「お金にこだわっていた私の、お金じゃない転職」公募インタビュー#29
〈岸さん(仮名) 2021年1月初旬〉
岸さんは新卒から2年半勤めた会社を退職し、2020年12月から新しい職場で働いていらっしゃるとのこと。最初の就職から現在の状況に至るまでをお話しくださいました。
最初の就職
“貧乏コンプレックス”/サボりつつ働く日々
岸さん (大学在学中の)就職活動の時は、やりたいことっていうのが特になかったんですね。モチベーションがないまま就職活動をしていたんですけど、最終的に就職はお給料だけで決めたんですよ。
私は昔からすごく“貧乏コンプレックス”みたいなものがあって。例えば進学先を決める時も、友人たちは何を勉強したいかで進学先を選んだりしているんですけど、私は選べなかったんですね。経済的な理由で、行けるのは地元の国立大だけ、浪人もできない。そういう小さいことの積み重ねだと思うんですけど、「お金がほしい」という気持ちがずっとありました。
それで、初任給とか昇給制度ばかり見て(笑)会社を選んで就活をして、ある金融機関に採用されて働くことになりました。ベースのお給料も高いですし、ボーナスもやればやるだけもらえる会社だったので、ラッキー♪っていうぐらいで何も考えず入社したんですよね。
──職種は?
岸さん 資産運用の営業職です。転勤のない営業職があって、転勤して一人暮らしするとなると何かとお金がかかって貯金できないなと思ったので、その職種に就いて実家から通勤し始めました。
で、入ってみたら、会社にいるだけでお金をもらえるんですよ、何もしなくても(笑)。ベースのお給料で満足していたので、私、けっこうサボりながら働いていて。会社に近いところに恋人の家があったので、徒歩で営業の時は恋人の家で昼寝、車で営業の時は実家に帰って昼寝、みたいな働き方を1年ぐらいしていました。
「なんか楽しくないな」/雰囲気の悪い職場
岸さん そういう、楽してお金をもらえる状況が理想だったはずなんですけど、2年目ぐらいから「なんか楽しくないな」と思い始めました。
会社はすごくピリピリした雰囲気で、上昇志向の強い人が多くて、引きずり下ろし合いみたいな空気もあったんですよね。なので、会社にいても楽しくないし、自分もがんばれていない。でもまあ、お金を稼げているからいいのかな、っていう気持ちで働いていました。
──会社の人たちの競争には乗らずに働いていた?
岸さん そうですね……私、会社の人たちが苦手だったんですよ。
もともと会社の雰囲気は悪いなと思っていたんですけど、1年目の夏に、ある先輩に陰口みたいなことを言われたんですね。
先輩が人にメモを回してて、メモを読んだ人が先輩に「お前やめろよそういうの」とか言ってて、なんだろうなー、なんか嫌な感じだなーと思ってたんですけど。今となっては全然気にしてないんですけど、私、パンプスのケアをせずに働いていたら足がめちゃくちゃ臭かったらしくて(笑)、先輩は「岸さん足臭い」って書いたメモを回してたんです。
帰り際に先輩の紙ゴミをシュレッダーにかけるのが後輩の仕事だったんですけど、紙ゴミを受けとってシュレッダーにかけてたらそのメモが出てきちゃって(笑)。
──それは悲しい……
岸さん (笑)そう、悲しいし、詰めが甘いなと思ってイライラするし。そんなこともあって、社内の人と余計関わりたくなくなっちゃって。
営業成績1位になろうと周りをライバル視して情報を集める人もいれば、逆にみんなで切磋琢磨してがんばろうというような人もいたんですけど、私はずっと一人でやってましたね。
2年目のラッキー でも、うれしくない
岸さん 2年目になってもあんまりがんばってなかったんですけど、たまたまラッキーがあって、ものすごく大きい契約を2回決めたんですよ。そのことでお給料は上がるし周りもほめてくれたんですけど、これが努力してつかみとった結果ならうれしかったんだと思いますが、そうではなかったので「いやー、生きてただけ……」みたいな気持ちで。
うれしくはないんだけど、でもお給料もボーナスも増えたし、まあいいかな、というような気持ちにより拍車がかかりましたね。
相変わらずそんな気持ちで働いていたんですけど、2年目の終わり頃、その大きな契約によって社内で賞をもらいました。
そうなると今度は周りの目が変わってきて。上司はやる気を出したらもっとできるはずと思ったんでしょうね、期待の圧がすごくて「女だからってがんばらなくていいと思ってんのか!」って怒鳴られたりしたんですけど、だからと言ってがんばろうとは思えなかったんですよね。
その辺りでようやく「私、お金以外でやりたいことがあったのかもしれない」って思い始めて、そんなことを考えながら3年目に入りました。
──やる気がなくても大きな契約に成功するなんて、自分には才能とかセンスがあるのでは?とは思いませんでしたか?
岸さん まったく思いませんでした。その契約の取り方というのが、足しげく契約先に通ってとか、プランを練って持っていって、といった感じではなくて、私は考えるのも嫌いだったので、かたっぱしから電話をかけてキャンペーンを勧めたらたまたま大きい契約が決まっただけで。
みんなこの会社で働いていたらラッキーな時とそうじゃない時があって、私はラッキーな時にぶつかったんだなって思いました。
ただ、私が評価されることで私のチューター(教育担当者)をしてくれた先輩の成績が上がることだけはうれしかったですね。
上司はパワハラするし尊敬できなくて本当に好きじゃなかったですけど、先輩は仕事の実力もある上に、話を聞いて一緒に考えてくれるタイプの方で、期待もしてくれつつ、がんばれない時は「いいよ、サボっておいで。その分明日やってね」と寄り添ってくれました。上司の圧も隣でシャットアウトしてくれて。感謝しています。
3年目─恋人の背中
岸さん 3年目に入った頃は、違和感はありつつも転職は一切考えてなかったんですが。
私の恋人が、付き合ってから今までに2回転職をしたんですね。
1度目の転職では、お給料の良さで選んだ仕事が合わなくて、眠れなくなったり、食が細くなってしまったりしてすごくつらそうでした。なので、「今度は自分ができることでやりたいことをやる!」と固い決意をもって次の仕事を探して、1年後に2度目の転職をしたんです。
そうして仕事を変えてから、毎日すごく楽しそうなんですね。お給料や労働時間の条件は悪くなったんですよ。でも、今日はこういうことができるようになったよ、ってうれしそうに教えてくれたりして。
それを見ていて、条件って絶対じゃないんだなと思ったし、恋人は「自分のペースで働けて、雰囲気が体育会系ではなくて、自分のキャリアを生かせる」といった要件で探して吟味したらしいんですけど、その仕事の探し方を見ていたら「やりたいこと」ってそんなに具体的じゃなくていいんだ、って思って。
それまでは、例えばデザイナーとか花屋さんとかの具体的な職業名を答えるのだとしたら自分には「やりたいこと」がないなって思っていたんですけど、やりたいことを仕事にするってそういうことではなかったのかもしれないなと気づいて、初めて転職を意識し始めたんですよね。
恋人は、仕事は嫌だけど転職は…と思っている私のことも気にして、環境を変えた方がいいんじゃないかと思ってくれていて。でも転職は怖いだろうから、まずは自分が転職に成功した姿を私に見せられるようにするね、とも言ってくれていました。
──すごい。なかなかできることじゃないですね。
岸さん はい、すごくいいやつなんですよ(笑)。
身近な人が転職に成功する姿を見られたことも、私にとって大きかったと思います。自分に置き換えて考えられたので、私にもできるんじゃないかって、やる気が出ました。
お金を持って消えた、お金への執着
岸さん あと、私のお金に対する価値観もその頃には少し変わっていて。
ありがたいことに困らないぐらいのお金を毎月もらえるようになって、ふと、コンビニで値段を見ないで物を買ってる自分に気づいたんです。
でも、別にうれしくないなって思ったんですよ。限られた額のお小遣いをもらって、プリンを買うかアイスを買うか悩んでた時もよかったなと。
お金のコンプレックスが解消されてみて初めて、私はお金をすごくほしかったわけじゃないのかなと思えた。
ずっとお金への執着心だけがあったけど、がんばらないのもつまらないから、お金にこだわらないで、もう少しやりたいことができないかなと。
でも、ずっと適当な感じで生きてきたのを自分の力だけでガラッと変えるっていうのは難しいなと思って。今の仕事は好きでもないし、それなら仕事を変えようかな?というところに行き着きました。
テレワーク
岸さん それが3年目の春ですね。コロナの影響で、その頃ちょうどテレワークだったんですよね。なので、会社の人から離れて自分のことを考える時間がとれたのもあって。
──テレワークによって会社の人たちという1つのマイナス要素が減って、まだこの仕事でいいかなとはならなかった?
岸さん そうなんですよ。最初は私も、周りがいなくなってハッピー♪と思ってたんですけど、むしろ逆でした。
会えない間もチャットツールを使って社内のみんなでコミュニケーションをとろう!ということになったんですね。誰かが大きな契約をしたら、それを紹介する文章が投稿されて、みんながコメントを書く。
それがだんだん強制めいてきて、雰囲気がピリピリしてきちゃって。でもうまくやれる人は、面白おかしくヨイショするようなことを書いたりして、楽しそうにやっている。私はやりたくないけど、こういうことをできる人、やりたい人のほうがこの会社の中での主流なのかなと思いました。かえって自分と周りとの差が浮き彫りになった気がします。
合言葉は「フィーバー!」
岸さん あの、余談なんですけど、この会社、人をほめる時に「フィーバー!」って声をかける文化があって。
──おお……
岸さん (笑) 私はちょっとゾワゾワしちゃうんですけど、成果を出した人に「フィーバーです!」とか「フィーバーだね」とか声をかけるところから始まって、毎朝社内ニュースで「今日のフィーバー速報!」が流れたり、怒られる時も「みんなに気持ちよくフィーバーって言ってもらえるような商いしなよ!」とか。
フィーバーってなんだよ……ってずっと思ってて(笑)。昔におじさんが「今日は夜の街でフィーバーしちゃうぞ」なんて言ってた感じの言葉じゃないのかなって(笑)、最初から違和感がありました。
同期とは仲が良かったんですけど、同期がだんだん日常会話で「フィーバー」って言ってくるようになって。えー、やだ、染まりたくない。って思ったのが一番最初に会社に感じた嫌なことだったかなって今思いました(笑)。
──「フィーバー」になじまない派の人は他にいなかった?
岸さん 私の周りにはいなくて。仲がいい同期や尊敬していたチューターさんも、普通に話してたら私と似たような考えを持ってるんですけど、みんな疑問を持たずに「フィーバー!」って言うんですよ(笑)。私、同期の飲み会で「フィーバー嫌だ。気持ち悪い」って言ったことあるんですけど、「え!便利な言葉じゃん」って返されて、えー、人って意外と順応するんだなーって思いました。
テレワークのチャットでも、うまくやれる人は「課長まじフィーバーですねー!」とかっていっぱい書いてました。すごい嫌でした(笑)。
──「フィーバー」を駆使しつつヨイショするというか?
岸さん そうですね、そうやって盛り上げて。
うーん、なんか、そうやってみんなが盛り上がっていることに関しては何が嫌だったのか、いまだに深掘りができていなくて。みんなでワイワイするようなことは私はむしろ好きだったんですけど。嫌いな人が盛り上がってるから嫌だったのかわからないんですけど、前の会社のその盛り上がりは嫌でしたね。
──ではチャットにはあまり書き込みはしないようになって?
岸さん しないと目立つんで、心を殺して毎回「フィーバー」だけ送ってました。ユーザー辞書に「フィーバー」って登録して、「フ」って打って変換したら出るようにして、「フ」「フ」とかやってました(笑)。
転職へ
岸さん そうこうしているうちに仲が良かった同期の一人が転職したので、その子にもいろいろ聞かせてもらって。
その子は肩書きにこだわりがあって大企業がいいと思って入ったけれども、実際やってみたらそれだけではがんばれなくて、もう一回新しい環境でやってみたいんだと言っていました。
その姿を見たことでも、私も新しいところでがんばろう、転職しよう、と思いました。それが3年目の夏。2020年の8月ぐらいです。
その頃には、違和感が大きくなったまま働いていたことで無理がきていたみたいで、会社に行こうとすると具合が悪くなっちゃうことがあったんですよね。
そんな中、自分の誕生日にお休みをとって恋人と楽しく遊んで、次の日出社だったんですけど、なんか「もう、やだ」って思っちゃって。ずっと具合も悪かったし、いっそのことこのまま辞めてやろうかぐらいの気持ちになってしまって。
で、誕生日の翌日も具合が悪かったのでお休みして、病院に行きました。先生に状況をお話しして、「会社に行こうとすると具合が悪くなるけど、正直まだ病的なレベルではないと思う、でも私は診断書をもらって休みたい」と率直に伝えてみたら、「本当に病気になってしまう前に予防として休むことはおかしくないと思うから、診断書出すよ」と言ってくれました。
診断書をもらって、その翌日に上司に話して、1ヶ月休職することになりました。休職してすぐ、就職活動を本格的に始めました。
転職活動
岸さん 休職してよかったと思います。具合が悪くなったのは、休めっていうサインだったのかなと思いますね。休職したら本当に一瞬で治ったんですよ(笑)。だから、時間をフルに使って転職活動ができました。
気持ちをリスト化/転職エージェントに依頼
岸さん 初日はまず、紙に「これがやりたい」と「これはやりたくない」をとりあえずうわーって書いて。
それまで心苦しい営業をしなきゃいけないことがあったので、次は人からお礼を言われる仕事をしたいとか、自分が役に立ってると実感できる仕事がしたいとか。社員同士で競わせるのではなくて、チームプレーでやる仕事だったり、みんなでがんばろうという雰囲気の職場がいいなとか。
服が好きなのにスーツしか着られなかったのが悲しかったので、今度は私服で働きたいとか。朝が早いのが嫌とかも含めて、思いつくこと全部。
あと、お金のことは一回忘れようと思って、今までの支出を見直して、最低限暮らしていける額を算出しました。
それらを全部まとめて転職エージェント(※)さんに話して、求人を持ってきてもらいました。
職種も業種もバラバラで、私の出した条件に合うものを20件ぐらい持ってきてくれましたね。その中でも仕事内容に興味を持てたもの10件にしぼって応募しました。
※転職エージェント 求職者と企業をつなぐ人材紹介サービス。求職者から希望を聞き取り、求職者に合った仕事を紹介する。書類作成や面接のアドバイスなども。転職エージェントは就職に至った企業から紹介料を受け取るので、求職者は無料で利用できる。参考:岸さんのお話、マイナビAGENT
面接を経て方向が明確に
岸さん 面接が始まって各社の採用担当の方に話を聞いてもらううちに、やりたいことが少しずつ固まってきました。人に感謝してもらえる仕事で、かつ成長産業がいいなと。
元いた業界は、ネット系金融機関の台頭で有人の営業がどんどん下火になってきていたんですね。ネット系金融機関は手数料はかからないし、今は誰でもネットで情報がとれる。私がいた会社は有人営業の手数料商売ですから、まさにどんどん落ちていく中にいて、しんどかったことを思い出して。今から伸びていきそうな、テレワーク需要があるようなIT関係を選びましたね。コロナのこともありましたし。
10月中旬ぐらいに3社までしぼりました。企業用の会計ソフトを作っている会社で問い合わせに対応する有償のサービスデスク、お世話になっているのと同じ転職エージェント、システム開発企業の反響営業(※)の3つです。
※反響営業 自社の製品やサービスを宣伝し、問い合わせがあった顧客に対してアプローチする営業活動のこと。飛び込み営業とは異なり、商品にある程度の興味を持っている顧客に営業を行うのが特徴。参考:岸さんのお話、FUN OF LIFE
職場の雰囲気を確かめて
岸さん 3社とも内定が出て、最終的にどの仕事にも興味があったしやりたいことも満たしていたので、最後は会社の雰囲気を見たいと思って、3社とも社内を見学する機会をいただきました。もう、ピリピリした雰囲気もパワハラする人も嫌だし(笑)。
実際に訪問をしていく中で、最初にやめたのが反響営業を求人していた企業です。仲良くなった面接官の人に「本当に私に勧めたいですか。勧めないとしたらどういうところがありますか」って聞いたら、「社長がワンマンすぎる」って言ってたので、やめようって思いました(笑)。
──正直ですね(笑)。
岸さん 正直ですよね。仲良くなったほうがお話を聞かせてくれるかなっていう、ちょっとした打算もあって、その方の趣味の話を聞きつけてそこを毎回つついてたら、すごく仲良くなって、最終的にそう教えてくれて。
残りの2社はどちらも雰囲気はよかったんですけど、違いとしては、転職エージェントのほうはみんなで一丸となって戦いに行くぞといった雰囲気、サービスデスクのほうは攻めというよりは守りの態勢で、個々の力を尊重してみんな無理せずがんばろうねというような雰囲気でした。
すごく悩みましたが、前の会社でみんなが「フィーバー!」になんの違和感も覚えていない中で私は嫌だったことを思い出して、みんなが同じ意志でいることを前提とした組織ってちょっと怖いなと。それよりは、それぞれのペースがあることを重視した上で向いてる方向は同じというような職場がいいかなと思い、サービスデスクのほうに決めました。
ようやくそこまでたどり着いて、転職して、2020年12月からサービスデスクで働いています。
転職後
お給料がうれしくて
──働いてみていいかがですか?
岸さん まだ研修中なんですけど、すごくいいんですよ。成功したなあと思っています。
まずものすごく「人」がよかったです。誰もピリピリしていないし、育てようという気持ちがあって、それが押しつけがましくなくやさしいので、がんばろうと思えるんですね。
あとは、前の仕事ではラッキーとそうでない波があるというお話をしたんですけど、今回の仕事はそういうことではなくて、単純に身につけた知識がお客さんへの対応につながって、着実なレベルアップ感があるので、やりがいがあるなと思いました。
それに、些細なことなんですけど、前の会社だったらすれ違った時に「お疲れ様です」って言っても無視が当たり前、よくてぼそっと返してくれるぐらいだったんですが、今の会社はみんな「お疲れ様です」だけじゃなくて笑顔で手を振ってくれるんですよ。うれしいなーって思います(笑)。
仕事をようやくがんばれるようになって、先日新しい会社で初めてお給料をもらって、額は前の会社より減ってるのにうれしかったんですよね。お金をもらってこんなにうれしいの久しぶりだ、と思って。こういうことが「したかったこと」なんだなと思いましたね。
今回の就職で、年収が大体100万ちょい下がってるんですよ。結局、お金より大事なことがあると思ったので(それでも選んだ)。
最初の就職活動でそういうことに気づければよかったんでしょうけど、一回お金を持ってみないとこだわりがなくならなかったと思うので、前の会社もめっちゃ嫌いだったけど(笑)やってよかったし、価値観って変わるんだなーって思いました。
最近ようやく、サービスデスクとしてお客さんの電話に出始めたんですけど、すごい、です。わからないことが解決すると、みんなすごく感謝してくれて。「やーありがとう、助かったー」って言ってくれるので、うれしいですねー。素直にがんばろうって思えました、本当に。
──求めていたものが得られたんですね。
岸さん 嫌なところ、ないですね。お客様相手のお仕事なので、怒ってる人から電話が来たらつらいよ、と言っている人もいるんですけど、以前やっていたことよりもだいぶマシなので、私は何も気にならなくて(笑)。
客対応のスパン
──岸さんは人と話すのがお好きだったり得意でいらっしゃるのかなと思うのですが、そのことも今のお仕事を選ぶ1つの理由になりましたか?
岸さん 少しずれるかもしれませんが、私は綿密に準備をして大きなことを成し遂げるよりは、出たとこ勝負というか、とっさに反応するほうが得意だなとは思っていたので、リアルタイムのコミュニケーションである電話の仕事は向いてるかなとは思いました。
それに、私はしゃべるのは好きでも話を組み立てるのがちょっと苦手で、あちこち飛んじゃうんですよ。なので、一人と長い時間をかけてコミュニケーションをとっていって、毎回ちゃんとしたお話をするというよりかは、スパンは短く、いろんな人と話すほうができるかなと。
──前のお仕事では営業職としてお客さんと長いお付き合いが続く形だった?
岸さん そうなんです。ゼロの状態でお客さんを作るところから始まって、契約をしたらその人はずっと私のお客さんなんですね。
運用商品の営業の仕事って、買ってもらって終わりではないんですね。その商品が値上がりをした時に売って初めて利益がお客さんに出るので、そこまでことあるごとにフォローの連絡をしたり、場合によっては追加で入金してもらって買ってもらわなきゃいけない。本当に一生のお付き合いになるような仕事だったんです。
それはいいことでもあるんですが、お客さんの中にはやっぱり嫌な人もいます。毎日電話をかけてきてはちっちゃい声で恨み言を言う人とか(笑)。お金を出していただいているので、買ってもらった商品が値下がりしてしまったら冷静じゃなくなっちゃうのは仕方がないんですけど。
どうも合わないなって人と関係をつなぐのも難しかったですし、逆にものすごく思い入れがある長いお付き合いのお客様に、上司の指示一つで絶対要らないだろうものを営業しなきゃいけないのも嫌で。
今話してて思ったんですけど、そういうのもあって短いスパンがいいと思ったのかもしれないです。新しい仕事は良くも悪くも大体一度きり、30分ぐらいしゃべって終わりなので気が楽ではありますし、先入観がない分、どのお客さんにも平等にがんばろうって思いますね。
感謝を伝えたい
──今は精神的にもいい状態で生活されてる?
岸さん はい、すごく楽になりました。
今回インタビューを受けて気持ちが整理できたら、前の会社でお世話になったチューターの方に連絡してみようかと思ってるんです。私、会社を休職してそのまま辞めちゃったので、一言も挨拶しないままだったんですよね。ずっとひっかかってたんですけど、きっかけがなくて。
──チューターさんに対してはどんな気持ち?
岸さん ありがたかったなっていう気持ちが一番強いですね。その人がいなかったら、もっと早く考えを整理できないまま逃げ出していたり、上司のパワハラから守ってもらえなくてつぶれてたんじゃないかなと思っていて。一生懸命教えてくれたのに無駄にしちゃったというのはありますけど、働いてたこと自体は無駄じゃなかったのと、いいタイミングで自分で決断できたのはその人が守って育ててくれたおかげなので、今うまくやれてることも伝えたいなと思います。
仕事とは
──仕事というのは岸さんの生活や人生においてどういった位置づけのものですか?
岸さん うーん。私は最終的に、友人や親も含めて好きな人に囲まれて、愛し愛されて生きていけたらいいなと思っているんですけど、それにはまず健康な精神と肉体が必要だと思っていて、それに必要な要素の一つが仕事かなと思います。
やりたいことを達成するためにやらなければいけないことが仕事ではあるんですけど、一方で……やりたくないけどやらなきゃいけないことのままでは、結局一番大切な、健康な心と体は手に入らないと思うので……うーん、ごめんなさいね、まとまってなくて。
ええと、なんて言えばいいかな。仕事は、やらなきゃいけないことなんですけど、やりたいと思ってやらなきゃいけないことだなって思います。
──今のお仕事は長く続けたい?
岸さん そうですね。辞めないでやっていきたいなあと思います。たぶん、体にガタがくるまでずっと働くと思いますね。60歳とかまで。勤め上げたいですね。
(終わり)
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