2021.8.25 時間と共に記憶が美しくなっていく
女性 30代 会社員
「仕事は、就職氷河期だったので最初に内定をもらった会社に入りました。しっかりした土日休みがあるようなところです。リーマンショックがあった後で、私が就活をした頃はまだ氷河期でした。
10年働いたから、もういいかなと思っています。毎日泣いていました。営業の電話をかけたり、お客さんのところに行ったり。お客さんを担当してお金を預かって、売ったり買ったり。辛かった。数字の世界だから。例えば今日は1000万円販売して、収益をいくら上げないといけないとかの目標が毎日10件以上あって、1円でも間違えたら大ごとになる。ミスはできないし、かつ数字のことをやる。でも、相場は動く。人のお金だから痛みが伴わないんです。自分が弱いから、やりたくない仕事内容でも言われたらやらざるを得ない。そういう環境というか、そういう目標が立てられているんです。お金を動かすって凄くて、お客さんの心が動かないとお金も動かない。
基本的には個人の60〜70代の富裕層がお客さんです。お客さんの会社やお宅に行って、1時間あったらそのうちの50分間はその人の人生の話を聞く。どんな人なのか、なぜ運用しているのか、お金の原資は何か。お金持ちにもいろいろタイプがあります。運用によって何を得たいのかもその人によって違う。家族構成なども聞いたりしつつ世間話をして、その人の人となりを知る。最後の10分で提案をしたり、2回目に会った時に提案をしたり。それで、だんだん深い話になってきたりならなかったりします。仕事は楽しいですよ。
お盆中に時間があって、家の大掃除をしました。ものを捨てたり、昔の写真を全てパッキングしたりして、それが自分の死ぬ準備をしているみたいに思えてきたりもしました。ただ家の整理や仕事の整理をするためにしていたことなのに、思わぬことを思い出したり。これまでの人生を振り返るのにはいい時間でした。
昔亡くなった元彼の遺品が、四角い箱に全部当時のまま入っていました。箱を開けた時に、元彼の命日が7月29日だったことを思い出しました。10年前にもらったハンドクリームが、10年前のまま出てきて。私から元彼にあげた財布も、彼が亡くなったあとに遺族の方から私に返されていて。お札とかは抜き取られていたけど、小銭が800円くらい入ったままになっていました。元彼が亡くなったのは21歳かな。大学3年生くらいのときでした。死因は自殺ですね。元彼が亡くなる2ヶ月くらい前に喧嘩して別れていたのかな。彼が亡くなる前に、バイクは誰々にあげる、とか遺書を軽く書いていて。私のところには「本当に楽しかった。ありがとう。」みたいな手紙がありました。
元彼が生きていても、多分彼と私は結婚していなかったと思う。時間と共に記憶が美しくなっていく気がします。」
この記事はBE AT TOKYOのプロジェクト、【BE AT TOKYO DIARY】で制作しました。
※感染症等の対策を十分行った上で取材しています。