統合デザイン学科卒業制作インタビュー#08髙下幹人さん
髙下 幹人(こうげ みきと)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
菅俊一プロジェクト所属
_卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。
「しりとり」をビジュアル化したアニメーション作品です。
「りんご、ごりら、らっぱ、ぱんつ......」と、しりとりのゲームをしている声に合わせて絵がどんどん変化していきます。
リンゴから体が生えてきてゴリラに変わり、リンゴリラが口を開くと舌が伸びてラッパになり、リンゴリラッパが歩きながらパンツをはく......というように「しりとり」のルールに従ってストーリーが進んでいきます。
_この作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
しりとりを題材にしたきっかけは、単なる好奇心からでした。
単語の最後の文字から始まる言葉を言っていくという単純なルールを続けていくと、日常ではほとんど接点のないもの同士が自然と繋がって行きます。
例えば「りんご、ごりら、らっぱ、ぱんつ......」のように、これらの存在が同じ空間にあるとかなりカオスになるような気がします。私は、この普段見慣れない世界観に魅力を感じました。そして、このような接点のない存在たちを複合させていくことで今まで見たことのない画が生まれるのではないのかと考え制作しました。
しかし、研究テーマはすぐには決定しませんでした。
もともと、アニメーションにとても関心があったため、短編アニメーション作品を作るということは決めていました。
4年生の前期、私の研究テーマは『見えない存在を見せる』というものでした。
例えば、友人が目で何かを追うようにしていたら、そこには何かが存在していると知覚してしまう。いわゆる視線誘導というもの。
物音が聞こえたら、そこには目で確認しなくとも何かがあると思ったり、右から左へ一定のタイミングでものが動いたら、何かが横切ったのだろうと考えたりする知覚現象。
ものすごいスピードで仮現運動することで残像ができる。そしてその残像が重なることで、存在しない画が生まれる手法。
反対に、ブレさせることで存在が消える。または、存在が曖昧になる手法。
これらのように、見えない存在を感じ取れる技法を生み出そうと試みていました。
そこで考えついた技法がこれです。
情報量の多い背景に、線画のアニメーションを描きます。その線画に背景を少しぼかした画像を合成させます。すると、動いている時にはその物体を知覚できるのですが、動きを止めると背景と同化してしまいます。つまり、動くと存在が現れ、止まると存在が消えるような知覚体験ができるのです。
これには何か可能性があるような気がして、この現象を研究している内に合成するという行為に惹かれていきました。
CGを大いに使った映画のメイキング映像などでよく見られるグリーンバックというものがあります。
アニメーションの色面を、このグリーンバックと同じ要領にしたらどうだろうかと考えました。そして、絵とマッチしやすい絵の具の接写映像を合成してみました。
すると、絵の具の動きに合わせて線画を動かした時に、動きが誇張したり、感情表現を感じ取れたりすることを発見しました。
「卒制はこれでいこう!」と決め、張り切ってこの現象を十分に発揮できるストーリーを考え始めました。
しかし、全然思いつかず、刻一刻と時間だけが過ぎて行きました。このままでは何も作り上げることができないと悟り、ストーリーは諦めて現象の説明的な映像を作ろうとしました。ところが、現象の説明をするのであれば自分のやりたかった造形的な線画は必要なくなってしまいます。
時間がどんどん無くなっていき、前述のように前々から面白そうだなと思っていた「しりとり」を今まで研究していたことを生かしつつ作ることにしました。
_テーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
まずは作業量は気にせず、思いつく限りのやりたいアイデアを沢山出そうと思いました。
「しりとりあるある」を使いたかったため、まずしりとりをしていてよくある出来事を出していきました。
・初めの5、6文字は王道の「りんご、ごりら、らっぱ、ぱんつ、つみき、きつね」だろう。
・「ず」が頭の単語が思いつかない。
・「ん」のつく単語をとっさに言ってしまい、補うように追加で単語を長くしていく。
・同じ文字で終わるように仕向け、相手を攻撃していく。
・一文字返しが続いていく、例えば「火、日、陽、比」のように。
などのように、たらたらと書いていきました。
また、複合・増幅・戦いの3シリーズに分けて作りたいと考えました。
物体が存在する名詞は、複合していく。次第に単語によって環境が作られていき、動詞によって、バトルシーンを描きたいと思いました。
作りたいイメージが出来上がってきたら、しりとりのやりとりを考えました。
終わり方は、なかなか決めることができなかったため、作画に取り掛かりました。
下書きの下書きではモノからモノへの変化の仕方を考えつつ、簡単な動きを付けていきました。下書きではしっかりと動きを描いていき、次に清書、色つけをしました。
そして、この色面に合成する用の絵の具の接写を撮影、音声の録音をして編集をすると完成です。
_展示空間はどのように考えていきましたか?
自分の作品は、見栄えがクオリティに直結するので、できるだけ大きく、視野いっぱいに見ていただきたいと思いました。また、より鮮やかに、色が際立つように完全暗室が好ましかったです。
展示空間の臨場感も重要だと感じていたため、本当に映像の奥でしりとりをしているように、スピーカーを2つ用意して、右側から女の子の声、左から男性の声が聞こえるように工夫しました。
また、展示する上で当たり前のことですが、プロジェクタを隠したり、反射光が同室の他の作品に影響しないように光を遮断する壁を設置したりしました。
_展示を行った感想を教えてください。
先生方や、友人の感想を聞けたこと、お客さんの反応が見られたことがとても嬉しかったです。半年間も1つの作品のことを考えていると本当にこれでいいのかなと思ったり、不安な気持ちになったりしてしまいます。
ですが、展示本番になって私の作品を見て笑ってくれたり、見入ってくれたりしている姿を見ることができたので、作って良かったなと切実に思い、次の作品を作る気力にもなりました。
また、一度機械トラブルにより音声が流れなかった時間がありました。その時、「りんご、ごりら、らっぱ......」とお客さんが声を出して、絵を見ながらしりとりの単語を想像して当てようと試みていました。自分の意図とは異なった体験方法でしたが、その時のお客さんが楽しそうにしていたので、この体験方法もありなのかもしれない、と勉強にもなりました。
1つ思い残すことがあるとすれば、プロジェクトの担当教授である菅先生に直接見ていただけなかったことです。3月に行うピックアップ卒展では、きっと見にきてくださると思うので、ブラッシュアップした『しりとり』を見ていただきたいと思います。
_この作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。今回の作品を作るにあたって、様々な発見や興味のある現象に気づくことができました。特に、質問2でも書いた、色面に動きのある情報を合成する手法です。
まだまだやり足りない気持ちがあるため、もっと探求していきたいなと思います。
(インタビュー・編集:海保奈那・加藤百華)
今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)でご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!
多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)
会期
3月13日(日)〜3月15日(火)
10:00 - 18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス アートテーク
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B
次回の卒業制作インタビューは…!
「糸の彫刻」
松坂 陽日(まつさか ゆい)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
永井一史・岡室健プロジェクト所属
糸の素材研究として身近なものに糸を巻きつけてかたちどる立体作品を制作した松坂さん。
線で立体を作ることの面白さと、糸を巻きつけてできる濃淡や模様の繊細な綺麗さに注目したそうです。
糸の境界線が見えない手法はどのようにして生まれたのでしょうか?
卒業制作インタビュー第9弾は明日公開です!乞うご期待!
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