統合デザイン学科卒業制作インタビュー #09 德﨑理沙
徳崎理沙(とくざき りさ)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
永井一史・岡室建プロジェクト所属
ー卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。
私は「Airy Line」という雑草を彫刻した作品を作りました。
雑草の性質から出来るかたちを探った作品です。
ーこの作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
卒制について考え出した初期の頃は「存在感」について何か作品を作ろうと思っていました。
人が、何かに対してすごくオーラを感じることってあると思うんですが、その「存在感」っていったいどこからやってくるんだろう?と疑問に感じたことがそもそもの始まりで。
「存在」に関連する様々な書籍を読んだり、つい目が離せなくなった日常の光景などを集めて分析していました。
特に『陰影礼賛』や『デザインの生態学』を読み込みました。
それから色々なアイデアを出して試作を作っていく中で、ものが人の手によって整えられることで急に存在感が際立ってその場自体が美しく見えることがあるなと気付きました。
例えば、マンションや道路などに植えられている木が、何も手入れされていない状態と、丁寧に整えられている状態とではその場所に対する感じ方が全然違うと思うんです。
人はそういったところから無意識にその場に対してのオーラを感じ取って心地いいとか良くないっていうことを判断しているんだろうなと思いました。
それから「人の手にかかる」というところで1番遠い存在って何だろうって考えた時に「雑草」というモチーフが出てきて。
雑草って普段視界に入れているけど無意識に排除してしまっている存在感のないものだなと思って、人の手が加わることによって存在感を持つようになるんじゃないかと考えました。
それからやっと「雑草を彫刻する」というアイデアに辿り着いて、人による最小限の操作によって雑草が内側に秘めている構造や美しさを「かたち」として外側にあらわすことを目的とし、制作を始めました。
ーテーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
雑草に決めてからはまず、近所に生えている雑草を沢山摘んできて枯れるものと枯れないものの選別を行いました。葉っぱがついているものはすぐに枯れてしまうので素材として扱いにくく、いろんな場所に生えていてかつ枯れにくい3種類の雑草に絞りました。
※左からエノコログサ、メヒシバ、ミゾイチゴツナギ
そこからは毎日雑草をとってきて、その雑草の構造や性質を理解して、そこから生まれるかたちを探り始めました。
※家の近くの空き地などを採集場所にしていた
当初は自分の中で「こんな形を作ろう」とか「こうした方が綺麗に見える」ということを考えてから作っていたんですけど、それだと上手くいかなくて。
他の素材でも作れるような形だったり、今まで見たことのある形に寄ってしまったりして、これは本質的では無いなということに気づきました。
※初期の試作
それからは、「形を作る」という意識より、自然の造形を追いかけて行った先に偶然できてしまうかたちを目指して制作していました。自分の意思や感情を無くしていった時にこそ、雑草の本質的なかたちが見えてくるんじゃないかと思ったんです。
※中期の試作
結果的に制作したものは全て、自分の頭の中にはなかった予想外の形になりました。
ただ、この「何も考えないで作る」ということが本当に難しかったです。
毎日夜中に無心で雑草の形を追いかけることに没頭して、自分の中で「できた」と思える瞬間に到達するまで手を動かし続けました。
この「できた」と思える瞬間を説明するのがとても難しいんですが、これは雑草がそれ自身で成り立っていて自然に見える、無理のないかたちをしている、と思えた時のことで、人為的なものと自然物との中間の存在を発見する行為でした。
最終的に全部で20点ほどになったんですが、作っていく中で最小限の本数で成立するかたちと、群衆になることで成立するかたちの2種類があることに気付いたんです。
かたちによって、多すぎても少なすぎてもだめで。
それぞれが完結した一つのかたちとして見え「これで十分だ」と思える量感を探りました。
ー展示空間はどのように考えていきましたか?
展示空間についてはまず、作品の持つ空気感をそのまま展示空間に生かしたくて、一つ一つが人の作り出した造形物として厳重に展示されているというより、あくまでも自然にそこに生えているような見せ方をしようと思いました。
※作品の位置検討。当初は正方形の台に展示する予定だった。
今回選んだ3種類の雑草は普段は足元に近い場所に生えているのでそこを尊重したくて、足元に近い場所に展示して、いつも視界に入れている高さを変えないようにしました。
普段生えている高さに展示することで、見たことがあるはずなのに全く見たことがない物に見える、ということを強調できるんじゃないかと思ったんです。
また、地面から生えているという雑草の特徴をそのまま展示空間に表現したかったので、展示台に直径0.5mmから0.7mmほどの穴を開けて、そこに茎を挿して作品が自立するようにしました。
雑草一本一本微妙に茎の太さが違っていて、少しでも開けた穴が大きいと自立しなくなってしまうので、挿す雑草の茎の太さによって0.05ミリずつ穴の大きさを変えながら調整していくのがすごく大変でした。
展示直前まではポスターを作ることを想定していなかったんですけど、雑草を扱っていた時にすごくミクロの視点でモノを見ていたので、雑草が拡大されているポスターがあったら自分が見ていた視点を共有できるんじゃないかと思って制作しました。
ー展示を行った感想を教えてください。
お客さんや先生方が、何も説明しなくても作品のすごく近くに寄ってじっと見てくれたり、全体を俯瞰して見て、場の空気感を感じ取ってくれていたことが嬉しかったです。
正直人からどう見られるかとか、評価してもらえるかということを気にしていなくて、とにかく自分のできることをやろうと思って制作していたので、結果として自分が良いと思ったものを人を共有できたり、共感していただけて良かったです。
色々な感想をいただいた中でも、ある先生から「凄く自然だね」と言われたことがすごく嬉しくて、今回そこを目指していたので「あぁ、伝わったんだな」と思いました。
ただ改善点は本当に沢山あります。
まず、早いうちから展示部屋を借りて学校で設営を始めるべきでした。今回家で制作したものを一度全て分解して、設営日に展示場所で急いで組み立て直す、という設営方法をとってしまったので家で制作した時より精度がかなり落ちてしまってすごく後悔しました。
この設営方法によって沢山の人に迷惑をかけてしまったし、想定していたより作品数が少なくなり、作品の規模も小さくなってしまったので、ちゃんと計画を立てないといけなかったです。
その他にも作品同士の距離感や照明の当て方など、検討したい部分はまだまだあって、作品の良さを、見てくれた人にちゃんと伝えきれなかったことが悔しくて。
この失敗の経験を今後生かしていきたいです。
ーこの作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。
1年間卒制と向き合ってきてまず、こんなに贅沢な時間はないな、と思いました。
何か一つのことに集中して創作することが出来た、本当に尊い時間だったと思います。
今回「何も考えないで作る」という難しさと楽しさを知ったので、これから雑草でも続けてみたいし、他の素材だったらどんな形が出来るのかな、という興味が湧いてきて、彫刻をやってみたいという気持ちが強くなりました。
それから、今回この作品を作ることができたのは 4年間を通して美学について学べたからだと思っています。これからも「美しい」とはどういうことなのか、人は何に興味を惹かれるのか、ということを突き詰めて考え、創作を続けていきたいです。
(インタビュー・編集:東千鶴、田邉茜、徳崎理沙)
今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展Bでご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!
美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B
会期
3月13日(土)〜3月15日(月)
10:00~18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B