見出し画像

振り付けの丸パクリ

振り付師のTSUGU a.k.a Tg氏がダンス振り付けが目の前で無断使用された、というニュースが話題になっています。

振り付けには著作権はあるのでしょうか?
著作権法には「舞踊」は著作物として挙がっています(著10条1項)。
しかし、創作性のない舞踊は著作物としては認められません。
映画「Shall we ダンス?」の事件では、社交ダンスの振り付けは、著作物とは裁判所では認められませんでした。
例えば、この映画の中のある振り付けは、
「クイックステップのありふれた流れとジルバのありふれた流れを組み合わせたにすぎない振り付け」
「クイックステップとジルバを組み合わせること自体もありふれている」
         
「振り付けを全体としてみても、社交ダンスの振り付けとしての独創性が認められるほどの顕著な特徴があるとはいえない」
つまり著作物とはいえない
と判断されました(平成20(ワ)9300、東京地裁)。
他方でフラダンスの振り付けが著作物と認められた事件があります。

例えば、
・ターンにより左斜め後ろを向いたまま,両腕を伸ばしきるまで下ろしながら左斜め後ろへ左足右足を交互に2歩ずつ前進する

この動きは、完全な独自の振り付けである。

・両手の掌を下に返して右肘を少し曲げ,そのまま両腕を下ろしながら胸の高さまで持って行き,胸の前で体に沿うように両腕を交差させて両手の掌を内側に向け,一連の動作は右に270度ターンするステップの中で行われる。

これらの動きは他の振り付けにはないアレンジとして、著作物性が認められています。

とりあえず、社交ダンスは基本的なステップを組み合わせあるため、著作権とは認められ難く、フラダンスや民族舞踊は芸術性が高く著作物である、という認識が蔓延することも危険です。
このように、社交ダンスは基本ステップの組合せであり、民族舞踊やフラダンスは様々な独創性ある体の動きの組合せと判断されることが多いようです。
今回の振り付けの丸パクリのように、体の動きがすべて同じであれば、それは確かに著作権侵害ということになります。偶然にも同じ体の動きを考えることはあり得ないからです。

他方で、日本舞踊が芸術性は高いとして、著作物と認められた例があります(平成11(ネ)358、福岡地裁)。
このように判例を見ても、振り付けのどこまでが著作物と認められるかの線引きは難しいです。
しかし今回の振り付けの丸パクリのように、体の動きがすべて同じであれば、それは確かに著作権侵害ということになります。
偶然にも同じ体の動きを考えることはあり得ないからです。
さらに振り付けに関しても、今後は生成AIの問題があります。
振り付けには元ネタがあるはずであり、生成AIにより振り付けに著作権侵害の事件が多発することも懸念されます。
この場合、「生成AIによる振り付けだから」という言い逃れが通用してしまうのでは、振付師の著作権も侵害され放題ということになります。
AIは文章や翻訳だけでなく振り付け、舞踊の世界にまで及んでいることを考えると、AIの発達は便利である反面、振付師も含め、クリエータとしては戦々恐々とせざるを得ません。

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。