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ゼロから始める制作論

この記事は、ULMRが制作した音楽アルバム「雑誌の音楽」の特設ページに掲載されているインタビューを改題し、再掲載したものです。

──アルバム制作お疲れ様でした。

おかふじ ありがとうございます。

──今回のアルバムはまさにタイトル通りの「雑誌の音楽」ということで、やはり制作は大変でしたか?

おかふじ  まずAbleton LiveというDTMソフトをインストールするところから始まって、時間のある時にソフトの使い方や音楽理論を勉強して、トータルで4ヶ月くらいかかりました。

──なんと(笑)。本当にゼロから作ったって感じですね。

おかふじ はい。ですが、今ではそれなりに上達しまして。たとえば、トラックメイカーのtofubeatsさんのYouTube企画に「HARD−OFF BEATS」というのがあって、これはHARD・OFFで買ったレコードだけをサンプリングして新しい曲を作るという大変面白い企画なんですが、その動画内では実際に曲を作っているPCの画面が映し出されたりするんですね。で、彼らがなにをやっているのかだいたいわかるようになってきました。

──おお。すごいじゃないですか。手応えや反響はどうですか?

おかふじ それはもう、ほとんどないですね。

──え、そうなんですか。

おかふじ でも全然問題ないですよ。こう言うと強がりだろうと思われるかもしれないですが、そもそも自分自身に対してそんなに期待してないですから。「がんばって作ったから、周りからも評価されるはずだ」という淡い期待なんて、数年前からとっくになくなっています。だいたい、ちゃんと音楽ソフトと理論に触れて4ヶ月そこらの人間の作る音楽なんて、よほどの素質と時の運がない限り、評価されるわけがありません。

──なかなか自分に厳しいですね。

おかふじ 厳しいというか、単純に事実のみを見ているといった方が正確かもしれません。やっぱり最初のうちは、なにかに一生懸命に取り組んだら、その分の成果を期待してしまいますけど、それを繰り返すうちに、「まあ、俺が作るもんなんて、だいたいこんなところだな」とだんだん自分の力量が否が応でもわかってきますよ。

──期待という霧が晴れて、より視界がクリアになる感じですね。

おかふじ ですね。だからこそ、ここ数年はもっぱら「しっかり継続して、コツコツ技術を身につけなければいけないな」という気持ちで常に生きています。今の評価よりも、もっと長い時間軸で考えたいというか。事実として、音楽作りに限らずたいていのことは、取り組む時間に応じて技術がある程度身につきますし、クオリティや応用可能性も自然と高まっていくものでしょう。だから、今の自分や今の作品には期待していませんが「このまま続けていくと、結構良いものが作れるようになるんじゃないか」という未来への期待は、取り組むごとに高まっていますね。

──今への期待から未来への期待、良いですね。

おかふじ ULMRというメディア、ULMRという制作スタジオは、ぼくが死ぬまで続く予定なので、平均寿命くらいまで生きるとすると、あと50年以上は続く予定です。アルバム1枚出したくらいで一喜一憂できません(笑)。

──なるほど(笑)。

おかふじ もちろん、技術的に上手くなったから、クオリティが高くなったからといって、それが評価されるかどうかは別問題なんですけどね。テクいけど売れないバンドマンなんてたくさんいます。でも、今はとにかく「周りからの評価とは無関係に、自分自身がその行為自体を楽しめること」にエネルギーを注ぎたい。で、ついでに技術が身についたり作品が生まれればラッキー、みたいな感じですね。

──ふむ。

おかふじ とはいえ、なるべく多くのプラットフォームで配信したり、概要欄をしっかり書いたり、特設ページを作ってみたりと、鑑賞への入口をなるべく広くする努力は一応しているつもりです。

──ベンチにいるけど、入念にストレッチやアップはしておいて、いつでも試合に出る準備はできている選手、みたいなイメージでしょうか。

おかふじ ですね。また、楽曲の技術的な善し悪しは別としても、「雑誌の音楽」というコンセプトだけ考えてみれば、既存のほとんどの楽曲を凌駕している面白い試みなんじゃないか、という自負はあります。

──お。

おかふじ 自分で雑誌を作って、さらにその雑誌の音楽を自分で作って、さらにそのインタビューも自分でやる。マジなのかふざけてるのかよくわからない感じになっていますが、着実に、多くの人とは違う原動力で制作を進められている実感があります。

──ほお。それは良いことなんでしょうか?

おかふじ 文化の多様性という観点からすれば、たぶん良いことなんじゃないでしょうか。結局、雑誌も音楽も生活必需品ではないわけですし、こういった一般に「文化的」と呼ばれているようなものは、言ってしまえば、差異が大事なわけです。別々の映画監督が全く同じ映画を作っても意味がありません。

──たしかに。

おかふじ でも、商業的に成功しようと思ったら、どうしてもトレンドや売れるフォーマットみたいなものは無視できません。もちろん、それらを完全に無視することが良いことなのかはわかりませんが、少なくともそういった「時の束縛」を無視してもいいし、鑑みてもいい、というような“自由な状態であること”は良いことではないでしょうか。

──ほおほお。

おかふじ それが今の社会から評価されるかは別問題ですが、作家が時の束縛から自由であれば、どんどんと変なものが世に出てくるわけです。それはその文化全体の多様性、ひいては文化の活力を担保することにつながるんじゃないでしょうか。

──なるほど。

おかふじ しかしながら、ただ単純に時の束縛から離れて制作するとなると、それはそれで難しいというか、どこにも居場所の無い宙ぶらりんなものになってしまうんじゃないかとも思うんです。

──というと?

おかふじ ここから先はまさに現在進行形でぼく自身の課題でもあるんですが、単純に自由な仕方でぽつぽつとなにかをやっていても、なんというか、前に進んでいる感じがないんですよね。

──まあ、本当に自由にやっているんだとすると、足場がないというか、孤独ですよね。

おかふじ そうなんです。ですから、最近考えているのは、作品同士をうまくつなげていくということです。

──雑誌を作って、さらにその雑誌の音楽を作るというふうに?

おかふじ 大きく言えばそうですね。そうやって時の束縛から自由に作った作品をきっかけにして、次から次へと1つのシリーズを作っていくと言いますか、作品同士がチェーンで結ばれていくような、そんな感じでしょうか。

──なんとなくわかりますが、それってなかなか難しくないですか?音楽だけ作りたいという人もいるでしょうし。

おかふじ それはそうなんですが、もう少しミクロなレベルでもそれは可能だと思っていて。たとえば、今回のアルバムだと「109頁 / 109P. 」という曲があるんですけど、詳しい機能の説明は省きますが、この曲は「Instrument rack」という機能を使って音作りをしてみたんですね。

── はあ。

おかふじ で、曲を作っているうちに「この Instrument rack を使ったら、もっとこんなことできそうだなあ」と思って作ったのが 「145頁 / 145P.」なんです。どちらも曲の雰囲気は全然違いますけど、ぼくの中ではチェーンで結ばれているんです。

──なるほど。曲を作ることで、さらに新しい曲へと導かれていると。

おかふじ そうやって制作していくと、もはや時の束縛なんて意識するものですらなくなり、ひたすら制作から制作が舞い込んでくるような状態になるんだと思います。

──おお。

おかふじ 最初に言った通り、だから未来への期待は高まっているんですね。それは技術的な向上への期待という面もありますが、むしろ、このまま制作の鎖に導かれていくと、一体自分はどこに辿り着いてしまうんだろう、という期待なんです。

──なるほど、だんだんわかってきました。

おかふじ 「よし、完成した。じゃあ次はあれをやってみよう」という連鎖に身を任せると、気がついたらすごい方向に向かっていけるわけです。Billie Eilishの「bad guy」だって、今じゃ耳が慣れちゃってますけど、改めて心をまっさらな状態にして聴くと、めちゃくちゃ変じゃないですか(笑)。「は、なにこれ?」みたいな(笑)。あの曲が完成するまでに相当な連鎖があったことは想像に難くありません。

──たしかに、それまでのポップスからの洗練と逸脱が、絶妙なバランス感覚で採用されていますよね。

おかふじ まさにそのような作品が、ポップスとしての強度があるのだと思います。

──みんなが同じようなものを作っても、洗練はされるかもしれませんが、そこから逸脱するものは生まれてこないですよね。

おかふじ 洗練は、研究や模倣をすればある程度可能だと思うんですが、そこから逸脱するためには、やはり自分なりの連鎖が必要不可欠なんだと思います。そういった自分なりの連鎖を持っている人が、ユニークローカルということなのかもしれません。まあ、別にぼくが言っている連鎖って、実は全然たいしたことなくて。たとえば、おにぎりにいつも鮭を入れる人が、ふと「今日は梅にしてみようかな」と思って、梅おにぎりを握るとするじゃないですか。

──はい。

おかふじ で、その人が梅おにぎりにハマってこだわり始めると「梅を漬けるところからやってみようかな」と思って梅作りにも手を出していく…みたいなことなんですよね。

──制作行為は日常と地続きなんですね。

おかふじ もともとぼくは、黙々とものづくりに打ち込むようなタイプではないので、こういったことをいちいち言語化して意識的にやっていかなくちゃいけないんですけど、たぶん、今日喋ったことってほとんどのアーティストやクリエイターと呼ばれる人たちにとっては自明のことだと思うんですね。彼ら彼女らの制作行為ってよく神秘化されてしまいますけど、言ってしまえば、毎日欠かさず取り組んでその人なりの連鎖と向き合っているだけではないでしょうか。

──ついつい「周りと違うことしなきゃ」って考えてしまいますけど、そういう発想が一丁目一番地になってしまっている時点で、制作においてなにか間違っているのかもしれませね。

おかふじ おっしゃる通りです。ぼくもここ最近ようやくそこから抜け出して、基礎的な身体作りができてきた感があります。これからも自分なりの連鎖に従って、どんどん作っていきますよ!


(終)


無題

「雑誌の音楽」は以下の配信サイトで聴くことができます。
YouTube
https://youtu.be/r6jQSdjMvr0

SpotifyやApple Musicなどの大手音楽配信サービス(順次追加予定)
https://bit.ly/Mofm_hyperfollow

SoundCloud
https://bit.ly/Snd_Cld


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BASE
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Bandcamp
https://ulmr.bandcamp.com/album/music-of-magazine


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