歴史も違うし、移住者も結構多いようなので、また違う地域性 があるのだと思うけど。観光だけだったらわからないことだなと思いました。
──森さんのイラストレーションの最終形は印刷物だというのは、印刷物のために描いたからなんですよね。
森さん そうです。
最近は原画も描いてもいいかなとも思ってるんですが。でも手描きから始めてもデジタルで完成するイラストもあるから、その場合はもう完全にプリントになっちゃいますね。
──原画を売ろうと思って描いたら、原画が最終形になるもの?
森さん うん、そうだと思います。
エージェンシー時代に感じた日本の独自性
森さん インタビュアー田中さんが好きな吉田戦車さんの絵。アメリカにはこういう絵、なかなかないですね。こういう絵を見ると、アメリカの人は未完成なものだと思うんですって。日本には未完成なものが多くて、それも好ましいとされてビジネスになる特殊な環境です。
──未完成かあ、まずそう思っていなかったです。
森さん それが日本のいいところでもあるし、私の香港にいる友達もこういう吉田戦車さんとか、安西水丸さんとかの絵が好きで、すごく日本っぽいって思うみたいなんです。香港にも、こういう絵で漫画を描くことを受け入れる土壌がないみたいで。日本は独特なんだなあと思います。
私が働いてたエージェントの人も日本の市場に興味があって、私も日本支部としてそれなりに頑張ってやったけど、やっぱり日本には日本独特の、いわゆるガラパゴスみたいな市場があるんですよね…日本のやり方でうまくやらないと難しいのかなあと思いました。
──森さんがエージェンシーの日本支部でやっていたのはどういうお仕事?
森さん 海外の、所属イラストレーターの人たちを日本に売りこんでいました。うちのイラストレーターを使ってください、と。
日本の人は絵に興味は持ってくれるけど、料金が高いんじゃないかって思っている節があったな。
あと、今はだいぶ変わったけど、当時のアメリカのビジネスのやり方って、概要も契約書もバチッと決まってからスタート、って感じなんですけど、日本のイラスト周辺の業界って、最初なあなあなところから始めることがすごく多いから、アメリカの人に納得してもらえなかった、というのもありました。
今はインターネットが発達したので、日本と仕事してる海外のイラストレーターも増えたと思うけど、当時は簡単なことではなかったです。
聞き取り:インタビュアー田中
*タイトル上のイラストは森千章さんご本人の手によるもの。写真も記事内容に合わせお借りしました。クリックすると大きいサイズで見られます。
森千章さんインタビュー記事まとめはこちら
(公開した記事から収録していきます)
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インタビューされたい方から応募いただき、インタビューするシリーズ「インタビュアー田中の公募インタビュー!」の第3回は、イラストレーターの森千章さんにお話を伺いました。
森 千章(もり ちあき)さん
米国NYの美術大学、Parsons School of Design イラストレーション学科卒業。卒業後NYのイラストレーター・エージェンシーに勤務し、帰国後は同エージェンシーの日本事務所代表、米系化粧品会社の制作部勤務等を経て独立。手書きの風合いを大切にした女性らしいタッチと都会的でスタイリッシュな作風が注目され、現在、雑誌・書籍・広告・Webなど幅広いメディアで活躍中。(森千章さんHPより引用)
※インタビュアー田中の発言の前には──が付いています。
付いていない発言は森千章さんの発言です。
※個人的な経験と記憶に基づいたお話です。事実、あるいは現状と異なる箇所があるかもしれません。
※今回は森千章さんの活動内容を踏まえ、ご本人の同意のもと活動名を掲載しています。(普段は匿名のインタビューを基本としています。)