「男を着る女」公募インタビュー#11
〈永瀬 律さん(仮名)2020年6月下旬〉
永瀬 律さんは、Twitterや日常生活でなさっている秘密の試みについて話してみたいと応募してくださいました。
他の方と同じく、永瀬さんとはインタビュー当日まで文面だけのやりとりをしていました。
日程調整がおもな内容で、特に永瀬さんの人物像に触れるやりとりはなかったのですが、永瀬さんのTwitterのプロフィールやTwitterアイコンの画像(お顔は写っていない)、DMの文章から、永瀬律さんはこんな感じの人だろう、というイメージが知らず知らず自分の中にできていたようです。
ちょっといかつい、前時代の価値観にとらわれず自分の能力でこの時代を自由に泳いでいる、やり手の20代男性。私がそんな人物像を思い描いていたということに、インタビュー中に予想が裏切られることによって気づく、という現象が起こりました。
(※今回に限り、インタビュイーさんの印象に言及いたします。)
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(お互いの顔がビデオ通話画面に映る)
「初めまして、永瀬です」
「初めまして、インタビュアー田中です」(永瀬さんのお姿を拝見して、自分が無意識に永瀬さんをいかつい人だと予想していたことに気付く。ほぼ正反対の印象で、軽く衝撃が走ったため。ほっそり色白、重めの前髪を斜めに流した短髪。例えるなら俳優の杉野遥亮さんのような涼やかな印象)
まず1つ自分の思い込みに気付いてから、事前の諸確認も済んでいよいよインタビューへ。
※インタビュアー田中の発言の前には──が付いています。
永瀬さんの秘密
永瀬さん(以下、ナ) 最初にお話ししておきたいんですけど、質問内容にNGは一切ないので、面白くなりそうだなと思ったり、気になったことがあったら何でも聞いてください。
──わかりました。ありがとうございます。
永瀬さん、Twitterや日常生活で面白い試みをしていて、ということでしたね。
ナ Twitterのツイートを見ていただいてるかわからないんですけど、私、男性としてTwitterをやってまして。
──……!
ナ 私自身は女性なんですけど、
──!! そうですか!
ナ (笑)気付いてました?
──いや、私は完全に男性のアカウントだと思ってDMのやりとりをさせていただいていました。(※そして話し始めてからも気付いていなかった、と思う。いろいろな衝撃のためか記憶が曖昧)
※後に詳細が語られますが、永瀬さんは男装をされてインタビューに臨まれています。
ナ そのTwitterアカウントではたまに(画像で)顔出しもしてるんですけど、Twitterだけのつながりのフォロワーさんには一切女性とバレていないんです。リアルの友人もつながってるんですけど、みんな打ち合わせたかのように、私を男性としてリプライをしてくれていて。
──打ち合わせていないのに?
ナ そうです。友人にフォローしてもらうときには男性としてやっているアカウントだということだけ言うんですけど、みんな言わずとも‘くん’付けで呼んでくれたり、男子に接するときの話し方をしてくれたりして。コミュニケーションツールの中で実在しない男性が作られている、みたいな感じです。
Twitterでは、友人が「永瀬 律」という架空の人物の偶像を通して私と会話をするという、ごっこ遊びがされていますね。
──ツイートしている内容は、架空のこと?
ナ 実際あったことをツイートしています。ただ、例えば、“自分には彼女がいる”といった内容のツイートをしてるんですけど、実際は彼氏のことなんです。彼氏のことはすべて彼女ってことにしてツイートしてて、リアルの友人たちは本当は彼氏だと知ってるんですけど、「永瀬律の彼女」のこととしてコメントしてくれています。
アカウント名にしている「永瀬律」というのは本名ではないです。本名を少しもじって付けました。
注;「永瀬 律」さんという名前は、インタビュイーさんの実際のアカウント名からさらに変えてある仮名です。検索してヒットしたとしても、その方とこのインタビューは無関係です。
きっかけ
──どうして男性としてツイートし始めたんですか?
ナ 今私は20代半ばですが、Twitterは高校1年くらいに始めました。その頃からやっているとある趣味があるんですけど、2010年代前半当時、その趣味はは男の世界という感じで、女性に対して当たりが強かったんですよね。作品を公開しても、なんだ女かよみたいなコメントがあったりとか。
それで、趣味の世界に溶け込むためでもあり、面白半分もあり、男性としてTwitterをやり始めました。性別に言及せず作品を公開して、そこからTwitterを見にきた人は永瀬律を男性と思うだろう、という感じですね。
その頃は全然こういう男性の格好もしていなくて、髪も長くて、女子生徒の制服を着て高校に通ってたんですけど、そんな感じで男性としてTwitterの運用を始めました。
その後、大学に入って数年して、ショー用のカットモデルを頼まれてばっさり髪を切ったんですね。ベリーショートになって、気が向いて男装してみたら好評だったことがきっかけで、男装をするようになりました。
──普段から男装を?
ナ 普段からですね。大学も男装で行くこともありましたし、今はもう会社勤めしてるんですけど、会社も男装で行ってます。
──男装だけど女性、というのは周知していることなんですか?
ナ そうです。最近は性別に対してセンシティブだから、初対面の時に(自分から)これは趣味の格好ですという話と、バイセクシュアルでもある話もして、「気にしないでつっこんでもらって大丈夫でーす(笑)」って自己紹介していますね。
もう1つのアカウント
──男装するようになるまで、お化粧とかはしてたんですか?
ナ していました。今も、女装と言うと変ですけど、女性らしい化粧や格好もウィッグをかぶってやってたりして、女性としてやっているTwitterアカウントもあるんです。
──(※女性としての「まおな」(仮名)さんのアカウントを教えていただき自撮り写真などを拝見)おお!(男装のお姿とまったく違う、いわゆる女性らしい髪型とメイクと表情で、美容に強い関心のありそうな印象の女性だと感じました)
注;「まおな」さんという名前は、インタビュイーさんの実際のアカウント名からさらに変えてある仮名です。検索してヒットしたとしても、その方とこのインタビューは無関係です。
ナ 永瀬律とまおなは絶対同一人物だとはバレない形で、ただの相互フォロワーということになっています。
──こちらもリアルなお友達に知られているんですか?
ナ はい、友人には両方フォローされてます。
自分の中では2アカウントのキャラ付けが決まっていて、こういう話題をするときはこっちのアカウント、という傾向を大体決めています。また、自分の中のルールとしてできるだけ同じ時間にツイートしないとか、例えば旅行に行った時には両方のアカウントには上げずに、その時の旅行はどっちのキャラクターが行ったのかっていうのを決めてツイートしています。
──それは、ご本人として旅行には行ってるんだけど、ツイートするときはどっちかに決めるということですか?
ナ そうですね、自分として旅行などを楽しんで、Twitterの中での表現の形として、出来事を綴る役割を分けてる、みたいな。
私は多趣味なんですけど、どっちのキャラクターの趣味なのかっていうのはあって、例えば絵を描いたり、甘いものを食べたりした時のツイートはまおながやっていて、パソコン関連の話題とかシンプルなデザインの物を紹介するとか、めっちゃいい店でディナーとか食べた写真は永瀬律が上げてたりとか、そういうキャラクター付けがあります。
──人格、みたいな感じではなくて、完全にフィクションのキャラクター?
ナ あくまで外向けの表現なので、自分の中でどっちのキャラクターが行動してるっていうのは全然なくて、自分が男としてふるまうのか女としてふるまうのかっていう感じでTwitterや服装やメイクを分けたりしています。
──今(ビデオ通話で)映っている格好は永瀬律さんとしての外見?
ナ そうですね。永瀬として表現してる状態。みたいな。
──お仕事に行っている時にスーツで働いている状態というのは、どういう状態なんでしょうか?まおなさんじゃないんでしょうけど。
ナ 基本的には永瀬寄りの自分、みたいな感じですね。
驚かれるんですけど、仕事の取引先の方も永瀬のアカウントをフォローしてるんです(笑)。なので、飲み会の時「永瀬くん」って呼ばれたりしますね(笑)。本当の名字は永瀬じゃないのに。
取引先の方を含めリアルで付き合ってる人たちは、私が男の格好をしてる時と女の格好をしてる時があることはみんな知っていますね。
・ここで整理・
今回のインタビュイーさん:「永瀬 律(仮名)」という男性として運用するTwitterアカウントと、「まおな(仮名)」という女性として運用するTwitterアカウントを持つ、現在20代半ばの女性。普段は男性の格好(男装)をしている。時々女性の格好をすることもある。心は女性。バイセクシュアル。現在、男性のパートナーがいる。リアルの知り合いにはこれらの情報は知らせている。
男性のお姿でインタビューに応じてくださいました。
仕事のスイッチ
──会社にお勤めということですが、毎日スーツを着て出勤されている?
ナ こういう格好(※インタビュー時はTシャツにカジュアルめの黒いジャケット)でも出勤できるんで、お客さんに会わないときはゆるっとジャケットだけ着て行ったりとか。基本的に男装してるので、革靴を履いてたりはしてますね。
──毎日そうやって男性の格好でいる方が自然?
ナ そうですね。男装すると自分の「仕事する」スイッチが入る感じがあるのかも。もともと学生の時からフリーランスで音楽とかデザインの仕事をする時に男性としてやってたんで、もしかしたらその影響もあるのかもしれません。
髪にワックスをつけたり、胸にサラシを巻いてスーツを着て、とかすると気合いが入りますね。
それに、男装してる女性ってキャラクターとして珍しいじゃないですか。なので、お偉いさんから覚えてもらえたりして、そういうアドバンテージもありますね。
就活も。
──就職活動中から男装してたんですか?
ナ してましたね。でもさすがに履歴書の性別の欄は女ってしましたけど。働いてるのは女性としてなんで。
──面接に行った時は男物のスーツで行って?
ナ そうですね。メンズスーツにネクタイをして行きました。
──異性装によるハードルは感じませんでしたか?
ナ 全然。男性の格好をしてるから苦戦したとかっていうのは特になく、むしろ就活は順調でした。
──履歴書を見ると女性だけど、男性の格好してるんだね、という確認は先方からあるんですか?
ナ 確認すらなかったです。多分、聞いちゃダメなんですよ。人事って今コンプライアンス的にすごく厳しいんで、そういうのを聞いて差別して云々ってなっちゃうのを恐れてか聞かれなかったです。内定式の後の飲み会でラフな感じになった時に初めて「この格好は趣味なんですよ」という話をしました(笑)。
社風としても、仕事をちゃんとやってたら何も言われない社風なので。まずは仕事をやるように、そこは気をつけています。
──仕事もしたい格好でしようっていうのは、悩まずに判断できたことですか?
ナ 女性だからスカートをはいて行かなきゃいけないかな?とかは特に悩んだりはしませんでした。自分のしたい格好ができるのが当たり前と思って生きてるし、それを説得できるだけの自信もありました。
仕事で成果を出せる自信もあったし、最初の頃、「チャラチャラしやがって」と別部署のおっさんに陰口を叩かれたことはあるんですけど(笑)、そういうのは気にならないタイプです。自分の上司でもないおっさんがそれを言ったところで別にクビになったりしないですしね(笑)。
逆にさっきも言ったように取引先のお偉いさんにも覚えてもらいやすかったり、社内でもみんなが覚えてくれていて顔が広いので、そういうツテで仕事がうまくいったり、プライベートとかでも仲良くしてもらったり、良かったことの方が多いです。
いつでも変われるように。
ナ 男装について若干悩みがあるとしたら、いつまでこの格好をしようかなっていうことです。自分で言うのもなんですけど、今はまあまあ格好よくできてると思うんですけど(笑)、
──(深めにうなずいていたと思う)
ナ 歳をとってきた時に、パッと見で女性とわかんないような感じにできるかどうか。今は体型をしぼったり、サラシを巻いたり、筋肉をつけたりして男性に見えるようにしているんですけど、それがいつまでできるか。そんなに深刻には悩んでないんですけど(笑)。
パッと見て男性としか思えなかったらいいんですけど、男装女子じゃなくて男性として見られたいと思ってやってるので、男装女子と思われたら終わりだと私は思ってて、そこがまたややこしいんですけど(笑)。
だからハードルがちょっと高いというか、そのレベルを担保できなくなったら男装をやめたくなるんだろうな。
──男装をやめたくなったら、その時着たい服を着るだけだっていう感じですか?
ナ 私は自由主義というか、刹那的というか、その時に自分が思ってることを最優先するんです。今やりたいことに、それ以上の意味を持たせない。今こんな風に男装して楽しくやってるから将来も男装していかなきゃ、ということは全然思っていなくて、いつ変わるかわかんないから、いつでも変われるように、その時の自分を大事にできるように、いろいろ準備したり考えたりしています。
こうしていることが運動の一部
──好きな格好をしたいけど悩んでいる人に対して働きかけることは考えますか?
ナ 自分自身は、TPOさえ押さえれば…例えばド派手な格好をしてお葬式に行くとかそういうのがなければ、本当に好きな格好したらいいと思うんですけど、特別、イベントやデモに参加しようとまでは思わないです。ただ自分がこうして男装して外に出たりとか、普段からメンズスーツを着て女性として働いてたりする、その実績自体が運動の一部だと思うので。
──好きな格好をするの、すごくいいなあと思うんですけど、今まで特に発信はしていない?
ナ 自分が女性だけど男装してるよというのを人にアピールしたのは今日が初めてですね。
なぜ応募したか
──Twitterでは一生明かさないであろうことを話してみたくなった、って応募の際に書いてくださったんですけど、どうして話してみたくなられたんでしょうか?
ナ 今まで話さなかったのは、単純に、話す機会がなかったからですね。リアルの友達はみんな知ってて改めて言うことでもないし、かと言って全く知らない他人に対しては絶対に男性であるっていう風にやってるし。
第三者として匿名でインタビューしてもらえる、というツイートを見た時に、もしかしたらちょっと面白い記事にしてもらえるかなって感じて。言いたくて仕方なかった、っていうよりは、なんか面白そうだなってパッと思いついて。
──今回インタビュアー田中に応募してくださったのは、話してみたいだけでなく、記事になって他の人の目に触れることも期待している?
ナ インタビュアー田中さんがどういう記事を書くのかも楽しみというか。こういう話をしてフィードバックをもらうことが普段ないので、自分のこういう生き方を知らない人が聞いた時にどういう風に感じて、さらにどういう風に人に発信するんだろうっていうのが気になりました。今回のインタビューは自分自身とか世の中に対しての興味というより、インタビュアー田中さんへの興味も大きいと思います。
──なんかプレッシャーでドキドキしてきました(笑)。
ナ 自分自身もクリエイターなので、人の作るものって面白いし、この試みに個人的に興味があって。ビジネスを考えるのも好きで、こういう風にしたら収益化できるのではとか、ご自身のモチベーションにつなげられるのではとか、勝手な妄想をめっちゃしながら今日を楽しみにしてました(笑)。
(※この後、考えられる収益化のパターンを少し伺いました。
インタビュアー田中がインタビュー前に抱いていた永瀬さんのイメージ、“前時代の価値観にとらわれず自分の能力でこの時代を自由に泳いでいる、やり手”という部分については当たっていましたね、きっと)
自信が本当になっていく
──お仕事とかご自身の能力に自信があるとおっしゃっていたし、お話をしていて実際自信がある印象も受けるんですけど、自信があるからこそ好きな格好をできるのでしょうか?
ナ ああ…それ、いい質問ですね(笑)。思い出しました。昔はすごく自信がなかったんですよ。陰キャだったんですけど(笑)、男装を始めて変わりましたね。
──男装を始めてからなんですね。
ナ 始めてから、素の自分も変わってきました。最初の頃、男装をすると自信に満ちあふれて自分の能力がさらに伸びていくのを感じたなあ、っていうのを思い出しました。
──それは男装が永瀬さんの着たい服装としてぴったりフィットしてるから自信があふれてくるのか、それとも男性の格好というものが鎧や武器みたいなものになっているのか…
ナ 多分、後者ですね。男装することによって、自信のある自分を演じてるっていうのが近いかも。で、演じていると自然になっていく。虚勢から始まった自信が本当になった、みたいな。
嫌なことをすぐ忘れるんで忘れてたんですけど(笑)、私、以前めちゃくちゃ病んでたんですよ。大学2年生ぐらいの時かな、自信がなくて鬱々としていて、カーテンを閉め切った暗い部屋でご飯もろくに食べずベッドとPCデスクを行き来する、終わってる一人暮らし、みたいな時代がありました。趣味の活動は続けてたんですけど。
鬱々時代前から社交的ではあったんですけど、髪を切って男装を始めてからさらに友人も増えて、人との関わり方みたいなものが自分の中で確立されていった。多分それまでは自分がどういう人間なのかわかっていなかったんですよね。心が解放されたのか、そこからは自信に満ちあふれてきた。男装のおかげで就活が無事にいったのかもしれないです。すごく自信満々に就活に臨めたので。
──鬱々としてた時代から髪切って男装を始めて、徐々に変わっていったんですか?それともガラッと?
ナ 徐々にですね。その時は人の視線が怖いレベルで、外にも出られなかったので、まず外に出られるようになって。髪が長い時から今の彼氏と付き合ってるんですけど、その時メンタルが荒れてたので、関わったら刃傷沙汰になりかねないくらい(笑)で距離を置いてたんですけど、彼氏にも普通に接することができるようになり、家族や友人とも会話できるようになって。普通の人間に1回戻りました。そこから今の自信がある人間になったかなという感じ。
モテる。
──男性の格好をしていて、女性に好きになられることはありますか?
ナ あります。もともと、女性の格好をしていた時から、女性にモテました。男性からも。
──告白されたら、男女関係なく、特定のパートナーがいますので、とお断りする感じですか?
ナ そうです。前はどちらにしても単純にお断りしてましたが、今はパートナーがいるので、って断りやすくなりましたね。
実は今年結婚するんですよ。
──おめでとうございます!
ナ なので、結婚したらなおさら断りやすくなるというか、多分声はかからなくなるかなと若干の期待をしています。
──すごい、そんなにモテるんですね。
ナ 自分で言うのはあれですけど(笑)、そうですね。一般的に見てそこそこ声はかかる方だと思います。
──恋愛対象として見られる時に、男性として見られる方がいいとか、女性として見られる方がいいとかありますか?
ナ それはあまりないのですが。男装してる時に男性に告白されたことがあって、そういうボーイッシュなあなたが好きだ、というようなことを言われたんですね。
男だと思って(男性同士の同性愛として)告白してきたんだったらまだわかるんですけど、男の格好で私が男性として見られたいモードだった時に女性として見られていたのは強烈に違和感があって、嫌でしたね。しかたないんですが。その人は男装してる私を女としてとらえてたんだなー、なるほどね、と。
──そう思ったことは相手には伝えずに?
ナ はい、普通に断って終わりました。
──自分をどっちとして見て好意を打ち明けてくれているのかわからない場合でも、特に質問はしないですよね?
ナ わざわざ質問はしないですけど、そう疑問になる時の方が多くて。女子って、女子に対して軽率に好きとか言うじゃないですか。
──(笑)
ナ 多分、女性の同性愛の方…一般的にレズと呼ばれる人たちや女性のバイの人たちのあるあるだと思うんですけど、ガチで好きって言われてるのかなって思ってドキドキする時もあるし。
私は、女友達に「男だったら付き合いたかった」とか言われると空しくなりますね(笑)。付き合いかったとかじゃなくても、勝手にふられた気分になって微妙な気持ちになります。
逆に、お店選びとか、旅行の計画を立てたりするのが好きなんで、そういうのをやってあげた時に友人から「こういう彼氏ほしー」「彼氏だったら最高」とか言われた時はうれしいです。私が男である、女であるっていうの関係なく、人間としてこういう人とお付き合いしたいと言われていることがうれしい。言葉の中に「私が女性だから残念」っていうニュアンスがあると、ちょっと微妙な気持ちになっちゃうんですよね。
フェミニズムー男も女もやって思うこと。
──私の場合ですけど、あまり考えずに生まれた性で生きてきて行動しているけど、無意識に型にはまって社会的に演じてるところもきっとあるんでしょうね。でも実は性別も自由に行き来できたり、自分で決められることなのかもしれない、っていうのをお話ししていて思いました。
ナ 私がやってることって、男女の差をわざと表現してるんですよ。男性ならこうする、女性ならこうする、っていう自分の固定観念の中で、自分の思う男性を演じているし、自分の思う女性を演じているし、何も演じていない時もある。なので、いわゆる男らしさ女らしさっていうものを作り出している側なので、差異を埋めようとしている人から見たら敵かもしれない(笑)と思ったりしますね。
──永瀬さんが男性の格好をしていると仕事がうまくいくというのは、男性の方が働きやすい社会だからなのかなとか、そういうようなことは思われますか?
ナ いや、あんまり。私自身の考えは、けっこうフェミニスト寄りなんですが、男性の方が社会的に優位であるとはそんなには思ってなくて。自分は社会的に男性としても女性としても生存してる状態なので、そうやって世の中を見ていると、この社会は女性優位な部分もあったりするんですよ。
言ってみれば私は両方いいとこ取りしてる人間ですが、逆に両方悪いところも見てるんです。直接的な被害で言えば、女性の格好で電車に乗っていて痴漢にあったこともあるし、男性として駅を歩いていて酔っ払いにグーで殴られて事件になったこともあって(笑)。
どっちも大変だし、どっちに対しても(いい方向に)上げてくぶんにはいいじゃん、と思うんですよね。
レディースデーが云々って言うんだったらメンズデーも作ればいいし。そういう考え方なんで、そういう争い…いわゆるツイフェミの論争とか見ると、そんなに意識しなくてもいいのになと思います。
あと、やっぱり現実として、自分はどんなに男の格好してても生理は来て、重くて仕事にならないから休みをとったりとかもあるんで、生物学的にどうしようもないことも感じる。男も女も変わらないという主張もあるけど、全部同じは実際無理なんですよ。
その人その人でリスペクトして、男でも女でも殴っちゃいけないし、痴漢しちゃいけないし、そういうことでは性別はあんまり関係ないだろうと思いつつ、でも区別は必要だと思う。男と女は一緒だから何もかも同じにしよう、は違うでしょ、っていう意見ですね。
自由に生きるために準備する。
──インタビューの応募のように、面白いと思ったらすぐやってみる方ですか?
ナ そうですね。ビジネスが楽しいので、何でもかんでも自分の能力をお金に変えてみたりとか。
会社の中でもやりたいことやらせてもらってます。1年目はやりたいこと何でも、開発やってみたり、いろんなことやって、今マーケティングが面白いのでマーケティングやらせてもらって、みたいな。
自由にやるためにはそれなりの能力が必要だし、周りに認められてないと好きにはできないっていう考えがあるので、それなりの評価をとるようにとか、人からそこまで悪く思われないようにとか、その辺は気をつけています。
その時々の感情を優先して動くために、前もって冷静に下処理をしておく、みたいな感じかもしれません。
(終わり)
今回、自分の中に「イメージ」がいとも簡単に作られていたことに気づかされるとともに、裏を返すとイメージや観念とは、たやすく壊れ得る、か弱いものでもあるんだと思いました。
飛び越えられないと思いあきらめていることもまた、思い込みにしばられているだけで、やってみれば実は容易に飛び越えられるものなのかもしれない。こんなに軽々と「性別」を行き来している永瀬さんという方が実在しているのです。
自分をしばるのはいつでも自分に過ぎない。のかもしれません。