2014.5.27 思い出が泥みたいに落ちてくる
地震がきたら死ぬって思う
時刻は午前0時を過ぎていた。雨が降る中のバイト帰り、見知らぬ男性に声をかけられた。黒ずくめの格好で大きなリュックを背負っていたので、旅人が道に迷って声をかけてきたのかと思ったらナンパだった。「1杯だけ飲みませんか」はナンパの常套句だ。1杯で済むわけがないと思ったが、私は見知らぬ人に話を聞くインタビュープロジェクトを行っている。なにか一つでも面白いことを聞けるかもしれない格好のチャンス。タイムリミットを10分に設定、近場のバーに入った。——————————————————————————————————
俺はテレビの制作会社でADやってる。担当はNテレビの「○○○」とか。今日も仕事帰りで電車なくして。出身は岩手の盛岡。
——地震の時大変じゃなかったですか。
もうすごかったよ。俺の実家小料理屋なんだよね。1階が店で、2階が住居で。311のとき俺実家に帰ってきてて、2階のトイレでうんこしてたんだよ。もうすげえ揺れてさ。その時初めてリアルに死ぬかもしれないって思ったね。服着てるとか着てないとか関係ないね。ウンコしてることとかさー、パンツあげるのも忘れてお客さんがいる1階に逃げてフルチンでさー。
思い出が泥みたいに落ちてくる
なんつーかな、今でもなんか、思い出が泥みたいにばーっと落ちてくるんだよ、わかんないけど。ぼとぼとぼとぼと、その時のイメージが。地震から1年くらいたったのかな、取材かなんかだったかな、行かなきゃな見とかなきゃなと思って、地元帰ったんだよね。そこで思い出もいろいろあったわけ。海とか行ったなーみたいな。それもなんかなんかねー。感覚?
人生の主人公じゃない
とりあえず直木賞とりたいね俺は。単純にディレクターとして認められたいとか、面白い番組作って代表作残したいとか、もっと上いくと直木賞とりたいなんだけど。
——○○さんは直木賞とるために何か書いてるんですか?
んー、まあ暇なときにね。でも全然まだまだ。まだまだだなってかんじ。30歳くらいのときにやっとなんか出せればいいなって感じだけど。彼氏はいないの?大丈夫こうやって知らない人と会ってて?
——嫌々ですね。
ふざけんなよ。(椅子を蹴る)てかねー、俺が大学生の時好きだった子にめっちゃ似てる。りんちゃん。めっちゃりんちゃんに似てるなー。一緒に花火見に行ったんや。そしたら俺の友達にとられたんや。はははは。悲しかったんや。最近りんちゃんのFacebookみたら結婚してたんや。でも俺が好きだった頃のりんちゃんよりちょっと劣化してたんや。それも悲しかった。Facebookって悲しいなって思った。好きな子とか付き合ってた子とか調べるじゃん。めっちゃ劣化してるみたいな。てかもてるっしょ?
俺はもう自分でいっぱいいっぱい。俺主人公じゃないじゃん、あなた主人公じゃん。俺、この人のためにこれだけお金出したいとかあんま思ったことないし。親とかそうだよね。子供に出してね。自分のご飯子供にあげたりとか。そういうのないんだよな俺。すごいって思うよね、そういう自分ができないことにたいしてね、平然とやる人ね。尊敬するよね。俺ほんとさー、福祉の心とかマジでないのよ。だからそれを自分の使命だと思ってるか分かんないけど、嫌々やってるかはわかんないけど、ご老人のために介護してる人とか、すごいと思う。人のために生きてこうっていう発想があんまないんだろうなあ俺。一回しかない人生なのに、人のためにやってこうという感覚に、今のうちはなれない。30代とかね、子供できたらなるのかもね。いや、まあ好きな人には尽くそうと思えるけどね。
——ああ、もう20分経っちゃいましたね。
あぁ?!
——帰りましょう。
ほんと冷たいなーー。
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