魚返明未さんへのインタビュー/第3回「人の多面さを音楽で表す」
ジャズピアニストの魚返明未さんにインタビューしました。
ご自身がライブで演奏する曲の他、映画やCMなど、さまざまな分野の音楽を手がけている魚返さん。
どんな思いや考えから曲が生まれているのか。
第3回では、主に作曲についてお話を伺いました。
動画版はこちら(演奏あり)
まさかこんなにジャズやるとは
ーー明未さんは高校時代にモダンジャズ研究部に入ったそうですが、その時ジャズに転向したんですか?
一応そうですね。
モダンジャズ研究部っていう部活動があって、そこで初めて人とアンサンブルするジャズっていうのをやりました。
ーーもともと好きだったから、ジャズの方に行ってみようと?
そうですね。
まあその頃はまさかこんなにジャズやるとは思ってなくて。
どちらかというと、先ほど言ったみたいに(第1回参照)、ルーツの音楽を体験できるって貴重な機会だなと思って。
ジャズやってみたら、すごく楽しかったです。
ーープロのピアニストになろうっていつ頃から思ってたんですか?
プロのミュージシャンになれたらいいなとはずっと思ってましたね。
ピアニスト限定かどうかはわかんないですけど。
作曲であったりとか、キーボードのプレーヤーとか、なんかいろいろ。
けどまあ、高校生でジャズをやるようになってからは、ピアニストって思いは固まってきたかなっていう感じがありますね。
曲を作るということ
ーー明未さんは大学で作曲を学ばれたそうですが、最初に作ったジャズの曲ってどんな曲だったんですか?
高校でジャズ研に入って、自分達で演奏するために作った曲が最初ですかね。
ーーじゃあもう高校時代から作曲されてたんですね。
そうですね。
まあ普通のブルースとかそういうやつですけど。
ーーメロディーって降ってくるんですか?
それとも考えるんですか?
どうですかね(笑)
その頃と今とではだいぶ違うかもしれないです。
その頃はどうやったのかわかんないですけど、今はちょっとだけ降ってきて、その後すぐ考えるって感じですかね。
ーー1小節とか2小節とか降ってきて、それを広げていく作業になるんですか?
そうですね、1小節2小節ぐらいの具体的なものがあればまだいい方です。
「ちょっとこの感じいいな」ぐらいのものが降ってきて、どうしようどうしようってやる感じですかね(笑)
ーーその作業って楽しいですか?
しんどいですか?
ちょうど半分ぐらいですね。
楽しいけどしんどいというか。
ーー明未さんは映画音楽などの作曲もされてますけど、たぶん納期とかあると思うんですね。
そことのせめぎ合いってあったりするんですか?
あー、まあありますね。
ちょっと耳が痛い話なんですけども(笑)
そうなんですよね、そういう作曲だと必ずこの日までには終止線を引かなきゃいけないっていうのがあります。
それに合わせてどんどん思考が固まっていくという感じですね。
ーー最近では、昨年の12月に池袋で1週間限定で上映された金子智明監督の『僕らはみーんな生きている』の音楽を担当されました。
最初に依頼があった時はどのように感じましたか?
貴重な機会なので、とても嬉しく思いました。
だいだい映画のお仕事ですと、音楽付ける時点である程度の絵ができてることが多いんです。
ラフな状態のものを見せていただいてすごく感動しまして、この音楽を担当できるのが嬉しいなと思いました。
ーーそれを見てどんな音楽を作ろうと思いました?
けっこう人のネガティブな部分がたくさん描かれている作品です。
なので、この映画に限らずかもしれないんだけど、暗いものには明るさを、明るいものには暗さを、というか、人の多面的な部分ってのが常に入ってる音楽がいいのかなと、なんとなく。
それは僕の好みでやってる部分もあるんですけど。
人間にはいい部分と悪い部分があるよね、みたいなことを描いてる作品だったんで、暗くなりすぎないけど、絶対明るくはなりすぎない方がいいかなとは思いました。
ーー予告編を見たんですけど、ダークな内容みたいだなと思いました。
だからこそ光の部分も表そうという感じなんですか?
そうですね。
無理に光らせることもないんですけど、負の感情を煽るようなものではなくて、ずっと流れていても気にならないような、そういう音楽がいいかなと。
けっこう極端なストーリーです、映画なので。
ただ、なんかそれ(人の心の中に潜む悪)って、日常生活でもあるよねみたいな。
監督さんとかどう思ってるかわかんないけど、あると感じたので。
僕はすごく共感することが多かった。
それが映画の過剰な演出によってそう見えるってよりは、ほんとに些細なことでそれが表に現れてくるけど、常に人間には根底にあるんだよっていう感じの音楽ができたらいいなと思いました。
ーー同じく明未さんが音楽を担当された、『栞』(2018年・榊原有佑監督)と『truth~姦しき弔いの果て~』(2022年・堤幸彦監督)の方は、本編を見ました。
両者は全然テイストの違う映画じゃないですか。
でも、明未さんの音楽ってどちらも登場人物達に寄り添うような感じだなって思いました。
やっぱり映画は関わる方がすごく多いです。
そこら辺はアドバイスをいただきました、たくさん。
映画の音楽プロデューサーの方もいらっしゃいますし、監督さんも。
そこらへんは自分が映画のお仕事で勉強してるとこかもしれないですね。
適切なパスをその人達が僕に投げてくれるので、それで画面に寄り添って見えたりとかするのかなと思います。
ーー2022年2月にリリースされた、ギタリストの井上銘さんとのデュオアルバム『魚返明未&井上銘』も、すごく寄り添う感じだなと。
ピアノとギターが会話しているように聞こえました。
レコーディングの時ってどんな感じだったんですか?
ライブをたくさん重ねてきたユニットなので、レコーディングの時はほんとに落ち着いて、ただ普段やってることをやるだけって感じでしたかね。
ーーいつものおニ人、みたいな?
そうですね、銘くんがけっこう人をリラックスさせてくれる人なんです。
僕はけっこう緊張感を出しちゃう方なんで(笑)
たくさんサポートしてもらったかなと思います。
~第4回へ続く~
<公演情報>
『邦人室内楽コンサートシリーズPoint de Vue vol.16』
2023年4月19日(水) 18:30開場 19:00開演
東京文化会館 小ホール 全席自由 ¥4,000(前売券・当日券 共通)
魚返明未さんの新曲「Impose Nothing」が初演されます。
(演奏:トリオ・ヴェントゥス)
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