【卒展2022 Making Process】 #06 サイン計画
こんにちは、今年度の卒業制作展にて校内のサイン計画を担当した小笠原勇人、大久保蒼です。
今回は卒業制作展でどのように校内サインを設計していったのかについて書かせていただきます。
1.サインをめぐる諸条件
今年度はサインの設置位置やサイズ・デザインなどを小笠原が担当し、素材や貼り付け方法の考案を大久保が担当しました。
校内の随所に配置し、来場者が展示をスムーズに見て回れるようにするためのサイン計画ですが、これは統合デザイン学科の展示において特に重要なものと言えます。
当学科は上野毛キャンパスを展示会場としています。作品数の関係で展示エリアは本館と1~3号館に渡り、各棟内でも使用可能な教室と使用不可能な教室に分かれます。そのため、校舎の配置に慣れていない一般の来場者が全部の作品を見て回るのには丁寧な案内が必須です。
さらに今年度は校舎の耐震工事の関係で本館が使用不可能となりました。その結果、展示エリアは先述の1~3号館に図書館とA棟スタジオという新たな場所が加わり、極めて変則的な展示配置となることがわかりました。
そこで今年度は校内サインを例年に比べ、大幅に追加することにしました。
過去年度のサイン配置を全面的に見直すこととなったため、まず最初に校内を徹底的に歩き回りました。
マップを片手に校内を回り「右に行くか左に行くか」といった選択肢が発生するポイントを全てマークします。
次に実際の展示部屋の配置を確認し、そのポイントの中からサインの設置可能な場所を一通りピックアップ、実際の校内写真にイメージスケッチを描きます。重複するものは追々削減するため、この時点では過剰とすら思える数を設定しました。
続いて、その場所に実際にサインを設置する場合にどのような形状が理想なのかを考えます。
その中で出てくる問題が「非常扉」「消火栓」といった塞いではいけない箇所や、電気スイッチなどの小さな障害物です。
これらを考慮し、今年度は校内に3種類のサインの形状を考案しました。
通常の壁面パネル、突起などの障害物に影響が出ないバナー、廊下の上空に渡す吊るし看板。この3種類を基本としました。
これを計測スタッフに共有し校内の計測を行いました。
校舎の建築が古いことなどが影響し、同じ棟でも階に寄って巾木や柱幅の規格が違うなど、ここで設置不可能な場所が割り出されます。
残った設置可能な場所の計測データをもとに、実際のデザインを設計していきます。この段階で表記情報が重複していたり逆に混乱を招きそうなサインなどを省き、最終的な個数を決定します。今年度は大小含めて80ほどのサインが必要となりました。
2.必要な箇所とその内容
サインの構成で重視したのは以下のことです。
① 上野毛校舎は横に長く、ある1つの地点からその階の全貌を視覚的に把握することは基本的にできません。そのため、階段から上がってきた時点で、この階のどの方向に歩いていけば幾つの部屋にたどり着けるかを示すことが重要だと考えます。そのため、階段付近の柱などに必ずその階のマップを記載しました。
② 直角に曲がった通路では、そこを曲がった先に何があるのかわからないことへの不安が無意識に来場者の足を止めることに繋がると考えました。そこで先が見えない全ての角に、何らかの形でその先に何があるかを示すサインを設置しています。
③ 2号館は構造がV字型になっており、階段の幅や自動販売機などの関係で、中央部の階段を最も多くの人が使用します。しかしV字校舎の左側と右側に均等に展示部屋が配置されているわけではありません。そのため、中央の階段踊り場には必ず「右と左に何部屋ずつあるのか」を示す部屋番号看板を設置しました。これはホテルの廊下などに設置されているサインを踏襲しています。
④ 1号館と2号館は地下1階から3階までの4フロア構成なのですが、階段の上がり下がりの疲労や風景が似ていることなども関係し、往々にして最上階か最下階が見逃される問題がありました。そこで今回は階段の踊り場などに、上下に階層があることを示すサインを大きく設置しています。これはショッピングモールの階段付近などのデザインを参考にしました。
また、教室の番号を示す看板を突き出す形状にし、廊下を正面から見た際にどれだけの教室が存在しているかを視覚的に伝えることを重視しました。これらはロッカーや通行人などによって妨げられないよう、天井に近い高さに設置しています。
3.外壁看板と設置素材の検討
また、屋外にも複数のサインを設置しました。
まず一番大きな問題は例年使用していた本館側の受付が使用できなくなったことです。
代わりに今年度は校舎側面の「南門」が入口となりましたが、そこは外部からの来場者にとって非常にわかりにくい側面の入り口です。そこで今年度は今まで前例のなかった校舎の「外壁面」への案内看板の取り付けを試みました。
校舎は環状8号線という大きな道路に面しており、外壁のパネルが剥がれると非常に危険です。そこで貼り付け素材の選定を慎重に行いました。
学校の外壁にくっつき、一週間絶対に剥がれないことが条件だったため、強力かつ剥がせる、跡の残らない接着が求められました。
そのため壁への貼り付けはほぼ全て「ダクトテープ(補修テープ)」を5cmくらい壁に貼った上に「scotch あとから剥がせる超強力両面テープ」を2cm程つける形にしました。この貼り付け方法は、一週間以上の貼り付け実験を行い安全性を確認した上で、最終的に校内ほぼ全域のサインに使用しています。
壁に直接両面テープを貼ると壁が傷ついたり粘着の跡がついて後の処理が大変になります。一般的に養生テープを使って保護することが多いですが、今回は5日間の展示に耐えうるものを必要としたため、粘着力の強いダクトテープを使用しました。
両面テープを使うことのメリットは作業のしやすさにあります。くっつけるだけならもっと強力なものもありますが、力を加えればきれいに剥がれるこのテープは掲示物の角度を調整しやすいです。実際のところ強力両面ならばなんでも良いのですが、パネルの歪みにある程度寛容になるので厚みがあるほうが良いと判断しました。
スチレンボードなら30cm、アルミ複合板なら10cmごとに外周を貼り付け、パネルの下部を地面につけて自重を軽減させる形で貼り付けを行っています。学校の外壁に1週間くっつけても剥がれないだけの強度があり、凹凸の多い壁面でも意識して圧力をかければ剥がれない、ということがわかりました。
注意すべき点として、
といったことが確認されています。
4.屋外サインと自由な経路
こうして来場者を無事南門へ誘導できたとしても、他の問題があります。この入り口は過去年度のようにスムーズに館内へ誘導することはできず、いきなり来場者を中庭に放り出してしまうような場所だということです。
そのため今年度は屋外に受付を用意し、雨天対策と同時に一目で「受付」とわかるアイコニックなものとしてテントを設置しました。
受付のすぐ横に設置した校内マップは当初パネルを用意する予定でしたが、サイズ・人手・経費などで制限が生まれてしまうため、壁面に直接貼り付け、剥がすことのできるシールタイプの印刷を試験的に導入しました。
今年度は棟を回る順路は設定せず、受付で渡すパンフレットと校内サインの連動で「どこから見始めても次の棟へと誘導できる」仕組みを目指しました。
上野毛校舎は各棟が接続していないため、別の棟へ行くには必ず一度中庭を経由します。そこで、各棟から中庭へ出たところにも必ずサインを設置することにしました。中庭に出た後にどの棟へ行くか複数の選択肢があるため、それらをわかりやすく伝える方法を考えます。同じような条件の環境として上野公園などを参考にした結果、方向看板を設計することにしました。
正規の門以外から入ってきてしまった人を受付へ誘導する大看板や、閉鎖された門扉にも同じように迂回案内を設置し、サインの誘導漏れを防ぐことを試みました。また工事による立入禁止区域があったため、それらを示すための立て看板も必要となります。これらも全て木材を用いて自作しています。
また、各棟の全ての入り口にもバナーを設置し、来場者がこれからどの棟に入ろうとしているのかを極力わかりやすく伝えることを意識しました。特に一号館は外階段を用いるやや特殊な入り方だったため、垂れ幕となる大きな布を発注しました。
今年度は例年と比べてかなり大幅にサインの数を増やしたため、パネル化や設置の作業にたくさんの人手が必要となりましたが、他学年など大勢の方に協力いただき無事完遂できました。来場者の方から道を聞かれることがとても少なかったという声もたくさん頂き、良い結果になったのではと感じています。
また、次年度以降の卒展サインに応用できるよう、過去に試したことのない素材や設置方法などをなるべく多く試すことを心がけました。中には校舎の素材や天候との相性で強度が保てなかった部分もありましたが、それらも含めて翌年へ引き継いでいきたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
(編集:海保奈那・加藤百華)
3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展)では他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!