キャンディ・H・ミルキィさんへのインタビュー/第6回「人目が気になったら」
女装愛好家のキャンディ・H・ミルキィさんにインタビューしました。
東京・柴又にある「キャンディ・キャンディ博物館」の館長も務めるキャンディさん。
「子供が成長していく上で必要なものが全部入ってる」という作品の魅力について語っていただきました。
また、「やりたいことはあるけど、人目が気になってできない」という人へ向けたメッセージもお話しいただきました。
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これからしたいこと
何をしたいかな。
長崎には去年1回行ったし、北海道にも挨拶してきた。
名古屋に行きたいから、最後一回りして、そしたらもう外行くのは終わりにする。
小さな掃除は毎年1回やってるから、大掃除をやりきって、YouTubeもいっぱい撮り溜めて、ぐらいかな。
そんな普通の生活をして、ある日、寝たまんま起きなかったという最期が理想かな。
――『キャンディ・キャンディ』で似たようなシーンがありますよね。
ただ、諸事情により今は絶版になっていて、作品名は知っていてもどういう話か知らない人も多いと思うので、ちょっとご紹介いただいてもいいですか?
孤児院で育った女の子が金持ちの家に貰われて、その家の子にいじめられたりするんだけど、別の大金持ちの養女になる。
でも最後は、元の孤児院に帰っていくという話なんです。
――私はウィリアム・マクレガー(キャンディが最初に働いた「ヨゼフ病院」の患者)の最期のシーンにグッときました。
大おじ様と同じウィリアムだったんで、最初、キャンディは大おじ様と間違えるんだけどね。
――すごい花吹雪の中で寝ながら亡くなって、幸せな最期だなってあれ見て思いました。
そうだよね。
ほんでほら、マクレガーが「ミーナに会いたい!連れてきてくれ!」って言ってお嬢さんかと思ったら、犬なんだよね、セントバーナードのね。
マクレガーが息を引き取った後、(看護学校の)メリー・ジェーン校長がキャンディに「そんなんでメソメソしていてどうするんだい」って言うんだけどさ。
この作品は、人の生き死にをものすごく大事に描いてんだよ。
家族愛、恋愛、動物愛、友情、そういったことが盛りだくさん入ってて。
その中で、いじめの問題もあれば嫉妬の問題もあり、もう子供が成長していく上で必要なものが全部入ってる、そういう作品なんだよ。
子供には『キャンディ・キャンディ』を読ませればいいというぐらい、道徳的な本なの。
ところが、原作者と漫画家が裁判ざたになっちゃったことをきっかけに、出版界はこれを絶版にしてしまう。
作品の内容じゃないんだよ、原作者と漫画家の喧嘩が元で絶版の憂いにあってる。
日本ではそうやってもう消えちゃったけど、海外ではこの『キャンディ・キャンディ』が少女漫画、少女アニメの古典として残ってる。
著作権で揉めたくせにきちんと管理してないから、海外では勝手に放映されちゃってる。
だから海外から「キャンディ・キャンディの博物館があるんですね」ってたくさんの人が来てくれるわけ。
漫画家と原作者は喧嘩しててもいいけど、もううちら読者が『キャンディ・キャンディ』を預かりましょうと。
結構そういった志を持ってる人が日本にも何人もいて、それぞれ活動してるんだけど。
読者と漫画家さんと原作者さんで作品っつうのは成り立つんだけど、うまく解決する方法ってないんかな。
――キャンディさんが作品を初めて読んだのっていつ頃ですか?
女装クラブに行ったら「名前を付けろ」って言われて、「キャンディにします」と答えた時に、周りの人が『キャンディ・キャンディ』のキャンディだと勘違いしたことから始まる。
で、まあ別にいいやという感じで、その内だんだん興味持って読み始めた。
男の漫画しか読んだことなかったんだけど、男が読んでもよかった。
かっこいい男が出てきたりして、これいいじゃないかと。
なぜかなと思ったら、やっぱり根本なんだよ。
人が死んだり、生きたり、悲しんだりして、しかも全部素直に。
ニールなんていういじめっ子も出てくるけど、結局はちゃんと収まってんだよ。
イライザという女の子も最後まで「キャンディは嫌いだ」っつったけど、それなりの理由があるわけで。
そうなってくると、いわゆる悪い奴はいない。
教育的って考えたら全部が教育的な人たちばっかりが出てくるわけ。
だから子供に読ませたい漫画だなっていう。
道徳教育をやるんであれば、まず『キャンディ・キャンディ』を読ませろと。
こういった本というのは全てそうだけど、1年生の時、6年生の時、高校生になった時・・・と読むと、その年代その年代で理解が深まっていくから。
実は大人になって読んだって、「ええっ!」と思うような事実が本の中には隠されている。
1コマ、2コマ、3コマを改めて見ることで、子供の頃読んだ『キャンディ・キャンディ』とは全く違うストーリーが出てくるんだよ。
そこら辺はキャンディ博物館に来ると詳しく話してるんだけど(笑)
――キャンディ博物館って柴又にあるじゃないですか。
何で柴又なんですか?
博物館の階下にある「セピア」という喫茶店の1コーナーで、キャンディグッズを展示させてくれるって話があったの。
1か月間の約束で展示したら、すごく評判がいい。
で、「2階の部屋が空いてるから、そこでやってみませんか?」という話が出て。
常設館という形で始めただけで、別に寅さんと関係があったわけでもなく。たまたま喫茶店の前のオーナーさんが声をかけてくれた。
その方は漫画家の陸奥A子さんのファンで。
「セピア」という店名は陸奥さんの『ミルキー・セピア物語』という作品から取ってるわけよ。
ミルキーったら私キャンディ・ミルキィの名前じゃん。
縁があったのかな。
1つの建物の中に、『りぼん』(集英社)の陸奥A子さんと『なかよし』(講談社)の『キャンディ・キャンディ』が同居した。
寅さんの街・柴又で、いきなりキャンディ・キャンディの看板上げたんだから、やっぱり周りの人達も「何が来ちゃったんだ」となったと思うね。
でも今ではね、私が参道を歩いてたらみんな声かけてくれるし、すごくありがたい。
寅さんの映画みたいに温かくて許容してくれる人情の街。
でも、寅さんの生き方に憧れを持ってもいいけど、決して私の人生には憧れを持っちゃダメですよ(笑)
「いいですね、キャンディさん」なんて言われるけど、とんでもない。
端から見たら結構私も自由にやってきたように見えるのかな。
やってきたんだな、きっとな。
――好きなことを貫いてきたっていう感じがします。
貫いたって言えばかっこいいけど。
女装だってさ、こんなんいつでもやめてやるよっつってさ。
明日でもやめたいけども、やめる理由がないからっていうだけで、結局やめられなかったわけじゃん(笑)
そもそも主義主張があってやってるわけじゃない。
――「やりたいことはあるけど、人目が気になってできない」っていう人もいると思います。
そういう人にメッセージを贈るとしたら?
人目が気になったらやっちゃダメ。
今でも人目は気になってんだけど、止まんないんだよ、自分が(笑)
それだけの話。
正直ね、朝化粧してフッと鏡見た瞬間、ウゥって自分で思って「今日はちょっともう外に出るのやめよう」と思う時もある。
それを超えてでも出ちゃうぐらいのエネルギーがあって超えるんで、そうじゃない場合はしちゃダメ。
でもね、化粧して他人からはあそこの誰々さんだってわかんないうちは面白いから。
フルフェイスのヘルメットかぶった暴走族みたいなもんで、顔がわかんないと、人間なんか度胸つくからね(笑)
商店街の抽選で当たって野球見に行ったことあるんだよ。
近所の電気屋さんとか魚屋さんとかいっぱい来てた。
その電気屋でいっつも男の格好で買い物してんのにさ、チラチラ見てきて「オカマが来てる」っつってんだよ。
「二度とお前んとこじゃ買わねーぞこの野郎」と思ったけど、気がつかないんだよ(笑)
歩いてたらちょっかい出されたりもするけど、それ以上に面白いこともいっぱいあるから。
で、人目が気になったらやっちゃダメ、もう簡単。
――今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
~完~