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統合デザイン学科4年生インタビュー#03 上田海帆

上田海帆(うえだ みほ)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクト所属


ー自己紹介と統合デザイン学科に入学した経緯について教えてください。

福島県出身の、猫と動物が好きな人です。子供の頃からものを作るのが好きだったので美術に興味を持っていて、美大に進学しました。今は佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクトで学んでいます。

美術を好きになったきっかけは、お姉ちゃんが元々デッサンをしたりイラスト書いたりしていて。身近にあるから真似したりして自然と興味をもっていたし、お父さんが教えたがりだから、デッサンの教科書とかもってきて(笑)りんごを描かせられたしていました。私も楽しいからいいんだけど、それもあって友達と外で遊ぶよりは教室で色々描いたりする方が好きで。

今はプロダクトとかパッケージとか立体を作ることが得意だけど、絵画・イラストや写真の制作にも興味があります。


ー自身の制作スタイルについて教えてください。

大学1年時の統合デザイン論という授業の中で、長崎綱雄先生が「アフォーダンス」について教えてくれた講義があって、その時にアフォーダンスに興味を持ったんです。

それから「これアフォーダンスだな」って思った時に写真を撮っていた時期がありました。遊びみたいな気持ちだったけど。それを長崎先生に見せていた時があって「アフォーダンスっていう考え、ちょっと面白いな」って。

だから、プロダクトの課題で案を出す時はよくアフォーダンスのことを考えてアイデアを出していたから、立体のアイデアを出すときはそこを軸にしてると思います。

”アフォーダンス理論(Affordance)は、アメリカの心理学者J・J・ギブソンが提唱した、認知心理学における概念です。これは「与える・提供する」という意味の「アフォード(afford)」という言葉から名付けられた造語で、物が持つ形や色、材質などが、その物自体の扱い方を説明しているという考え方です。例えば、ドアノブがなく平らな金属片が付いた扉は、その平らな場所を押せばよいことを示し、引き手のついた引き出しは、引けばいいことを示しています。つまり、その形(デザイン)から使い方(情報)を発見できる、使い方の情報を発信している、という考え方です。”
引用:より使いやすいデザインにする「アフォーダンス」って?
書籍:アフォーダンス(佐々木正人著)


ーこれまでに制作した作品について紹介してください。

スマートな試着体験のためのハンガーのブランド
『fit』

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私は服屋さんに行った時に、ハンガーに服が掛かった状態で体に服をあてて鏡の前に立ってみることが多いんですが、その状態だとハンガーの真ん中のフックの部分とか、元々のハンガーの三角の形がすごい邪魔で。服を合わせてもその服が自分に似合ってるのか、似合ってないのか、試着しているような想像ができなくて。これってちゃんと合わせられたらもっと想像できて、スムーズにおしゃれできるんじゃないかな、とハンガーの形に疑問を持って作った作品です。

最初はフックが邪魔なんだろうな〜っていう浅い考えでいて。フックを下げればいいのかなと思っていたけど、フックを下げたらハンガーをラックに戻す時にすごく面倒だなと思って。他にもフックを大きくしてかぶるとか、よくわからないアイデアも一回全部出してみて、そこから急に、フック部分を無くしてハンガーの上に顎を乗せられたらいいんじゃないっていう想像が出てきました。

それから顎の下にハンガーがくるんだったら、ハンガーのフックの部分を首の形にしちゃおうと思って、こういう形いいかも!ってアイデアが出てきて。そのアイデアを考えた後に、首って斜めに生えてるから、ハンガーをどう合わせられたら良いかというところで具体的な立体の形を考えるようになっていきました。

ポスターは、ぴったり服に合わせられるっていうことがそのまま伝わるようにしたいなと思って、横長のハンガーの形に合わせて撮りました。

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飼い猫を写した写真集
『Pyii』

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大学2年時の写真の授業で、飼い猫の写真集を作りました。うちの猫が10歳になってすごく死ぬのが怖くなってきて、絶対何か形にしてかっこよく残したいと思っていたから、この写真の授業でできないかなと思ってテーマとして選びました。それから実家で毎日猫を追いかけながら撮っていた思い出があります。

猫って可愛いイメージを持ってる人が多いと思うんだけど、うちで飼ってる猫はすごくかっこいいっていうイメージがあって。筋肉の力強い感じとか、野生でたくましい感じもあるけど、でも一方で女性的な、流動的で優美な感じもある。そのどちらもあるのが、すごく良いなと私は思っていて。あとうちの猫が結構クールな性格で、なんかもうかっこいいの、態度が。それに、身体の筋肉が付き方とか造形がすごい好きで。

だから、そういうかっこいいところとか、筋肉の綺麗な曲線とかを写真に納められたら良いなと思って、あんまり色を使わないで撮ったり、手の曲線とか、いい感じに見えた体のラインを選んでアルバムにしました。

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最終的に作品集にする時、先生からは「連作だから蛇腹本がいいんじゃない」って言われていたんです。でも、確かに連作ものではあるんだけど、一個一個手軽に見るアルバムというよりは、成人式の写真みたいにすごく大切な写真を見るっていう感じが自分にはあって。

だから一点ものっていうイメージで一個一個綺麗に額装されたものを一つのケースに入れていた方が、すごく大事な写真に見えるだろうなと思ってそうしました。

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ー統合デザイン学科で様々な分野を学んできた中で、自分の興味ある分野はどのように移り変わってきましたか?

私は大学3年生になった時に、自分の得意とか苦手とかよくわからなくて、これからどういう風に進んでいいのかもわからなくて悩みはじめちゃって。それで悩んでいたんだけど、3年生が終わる時の最後の講評で、教授が「みんなうまくこなしてるけど、熱のある作品を作りましょう。」っていうことを言っていて、その言葉がすごく気になったんです。
私、2年生の時の講評で「上手いんだけど作品に熱がないね。若くないね。」って言われたことがあったから。それで今まで自分が作ってきたものを思い返してみたら、うまく作ろうとは考えていたかもしれないけど、そこにエネルギーはなかったかもなって、そういう作品が多かったかもなって、3年生の終わりになってから気付いたんです。

そこで、今まで夢中になったりエネルギーが注げいてた作品ってなんだったかなって考えていたら、大学1年生の夏休みに制作した作品が思い浮かびました。

上田海帆

これは描写の授業の「私の夏休みを描く」っていう課題で制作した作品なんだけど、私が毎日頑張って描いてた、若い作品なんです。

蛇腹本の形式だったから1日ごとに絵を区切って描く人が多かったんだけど、私は当時中村佑介さんっていうイラストレーターさんが好きで。その人が描くイラストみたいに、複数のモチーフを組み合わせて一体になってるイラスト良いなって思っていたので、夏休みの思い出のモチーフを一枚の絵の中に構成して描いたものです。かなりの時間を使って描きました。

紹介した猫の写真集も、自分の愛猫を写真で残したい気持ちが強かったからこの課題にエネルギーを注げたのかもなって思ったりして。

そういうことを考えていたら、広告とか製品を作るデザイナーになるっていうより、クリエイターやアーティストのように写真を撮ったり絵やイラストを制作するの方が自分は熱を持って取り組めるのかなって気付いて、それからそっちの方面に進んでいこうかなと思うようになりました。


ー卒制のテーマとそれに至った経緯についてお聞きしたいです。

私は3年生で絵画イラストの授業をとっていたんだけど、その時の課題で大きい猫を描いていたんです。その時、本当は3枚描くのが目標だったんだけど、全然進まなくて……ペンでゴリゴリゴリゴリ描いても仕事量が多くて全然終わらなくて、結局2枚で提出したっていう作品なんですが。

大きい猫

最初はこの作品をそのまま続けて卒制で作ろうとは思っていなくて、違う案で考えていたんだけど、卒業制作の途中講評の時に他の学生に猫のアイデアを考えてる人がいて、先生がその人に対して「今まで猫のテーマで作品をやりきってたものはなかった」って言ってて。

それを聞いたら猫の絵を3枚描ききれなかったっていう消化不良な感じを思い出したり、そもそも猫が好きで猫の作品をいっぱい作ってたから、ちょっとうずいてしまったっていうか(笑)悔しくなっちゃって。猫でやりきってみたいなと思って、猫の絵を描くことを先生に相談しました。

最初はデザインとあんまり関係ないからデザイン科としてどうなのかなと思ったけど、先生からはそこまで言われなかったので、じゃあやってみようと思って、このテーマで今制作しています。


ー卒業後はどんなことをやっていきたいですか?

今までデザインのことを多く学んできたけど、自分がエネルギーを注げる、絵とかイラストの題材にデザインの観点を組み込んで考えることは大学ではあまりできていなかったなと思って。

だから卒業後は絵とかイラストの分野の学びを深めて、もっと作品を作っていけたらいいなと思ってます。今は後2年くらい学びたい気持ちです。

(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和、田邊茜)


次回の統合デザイン学科4年生インタビューは…!

「自分の作ったもので人に喜んでもらいたい」
八子智輝(やこ ともき)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
深澤直人・長崎綱雄プロジェクト所属



作ったものを人に見せて実際に喜んでもらうことが制作の終着点だという八子さん。
八子さんは大学に入学したばかりの頃、制作がうまくいかず、自分がとても無力な存在に感じていた時、ある人の言葉にハッとさせられたといいます。
どんな言葉に出会い、どんな気持ちで作品を作ってきたのか。
4年生インタビュー第4弾は明日公開です!乞うご期待!


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