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渡邉さんインタビュー



シェルアーティスト・渡邉康子さんインタビュー


—「芸術脳が開花したからこそ、私はここにいる」—
渡邉康子さんは、シェルアートを通じて、繊細な美しさと生命の尊さを表現するアーティストです。しかし、その人生は決して平坦なものではありませんでした。40代で頭部外傷による脳損傷を負い、高次脳機能障害と向き合いながら生きてきた彼女。その中で、彼女を支え、導いたものこそが“芸術”でした。

「高次脳機能障害」とともに生きるということ


—— 渡邉さんは40代で頭部外傷を負い、それ以降、高次脳機能障害を抱えながら生活していると伺いました。その影響について教えていただけますか?

渡邉さん:「事故や病気などで脳にダメージを受けると、記憶や注意力、感覚の処理能力に影響が出ることがあります。私の場合、気圧の変化に敏感になったり、周囲の音が一気に頭の中に飛び込んできたりして、情報の整理がうまくできなくなることがあります。たとえば、人混みの中にいると、全ての音が同じ強さで耳に入ってしまうので、会話に集中するのが難しくなることもあります。」
「また、脳がダメージを受けることで、以前はできていたことができなくなる場面も増えました。予定通りに物事を進めることが難しくなったり、エネルギーを管理することができず、突然動けなくなってしまうこともあります。自分の意思に関係なく、脳がうまく機能しなくなる瞬間があるんです。」

—— そのような状況の中で、どのように日々の生活を送っているのですか?

渡邉さん:「一番大切なのは、“自分のペースを大切にすること”ですね。以前は、“普通の人と同じようにやらなければ”と無理をしてしまうことがありました。でも、無理をするとすぐに疲れてしまい、何もできなくなってしまう。だからこそ、今は“できる範囲でやる”ということを大切にしています。自分のリズムを大事にすることで、心の負担が少し軽くなりました。」

感じる世界が、違う


—— 渡邉さんのお話の中で、「脳にはフィルターがある」という話がありましたね。それについて詳しく教えていただけますか?

私たちの脳は、日々無数の情報を受け取りながらも、必要なものだけを選び取る「フィルター」のような機能を持っています。例えば、人混みの中でも必要な音だけを拾ったり、強い香りがあっても気にしないようにしたりする。
でも、渡邉さんはその「フィルター」が壊れています。

渡邉さん:「わたしの脳には、環境からの刺激を振り分ける機能がないんです。だから、すべての音、すべてのニオイ、すべての感覚が、そのまま脳に飛び込んできます。」

それは、どんな世界なのだろう。

渡邉さん:「例えば、ニオイって脳にダイレクトに届くんですよね。だから、ストレスを感じたときって、好きなニオイを求めたくなりませんか? それと同じで、わたしの脳も、常にたくさんの刺激を受けながら、それをどう受け止めるかを探しているんです。」

「音もそうです。人が普通なら聞き流すような小さな音まで、すべてが等しく聞こえてしまう。まるで犬並みに敏感な耳と鼻を持っているような感覚ですね(笑)。」

「皆さんは好きな歌手のコンサートや映画館での映画鑑賞、ミュージカル、お友達とのカフェでのお喋りを普通に楽しめますよね? でも、わたしは違います。脳のフィルターが壊れているせいで、聞きたいところだけを聞くことができません。すべての音が混じって、ただの騒音になってしまうんです。」

彼女の世界では、何もかもが強く、鮮明に飛び込んでくる。
彼女の世界を少しだけ、想像してみてほしい。
私たちが何気なく通り過ぎているものが、彼女にはどんなふうに映っているのかを。

「芸術脳の開花」— 失ったものと得たもの


—— そんな中で、アートとの出会いが大きな転機になったと伺いました。

渡邉さん:「はい。私は、40代で脳損傷を負いましたが、その後、芸術に没頭することで、自分を取り戻すことができたんです。まるで、失われたものを埋めるかのように、私の“芸術脳”が開花しました。創作することは、私にとって“生きること”そのものになりました。」
「けれど、その一方で、失ったものもたくさんあります。できなくなったこと、諦めなければならなかったこと、そして、元の自分に戻れないという現実。それでも私は、アートを通じて、新しい自分を築いていくことを選びました。失ったものを嘆くのではなく、今あるものを大切にして、それを最大限に活かす。それが、私が選んだ生き方です。」

—— では、アートがご自身にとってどのような意味を持っているのでしょうか?

渡邉さん:「アートは、私にとって“自由”そのものです。言葉では伝えきれないことも、作品を通じて表現できる。自分の感情や思いを、形にして残せる。もし私が一生アーティスト人生しか生きられないのだとしたら、それを全うするまで、私は自分の強みを発揮し続けたいと思っています。」
「障害を持っていると、“できないこと”にフォーカスされがちです。でも、本当は“できること”もたくさんあるんです。だからこそ、私はアートを通じて、障害者の持つ強さや可能性を伝えたい。私の作品を見て、“こういう生き方もあるんだ”と感じてもらえたら嬉しいです。」

「こういう生き方もある」— 伝えたいメッセージ


—— 最後に、障害を持つ方やその家族に向けて、何か伝えたいことはありますか?

渡邉さん:「障害があると、“普通の生き方”から外れてしまうように感じることがあるかもしれません。でも、それは決して“人生の終わり”ではありません。むしろ、新しい道が開かれるきっかけになることもあるんです。」
「私自身、脳損傷を負ったことで、それまでの生活は大きく変わりました。でも、その中で芸術という新しい世界と出会い、自分の強みを見つけることができた。もし、障害を持つことで“何もできなくなる”と感じている人がいたら、そんなことはないと伝えたいです。障害があるからこそ、見える景色がある。できることがある。私はその可能性を、これからも発信していきたいと思っています。」
「だから、もし今、苦しいと感じている人がいたら、焦らずに“自分のペース”で進んでほしい。ゆっくりでも、立ち止まってもいい。大切なのは、あなた自身があなたらしく生きること。それを忘れないでほしいです。」

最後に


渡邉康子さんのお話を通じて、高次脳機能障害という特性を持ちながらも、それを乗り越え、自分の生き方を確立する強さを感じました。彼女の作品には、彼女自身の人生の物語が刻まれています。

彼女のメッセージは、障害を持つ方だけでなく、すべての人にとって大切なものではないでしょうか。「できないこと」に目を向けるのではなく、「できること」を見つけ、伸ばしていく。その積み重ねが、自分だけの道をつくるのだと。

彼女の作品展の開催が決まりました。詳細が決まりましたら、また改めてお知らせさせていただきます。ぜひ、多くの方にご覧いただきたいと思います。

渡邉康子さんのInstagramはこちら

高次脳機能障害とは


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#アート
#高次脳機能障害

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