【コラム】自分の家にポジティブ思考になれない?イケア『ライフアットホームレポート2022』から
日本を含む世界37カ国3万7000名を対象に実施したイケアが調査した「Life at Home Report 2022」で「自分の家のポジティブ思考」が、日本人は12%で37カ国中35位の低い結果になりました。
調査結果によれば、「自分の家について昨年と比較しよりポジティブに感じているか」という質問に対して、世界平均では37%が「ポジティブに感じている」と回答した一方で、日本では「ポジティブに感じている」という回答は12%に留まり、37カ国中35位となっています。
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同調査では、家に自分らしさが反映されているとき、家がメンタル・ウェルビーイング(精神的に満たされた状態)の源だと考える傾向が1.7倍になる結果を出しています。これはあくまで昨年と比較してですが、日本人は家に自分らしさが反映されていないので「家にポジティブさは感じない」という結果です。
その調査をみるとやはり日本人の住宅事情が影響しているような気がします。
リモートワーク定着で変化した住宅事情
2020年からのコロナウィルス感染症拡大で人々の生活は大きく変わりました。
自粛で出社を前提としない働き方が可能だということがわかり、企業ではオフィス環境を整えるという名目で自分席を無くし、フリースペースを設けてパソコン1台でどこでも仕事を可能としました。コミュニケーションやリフレッショスペースなどが増え、オフィス環境は格段に上がりました。
毎日出勤することもなく時間や場所にとらわれない柔軟な勤務体制の導入で、オフィスでの作業を家に持ち帰るリモートワークが定着してきています。ですが、家での作業はそのスペースを確保することが必要です。リモートワークで会議の最中に子どもたちが帰宅し、家人がいる場所がなくなるのが現実です。
イケアアンケートで「家が片付かない」、「自宅では住人全員のプライバシーを確保できていない」などの不満が多いのも納得ができます。
バブル期を越えた都心のマンション価格
2023年前期では日本ではマンション価格が過去最高を更新しています。東京中心部では、中古マンションさえ平均価格が1億円に迫りそうだということです。
東京近郊の中小都市における新築マンション分譲価格は1990年代初めのバブル期に記録した最高価格を超え、これまでの過去最高価格だった6214万円(1990年)を上回りました。埼玉県でも千葉県でも同じように急騰しています。
メディアの分析では、高所得の共働き夫婦であるいわゆる「パワーカップル」の増加で牽引しているといわれています。国内外の富裕層の投機目的の購入も影響しているようですが、これでは一般の30代、40代の子育て世代は手がだせません。
イケアの調査対象の中心はこの30代40代の子育て世代。このようなニュースが流れるたびに絶望的になります。
コロナ禍で大企業を中心にリモートワーク導入が進み、東京を離れて郊外や地方に居住して仕事をする人が増え、「脱東京」が進むという観測がありました。ところが2022年に東京の人口は流入に転じています。脱東京が本格的な流れにならず「東京回帰」が進むのか?確かに20代だけを見ると約6万人の転入超過となっていますが、転入増加率は低いです。
一方、地方で今一番熱いのが、台湾の半導体企業TSMCの工場の誘致で"半導体バブル”の様相を呈している九州地方です。原子力発電が3基稼働している九州は電力も安定的で値上げせず、それを武器に熊本を中心にそれ関連の企業誘致、商業施設や住居の整備などその周辺や九州全体を活性化させます。
TSMCの熊本進出による経済波及効果は、2022年から10年間で4兆円になるとの試算で九州の"半導体バブル”がこれから本格化するといわれています。今、国内回帰を希望する多くの企業が九州地区に注目しているために、賃金は東京並みに上昇してきています。いずれ住宅価格も上昇に向かうかもしれません。
「異次元の少子化対策」を掲げた岸田内閣
岸田首相が年頭の記者会見で掲げた「異次元の少子化対策」が、大きな議論を巻き起こしています。具体的にはまだなにも決まっておらず、新たな会議を立ち上げ、3月末までに少子化対策のたたき台をまとめる方向だそうです。
2022年の出生数も77万人で過去最少だった2021年の81.1万人を大きく下回りました。
出生率を増やすには子どもが1人いるご夫婦が2人目、3人目を考えられる対策も必要で、それに欠けているのが住宅支援です。他の先進国に比べれば日本の住宅支援政策はほとんどありません。フランスでは国民の2割が住宅給付を受けているそうです(2017年末時点)。しかも、住宅が狭いのでは2人目、3人目を育てようと考えるのは厳しいです。
そこで政府が目をつけたのが中古住宅市場。
いま日本には空き家が約350万戸(2018年)あるそうです。国交省の資料によれば、簡易な手入れによって150万戸の空き家が再生可能だとか。政府は改修や建て替えなど「住宅」として蘇らせることを想定していて、それらを賃貸や中古住宅として子育て世代支援対策で取引を活性化させようとしています。
晩婚化も少子化の原因の一つになっていますが、晩婚で30年ローンを組むことが負担になるカップルは中古住宅を活用できるはずです。
多少新築物件を減らす要因になるかもしれませんが、それらを手付かずに放置すればいずれ大きな負の遺産になりますので、これから空き家問題は早急に解決するべきです。どちらにしても人口が減少すればあたりまえのように新築物件は減少します。住宅産業やその関連メーカー(家電など)、家具メーカー、不動産会社などに大きく影響します。
「空き家」の再生が本格化してくると、住宅メーカーや不動産会社は新築主力から中古販売へと方向転換を強いられるかもしれませんが、耐震や断熱効果などの改修技術をアップすることで欧米のように中古物件を高額で転売できるようになるかもしれません。中古住宅市場の活性化は一世帯あたりの住空間面積が増え、リフォーム・リノベーションの市場規模の拡大につながります。現在リフォーム・リノベーション市場は7.8兆円とも言われ、すでに新築市場以上です。
「子どもは生まれて3歳までに一生分の親孝行をしている」
イケアが調査した「Life at Home Report 2022」に戻りますが、日本人が家に対して不満を感じる理由のTop3は、「置き場所の定まっていないものがたくさんありすぎる」「整理整頓されていないスペース、または目的のないスペース」「家事をしないといけない(洗濯、掃除、料理など)」でした。これは他の国でも似たような不満で収納の問題や家事の負担を家族で話し合い、分け合うことで解決します。
ですが、家に「ポジティブに感じている」と回答が低かった分析としてイケア・ジャパンでは「日本では、家は『住む場所』であり、機能性、住んでいる人、住んでいる場所などとリンクして捉えていることが多く、家と自分らしさや感情的な側面とのリンクは強くないように思われます。(海外では)家に今までの旅行の思い出や家族の写真、賞状を飾っている方も多いと思いますが、(日本では)自分のためよりも家族のためと考える方が多く、また、賃貸住宅では壁に穴をあけられないといった日本の住宅事情によって、自分らしさを表現しづらくなっているのかもしれません。」と日本の住宅事情にも問題があることを示唆しています。
自分の家での暮らしをほかの人がどう思うかを気にする日本人は4%のみで、グローバル平均8%よりも下回り、「家では自分らしくいられる」と回答した日本人は63%と世界平均の65%と同等で、また理想の家に重要なことを質問したところ、世界平均54%に対し日本の66%が「くつろげる、リラックスできる」ことと回答しています。
しかし「自宅では住人全員のプライバシーを確保できている」と回答したのは23%(世界41%)と同様に低い結果になりました。
日本ではアンケートだけでなくインタビューも実施したところ、子どもたちのスペースを優先させ、「親」というレッテルから解放されて自分たちの趣味を楽しみ自分らしくいられる場所を、犠牲にしていることがわかりました。子どもを優先させ自分のためのスペースを諦めた父親が、家で自分らしさを感じられず難しさを感じます。日本では共に暮らす人と共有する限られたスペースの中で、自分自身になれる方法を模索しながら過ごす人が多いことが伺えます。
家に自分らしさを反映させることで、ポジティブな効果は期待でき、自分の大切なもの、空間全体のよりよい使いかた、一緒に暮らす人たちを通して、ひとり一人が家に自分らしさを表現することにより、みんなが快適に過ごせる理想の家が実現できます。
子育てはとてもたいへんです。ですが、人にとって自分も成長できる一大事業です。「子どもは生まれて3歳までに一生分の親孝行をしている」といわれようにその愛らしさは普遍的でもの。その喜びを知ることで大半の少子化対策は解決するのではないでしょうか。
それには人々が生きがいをもてる働き方、快適な住まいの対策が早急に必要です。