2014.4.3 島耕作よりドラスティックな世界

 

成功体験が足枷になった 

――Kさんが新卒で入った会社ってどんなところだったんですか。 

テレビの番組を作る会社。制作会社。忙しかった。それこそ一番ひどいときは、月曜日の朝出社するでしょ。そうすると次帰れるのが木曜の夜とかで。ホント仕事しかしてなかったといってもいいくらい。今振り返ってみると修業期間だったという捉え方としてやっててよかったと思うけど、絶対必要だったかっていうと、そうでもなかった気もする。微妙なところだよね。自分の中でもきっと強い思い込みみたいなものがあって。中学、高校とバドミントンをやってたのね。すごく強い学校だったから、常に優勝することが求められる学校。そこで運良くちゃんと県大会で優勝することができて。個人戦だから、2、300人と競ってくかんじだよね。それはそれですごく自分にとっては良い成功体験ではあったんだけど、それが後々の足かせになるってことが結構あったね。やっぱりこう勝つとね、僕に魅力があろうがなかろうが、ちやほやされるんだよね。それを一回味わっちゃうと、そうじゃなきゃ気が済まなくなる。でも大学に入ってバドミントンは辞めちゃったから、僕からそれを取ったら何も残らなくなってしまう。それがすごく、なんていうか面白くない。そこからが僕の辛い時だったね。

大学がすごくつまらなくて、そのつまらさなさにも両面あると思っていて、人から注目されない面白くなさもあるんだけど、自分が打ち込めるものがなくなったというつまらなさもあって、何となく気持ちがどんよりしていた。そんな4年間を過ごして、こんなのもうやだなあと思ってしまって。で、大学卒業して入る会社を選ぶというときに、もう一度厳しいところ(制作会社)にいきたいっていうのはなんか思ったんだと思う。そういう風に考えて選んだ気がするね。


一生ずっと輝けるわけではない

大学の4年間はあまり勉強はしなかったんだけど、料理屋さんの厨房でバイトをしてた。大学では認知心理学を専攻してて、説得のためのコミュニケーションとか、説明のためのコミュニケーションというのをやるんだけど。バイトと、大学の専攻の勉強のその2つは自分の中では結構がんばった記憶がある。がんばってたつもりではあるんだけど、中高のときの満足感とか達成感を超えることがなくて、もっと頑張らなきゃみたいなかんじで社会人スタートして。大学生のときに、一生ずっと輝けるわけではないっていうのも学んだんだよね。人間、どこかのタイミングで輝けることはきっとあるんだけど、ずっとそんな時が続くわけじゃないということを。でも、やっぱそういうのを認めたくはないわけだよね。20代の前半くらいまではずっとそういうことを考えてた。暗い大学生だよね(笑)。

――大学生以降は、どの分野でもよりプロフェッショナルであることが求められるから、スポーツで優勝するとか、研究で成果をあげることがそれまでと比べて難しくなってきますよね。

もうそのへんから戦い方が平等でもなくなってくるよね。スポーツって、今思ってもすごく平等だなと思うところが強くて、お金持ちであるとか貧しいとかがあまり関係ないし。ほんとスポーツのセンスとか実力で評価が決まる。性格がいいかとか悪いとかも関係ないし。スポーツ以外の物事っていうのは、すごく複合的なんだよね。結果の出る出ないが。運もある。誰と出会うかということもあるし。いくらがんばっても結果が出ないんだということを大学生になってから知ったんだよね。僕なんかより全然、研究熱心にやってないのにちょっと教授に気に入られてうまくいく人とか。それってもうね、大学も既に「社会」なんだよ。会社に入って世の中に出て行くと、その通りのことが起こる。結局、その会社で出世していくかどうかも実力はあまり関係なくて、その時の上司と仲良いかどうかとかそっちの方が大事だったりする。

――島耕作みたいな世界になってくるんですか。

島耕作はまだまともな方なんだよね。あの世界よりもっとドラスティックなことが起こるから。




求められるニュースが昔と変わってきている

――現在の会社の仕事内容は具体的にどんなものですか。

職種でいうと、マーケティング。基本的にはサービスを作るような部署。いまはユーザーの調査やニーズを聞き出して、どういうプロダクトを作るかというコンセプトメイクをやる。プロダクトができたらプロモーションもやるし、そういった仕事。

――最近の小保方さん騒動はすごかったですよね。

求められてるニュースって昔と今では変わってきている。 今は、やっぱりビジュアルとインパクトが大事。 小保方さんはもう誰でも今知ってるじゃない。小保方さんっていったらあの人をイメージする。でも、STAP細胞がどういうものかを知ってる人はあまりいない。それくらいの消費しかされてないわけ。 

ネットを見てても、ちょっとトリッキーなものだったり、思わずFacebookでシェアしてしまいそうなものってあるじゃん。ああいうものが受けるんだよね。ニュース自体の重要度より、人が面白いと思うか面白くないと思うかで重要度が変わってくるのかな。ちょっと前までは、小保方さんのああいうひとつの出来事をとっても、STAP細胞ってなんなのか、何が問題なのかを知っている人が偉かったんだよね。でも、今は小保方さんが一番美人に撮れてるショットを探してこれる奴の方がもてはやされるんだよね。自分が人にどう思われたいかで、ニュースをどう消費するかっていうのが決まっている気がする。 一昔前は、STAP細胞のこと詳しく知ってる人のほうが偉いんだよと言われたら必死で調べたんだけど、今は面白い画像持ってた方が女の子にもてるからそっちを探しちゃう。そういう変化が起こってるんだよね。 

世の中って翻弄されてるんだよ。だから、今はおのずとライトなニュースが消費されるようになっちゃってる。世の中の人たちが今消費してくれるものを提供するという考えだとそうなるんだけど、でもそれを提供し続けていいのかっていうのはある。
基本的には消費されてくものに合わせていこうというポリシーではないんだよね。お金を稼がなきゃいけないし、すごく悩ましいけど。何もない日々をどうやってやり過ごしてけばいいのかっていうのは課題ではあるね。やっぱり世の中の人が求めるものを提供するのは大事なんだけど、報道機関として伝えなきゃいけないことがあるんだよね。それを最優先させたいというのが根底にはあるね。

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