ABILITY & MASAKAZU KIMURA
プロデューサー&レコーディングエンジニア木村正和さん。
J-POPからJAZZ、FUSION、映画音楽やドラマの劇伴など、あらゆるジャンルを手がける。近年はドラマー 川口千里のプロデュースを手掛けるなど、プロデューサーとしても活躍。
レコーディングエンジニアとしてのDAWとの関わりやABILITY 3.0の魅力をインタビュー。
“DAWなら、掛けたいところで掛けたいエフェクトをいくらでも自由に使えるから楽曲の表現力が変わる。”
━ DAWとアナログコンソール(ミキサー)でのミックスの違いをお聞かせください。
私は、レコーディングエンジニアになってから長い間、ミキサー卓といわれるアナログミキサーでミックスをおこなってきましたが、DAWになって大きく変わったところは、アウトボードに使っていたエフェクターが、プラグインになったことである意味無限に使えるようになったところだと思うんです。
アウトボードだと数に限界があったので、決まった数以上は使えないっていうところがあります。
また、アナログのミキサー卓の場合、オートメーションはフェーダーの上げ下げとカット情報ぐらいしか書けなかったところが、DAWではフェーダーの上げ下げやカットはもちろん、それ以外にもエフェクトのSENDに加え、そのエフェクトのパラメーターまでもがオートメーションで書けるようになったところが大きな違いとしてあると思います。
言葉でいうと非常に素っ気なく感じますが、掛けたいところに、掛けたいエフェクトをいくらでも掛けられると、楽曲の表現力がまったく変わってきます。
“フレキシブルにカスタマイズできる操作性やMS処理対応、そして使い慣れたSONNOXエフェクトの組み込みが非常に便利で価値がある。”
━ ABILITY 3.0を使ってみてどのような印象をお持ちですか?
IMSTA FESTAでABILITY 3.0を使わせてもらいましたが、全般的に画面の操作というか、例えばフェーダーを大きくしたり小さくしたりというようなところもすごくフレキシブルで、自分の使いやすいようにカスタマイズできるところがすごく便利です。
VCAグループは他のDAWソフトでもグルーピングできますが、VCAフェーダーとChannel Linkの2種類の方法を目的に応じて使用できるので、そのあたりもすごく便利だなと感じました。
━ 近年よく使われるオーディオのMS処理についてもお聞かせください。
今までステレオファイルを扱う場合、ステレオファイルに対してまとめてエフェクト処理をしていたのですが、近年MS処理ができるようになり、ステレオファイルのセンター定位のものとLRに定位しているものに別々にエフェクトをかけることができるようになりました。
左だけとか右だけ、あるいはセンターだけとかをステレオファイルの中で処理ができるようになっています。
そうすることで音の広がりや音圧のあるサウンドを得ることができます。
━ 収録のエフェクトについてはどうですか?
癖がなくナチュラルなエフェクト効果が好きで、以前からSONNOX製のプラグインエフェクトを使用しています。
プロのレコーディング現場でも使用されることが多いですが、ABILITYには、SONNOX製のプラグインエフェクのトEQやREVERB、LIMITERが組み込まれていて、使い慣れたプラグインがそのまま使えるので凄く便利です。
ABILITY専用にカスタマイズされた仕様になっていますが、個別に買うことを考えるとそれだけでも十分価値がありますね。
ABILITY 3.0 Proでミックスをレクチャー
DAWを使用されるクリエーターの方々も、曲が作れても、ミックスは木村さんのような専門のエンジニアさんの領域と考えられる方が多いと思われます。
そこで、細部にまで深入りしないまでも、木村さんが日頃ミックスをされる際に気を付けている点などあればレクチャーをお願いします。
ミックスの手順について
ミックスを始める前にまずは送られてきたファイルを最初に読み込みますが、その時に名前の前に数字が付いていたりするので、そのトラック名をまずは分かりやすい名前に変えるのと、楽器のパートごとに自分で使いやすいようにトラックを並べ直すという作業をします。
その次は、その楽曲で使うであろうと思われるプラグインを、リバーブとかディレイ、マスターフェーダーなどを作って準備をします。
オーバーレブさせないために
ここでは、歌入りの曲でお話しをさせていただきますが、マスターフェーダーがレベルオーバーしないために、まず個々の楽器からではなく、歌のレベルを決めます。
その後にベースを出して歌とベースが音像的に同じぐらいになるようにしてから、他の楽器を調整していけばいいかなと思います。
ボーカル処理について
ボーカルの処理は、最初に録音の段階でそれなりに処理ができていればよいのですが、そうでない場合はイコライザーをかけたり、コンプレッサーをかけたりします。
コンプレッサーに関してはあまりアタックを早くしすぎない、リリースはなるべく早くするのがコツだと思います。
空間系のエフェクトの処理について
ボーカルにリバーブやディレイなどの空間系のエフェクトをかけますが、これはボーカルのトラックにそのままリバーブとかをインサートするのではなく、別にFXトラックを作って、FXのセンドリターンで使うことが多いです。
なぜかと言うと、そのトラックごとにリバーブやディレイをかけていくとエフェクト側の負担が大きいというのもありますが、一つのエフェクトに他の楽器からのセンドを送ることで音が馴染みやすくなるというのが大きいですね。
VCAフェーダーの使い方
例えばドラムの場合、スネアやハイハット、タムといったようにトラックがバラバラになっていますが、バランスをとっていく段階でどうしてもドラム全体のボリュームを変えたいということがあります。
その時にこのVCAフェーダーを使うと非常に便利で、初めに決めたバランスのままドラム全体を上げ下げすることができます。
さらにそのVCAフェーダーのオートメーションを書くこともできるので非常に便利かなと思いますね。
MS処理の使い方
MS処理ができるようになっていますが、どういう風に使うと便利かと言うと、例えばドラムのトップのマイクを混ぜていくと、どうしてもスネアの混ざり具合がオンマイクの音とちょっとマッチしない時があったりします。
そんな場合に、センターのスネアだけちょっとEQ処理をしたり、コンプレッションをかけたりして、トップのステレオマイクのバランスや音質などを変えることができます。
コンプ&ゲートの使い方
気に入ったエフェクトとして、コンプ&ゲートがありますが、これは、例えば生ドラムのタムなんかに掛けると非常に便利です。
ドラムのタムは、だいたいフィルの時にしか出てきません。
そこでタムが鳴っているところだけコンプ&ゲートで処理をします。
そうすると、タムを叩いていないところはスネアやハイハットなどタム以外の音が被っていますが、タムが鳴っているところだけゲートを開くようにスレッショルドで設定してやることで、音の被りを無くすことができます。
SONNOXのエフェクトについて
SONNOXのエフェクトが搭載されていますが、これは昔からあるプラグインエフェクトで使い慣れているというのもあり、どういう効き方をするのか分かっているので非常に使いやすいです。
特長としては、SONNOXのEQは非常に位相が乱れにくいっていうのがありますね。
気持ち悪くならないのが良いところです。
REVERB2について
REVERB2というプラグインエフェクトが搭載されていますが、これは普通にリバーブのパラメーターでリバーブタイムやプリディレイなんかも調節できますが、それに加えてそのリバーブ成分にイコライザーをかけられます。
例えば、リバーブをかけるとちょっともっさりしちゃうことがありますが、そういう時に低域をちょっとカットしてやることで、スッキリさせることがこのプラグインの中でできるようになっています。
その他のエフェクトについて
あと、よく使うのがディエッサーです。
これはボーカルに使うことが多いのですが、EQとかで音質をちょっとシャキッとさせた時に、どうしても「さしすせそ」の音が気になることがあります。
こんな時にスッっていう音をちょっと抑えていい感じに仕上げることができます。
マキシマイザーですが、これはマスターフェーダーに掛けます。
レベルをある程度あげたいという時にシーリングのレベルも設定できるので、オーバーしないでなるべくレベルをあげられるようになっています。
他のマキシマイザーでハードに掛けていくと結構潰れることもありますが、結構ナチュラルに音圧を上げていけると思います。
【木村正和さんプロフィール】
1988年、MIT studio入社。
1995年フリーとなり、2015年株式会社インアンドアウトを設立。
J-POPからJAZZ、FUSION、映画音楽やドラマの劇伴など、あらゆるジャンルを手がける。
近年はドラマー川口千里のプロデュースを手掛けるなど、プロデューサーとしても活躍する。
<WORKS>
杏里、石川綾子、五輪真弓、伊東たけし、今井優子、加藤JOE、川口千里、KIYO*SEN、金月真美、Kinki kids、CooRie、郷ひろみ、ゴスペラーズ、後藤真希、櫻井哲夫、Jadoes、城田優、シャ乱Q、田村ゆかり、つんくビート、ダンス☆マン、テゴマス、T-SQUARE、TiA、TRIX、中川翔子、中島愛、中園亜美、平原綾香、広瀬香美、FRAGILE、古川初穂ピアノトリオ、松浦亜弥、MOTO&MASU、モーニング娘。、観月ありさ、Method、米澤美玖
(※敬称略)