蚤の市便り(DAY4)
とある日のエンカンツ蚤の市で、値切りすぎて雰囲気が悪くなってしまったことを帰り道ちょっと後悔しながら歩いていた。店主のおじちゃんやおにいちゃんたちの値付けは適当なことがほとんどで、そのものの状態を加味してくれたり、そのものの出自や来歴を添えてくれることもまたほとんどない。突然突拍子のない金額をいうことがあるので負けないでいると突然突拍子のない金額で決着がついたりする。不満そうな顔で袋に雑多に詰められて無愛想によこされる罪のないかわいい割れものたち。
状態も良くないものを丁寧にケアすることで見違えることはよくある。優しく拭いたり、洗ったり、ネジを調整したり。私は自分の体に丁寧にクリームを塗ったり、凝りをほぐしたりすることをすごく面倒くさがるけど、もののケアはあまり面倒くさくない。
そういう無意味な金額のやりとりばかりだとすこし疲れるけれど、私はこの蚤の市でおそらく唯一、自分自身の美的感覚でものを集めているであろう老人のお店を見つけた気がしている。
何日か蚤の市に通って、そのうち何日か見かけたその人は時間をかけて品物を並べる。几帳面な人で、一つ一つの品にある程度の余白をきちんと設けながらお客さんに見やすいように気を配る。老人は無口で、ほかの店主みたいに「バラート、バラート(安いよ、安いよ)」と呼び込んだりしない。小さな椅子に座ってただじっとお客を見ている。
状態もほかに比べて良く、なんとなく一定の好みで寄せ集められた気がするその老人のお店が気になって、しゃがんでよく見てみたらすごく可愛いものを見つけてしまった。
老人と目が合って「これ、すごくかわいい!」と言ったら控えめな老人が「かわいいでしょ」と請け合ってくれたのが嬉しかった。この木製ミニチュアティーセットは大げさな交渉もないまま満足な価格で譲ってもらった。またこの老人が集めてくるものを見たいなと思っている。
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そのほかこの日に見つけたもの。
お花の留め具と手描きの模様が可憐な磁器のピルケース、金属に描かれた寓話的なペガサスの絵(後ろに留め具があるので壁掛け用、平置きしても素敵)、6本に浅くわかれているのが特徴的なイギリス製のアンチョビー用(!)フォーク。装飾的で心踊る。
スペインではたくさんアンチョビーが食べられているけど、こういう料理でこのフォークを使うのかな?と妄想している。バレンシアで食べた片口鰯のフライを軽くマリネしたもの。