統合デザイン学科4年生インタビュー#08 山本和幸
山本和幸(やまもと かずゆき)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
中村勇吾プロジェクト所属
ー自己紹介と入学した経緯について教えてください。
奈良県出身の山本和幸です。幅広くなんでも好きですが、企画とグラフィックデザインが一番好きです。
小さい頃から漫画やイラストを書いて褒められることが多くて、小学校ではクラスの人を全員登場させる漫画を書いていたらそこにみんなが集まってくれました。そこで一番自分が輝けてました。
中学校に進学してからも夜中に絵を描くことをかなり続けていましたが、なぜか夢は不老不死の研究をすることや、空中にディスプレイなしで映像を出すという空中ディスプレイの研究をする科学者でした。空中にディスプレイなしで画像が出てくるのってすごく夢があるじゃないですか。京都大学の説明会に言って、そういった研究をやっている人に質問したら、50年後実現するよ」って言われてワクワクしたんですよね。
だから理系に進んだんですが、その時は知的好奇心がなく、やる気が起きなくて死んでいるような状態でした。それに気が付いたのが高校1年生の頃だったんですが、その時には授業に追いつけなくなっていました。全然輝けていませんでした。死んでいました。
ただ、高校1年生の頃に文化祭で大きなポスターを作ったり、高校2年生の頃には高校の50周年でキャラクターのコンペティションがあったりして、そういうものはやりたくなって応募していました。結果発表は何百人もの全校生徒が大きな講堂に集まっている中で行われたんですが、最終選考作品3点全てが自分の案で、凄かったんですよね。歓声が。全校生徒が注目してくれて、自分が中心にいる状態で全員で写真を撮ったり、校長先生とツーショット撮ったり、凄かったです。あぁ自分ってこういうことなんじゃないかって、これが才能だと思いました。
それで父親にこういった才能を生かせないかと相談した時に「デザイナー」「美大」というものを知りました。奈良県のかなり田舎に住んでいたので、毎週日曜日朝5時に家を出て、名古屋の美術予備校に行って対策をしていました。しんどかったです。
デザインといっても分野も何も決まっていなかったので、藝大と多摩美の統合デザイン学科の二択に絞りました。余裕で藝大は落ちて、早く社会に出ようと考えていたので統合デザイン学科へ入学しました。
結果、当たりだったと思っています。大学に入ってから毎日楽しさがどんどん上がっていって、まだまだ能力は足りないけど天職のように感じています。
ー興味があることについて教えてください。
興味があることは「人間の思考」ですね。
このことに興味を持ったきっかけは、統合デザイン論という授業で菅俊一先生が行った思考技術についての講義です。特に「観察・分析・発想の技術」についてのメモは完璧な状態で残っています。
この講義の後で「NM法やカラーバスなど脳を使う技術は、人間が脳や外部環境などの膨大なデータベースの中から知識を検索する手法であって、そういう特殊な検索システムを使える機械としての人間ってすごいな。面白いな」と感じました。
また、NOSIGNERの太刀川英輔さんが大学時代に「言語とデザインの関係性」についての論文を書かれたらしく「言語があったからこそ道具が生まれた」あたりの話をYouTubeにアップされてる講義動画でされていて、面白いなと。
自分の人生のベスト本である「思考を科学する」という本にも「言語があるから人は思考できる。他の動物と人間の間で進化の差が生まれたのは言語の有無の違いである。」というようなことが書かれていてその本を読んだことで興味が何倍にもなりました。
この本を読んでいて一番の気付きが「言語が生まれたからこそ、人間はプログラミング言語のように言葉を組み合わせたり操作したりできる」ということで、これがないと高度な思考ができないという、そういった「思考」というもの自体に今ハマっています。
ー自身の制作スタイルについて教えてください。
実は美術予備校に通い始めた高3の頃で、統合デザイン学科のちょっと扉が開いていたところにそっと入った感じなんです(笑)
だから入学した段階で周りに表現が上手い人が多くて、自分は頭で考える方に徹しました。
考えた段階でイケてる状態だったら勝てるなと考えて、それを大学1年の夏から実践していったら上手くいって、先ほど紹介した菅俊一先生の講義で丁度ハマりました。
でも今では「表現的な魅力」が欲しいなと考えています。
グッとくる美しさっていうか…とにかく魅力的な、すごく衝撃的だったり、美しいものを作りたいです。
ーこれまでに制作した作品について紹介してください。
人間と傘との距離をさらにつけるには?
『1/2(HALF)』
これは大学2年時に「傘の柄を作る」というプロダクトの課題で制作した作品です。この時に授業で紹介された過去の先輩方の作品は装飾的な傘が多かったんですけど、そうじゃなくてちゃんとした使える傘を作るための新しい問いを立てたいと思って。
そこで授業中にみんなで傘についてブレストしていた時に「傘と人間の距離」についての話が出てきて、人間は傘を閉じてるときは出来るだけ傘から離れたい、傘の存在自体をなくしたい、と思っていることを発見しました。
屋内で傘を傘立てにさしたりかけたりする時に、ポールにあたったり、斜めになっている状態も邪魔だなと思っていて。水平の状態だと一番「傘と人間の距離」がとれるなということを思いつきました。
それで傘の柄をカットして、マグネットを使って壁に貼り付けられる傘を作りました。これなら馴染む、使えるなって感じがあって。
ロゴなどのコミュニケーションツールは、この傘を求めるターゲットが空間要素を出来るだけ排除したい人たちだなと思ったので、極力シンプルにしたっていうのを伝えられたら良いなと思い、制作しました。
Scrapboxで集めた良い概念集
『概念のネットワーク』
これは作品と言えないかもしれないけど…。
テレビ番組の面白かったシーンや、ピンタレストとかで発見した綺麗な画像や、広告の企画などの創造的なものをとにかく集めて、そのアイデアの構造も分析しながらまとめています。分析をすることで、もの同士の繋がりが見つかります。
例えば「視点」というテーマだと「マリオ視点を一人称で見たスーパーマリオブラザーズの3Dゲーム映像」や「ハードコア」という1人称視点の2時間映画は「一人称で見る」という点で繋がっています。
これは冒頭に紹介した菅先生の講義で構造について聞いてから、ジャンル問わず全部調べてやろうという感じで始めました。特に価値観を変えるものなどを積極的に収集しています。一時期これにハマっていて、今では2200ページぐらいあります。
ー卒制のテーマとそれに至った経緯についてお聞きしたいです。
今作っているのは言葉の置換・追加によって発想を生んでいくという閃きツールです。
「発想」が「既にある変数の操作と、新しい変数の追加」であるという話があって、だったらそれを支援できたらいいなと考えて制作することにしました。
一度書いた文を変化させて、新しい発想やコンセプトを生み出すことがこのツールの目的です。
例えば「モニターは平らな光で構成されている」という文があるとして「光」という言葉を「くぼみ」に変えたとすると、「くぼみを映像素子とするものってどういうものなのか」という想像ができます。
変換できる言葉は普通の辞書やシソーラス、ネットの電子辞書とつながっていて、名詞だったら名詞の幅広い置き換えをすることができます。
具体的な提案までは深い知識が必要なのでコンピューターでは難しいけど、最初のアイデア着想の段階だったらこのツールを使って誰でも素早く生み出せそうだなと思って制作しています。
ー卒業後にどんなことやっていきたいですか。
「創造」って、発想支援系の研究者の人たちの定義では「新しくて、人間にとってすごく価値のあるものを作ること」なんですよね。その中でもずっと使われ続けていくものを作りたいです。
例えば誰でもずっと使えるフォーマットを考えたり、思想を作ることとか。
自分は作りたいものを「世界レベルな美しさ・収益性・商業性・創造性のあるもの」と定義しています。
『情熱大陸』という番組で吉岡徳仁さんが語っていたことで、吉岡徳仁さんが三宅一生さんからの依頼を受けて作品を制作した時に「全然面白くない、子供でもわかるものを作れ」と言われたエピソードが面白いなと思っていて。
価値には年齢と知識が重なることで理解できる共感性の低い価値と、全年齢の人が理解できる共感性の高い価値があって、どちらも魅力的で大事ですが、自分は後者をやっていきたいです。
例えば最近SNSでバズった、没入型テクノロジーを活用した3Dデジタルサイネージ広告(*1)も、世界中の人々の大勢の人々を感動させてるし、集客としても良いのかなと。
また、Major Lazerの「Light it Up Remix」(*2)のMVのモーショントラッキングを使った映像も魅力的だなって思います。この手法ってやりそうで誰もやっていなかったことだし、それ自体がビジネスとしても機能している点で魅力的です。
ただ、美しいものとビジネスとして稼げるものを両立させるのはすごく難しいのかなと思っていて、これからはそこを模索しつつやっていきたいです。
※1 没入型テクノロジーを活用した3Dデジタルサイネージ広告
※2 Major Lazer「Light it Up Remix」
WEBサイト:http://yamakaz.work
Twitter:http://twitter.com/yamkaz
Instagram:http://instagram.com/yamakazuyu
(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和、中島知香)
次回の統合デザイン学科4年生インタビューは…!
環境と共存し、影響し合って営んでいく
蔡 豊盛(サイ ホウセイ)
多摩美術大学統合デザイン学科大学院2年生
【指導教員】永井一史
学部生の頃は視覚伝達デザインを専攻しながら、趣味で他の様々な分野に触れていたという留学生のサイさん。
そんなサイさんは大学院に進学後、何に興味を見出し、2年間を通して何を作ってきたのか。統合デザイン学科に感じた魅力とは?
4年生インタビュー第9弾は明日公開です!乞うご期待!