統合デザイン学科卒業制作インタビュー #01佐藤明日野
佐藤 明日野(さとう あすや)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
中村勇吾プロジェクト所属
ー卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。
私は「水らしさの広がり」という水と映像を組み合わせたインスタレーション作品を作りました。
作品形態としては、誇張した水の特徴、例えば「反射する」とか「水に溶ける」とか「波紋を起こす」という特徴をそれぞれ抜き出した映像をディスプレイに流していて、そのディスプレイの上に水のレンズを配置しています。
水越しに誇張した映像を見ることで、映像の中で起きている現象がディスプレイの上に配置した水のレンズが起こした現象のように感じる。という作品になっています。
誇張した映像を水を通して見るという作品形態にしたのは、自分たちの水に対する感覚が揺らいでいるのではないかと思うことがあり、自分にとっての水らしさを再確認して欲しいなと思ったからです。
映画やアニメーションやCGなどで普段から水の誇張された表現ってよく見ると思うんですけど、そういうものを見ていくうちにだんだん自分たちの中での水らしさみたいなものが少しずつ広がっているんじゃないかなと思っていて、誇張された映像を水を通してみるとそれをあたかも本当の現象のように見てしまう、という作品になっています。
ーこの作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
まず最初に、元々ジェネラティブアートといわれるプログラムで作るような絵やCGの映像が好きだったのですが、CGとかプログラム技術の発達で人は結構そういう映像やグラフィックに慣れてしまっていて、展示や映画などを見た時に当たり前の様に見過ごされてしまっているように感じることがよくありました。
それで、水とか木とか現実の物質、実際のものの強さについて考え始めて、映像と現実の物質を組み合わせたいなと大学3年生の時にうっすら思っていました。
そういうことを考えていた時、インフォメーションデザイン演習(*)という授業の「ホイール」という課題があって、その課題でiPadに丸とか線の様な単純な映像を流して、スワイプするとその映像が回るような仕組みを作りました。
※デザイン演習
"3·4年次の専門課程では、全ての領域をつながった一つのデザインと捉え、各教員が社会に即したテーマをゼミ形式で行う「プロジェクト」を通じて統合的なデザインを実践します。さらに組み合わせを選択できるデザイン演習により、個々に必要とするスキルをより深く学んでいきます。"
引用:統合デザイン学科|受験生サイト 多摩美術大学
iPadの上に円形の穴を沢山開けてそこに水をセットして下の図柄を回すと万華鏡みたいに水の屈折で絵柄の見え方が変わるという作品です。
この作品を通して、CGの表現みたいなものを現象として捉えるとすごく人の目を引くことを実感して、自分の中で興味深い表現になったなと感じました。
それから映像と現実の物質を組み合わせる表現として先の作品で手応えのあった水が相性がいいのではないかと思うようになって、大学4年生の3月、4月ぐらいに今の卒制のテーマで制作を始めました。
はじめは水滴が点滴の装置から落下して、ディスプレイに波紋の映像が流れる作品を作ったんですね。
水とディスプレイのかかわり方を考えていったら、この方向ちょっとありだなと思ってました。
でもこの波紋の映像は誇張されていて実際の揺れ方より強めに屈折しているのに、いろんな人に見せたら意外と反応が普通で、誇張しているのにあんまり驚かない人も結構いて。それから自分のテーマが見えてきました。
みんなジブリやピクサーのアニメーションとかで波紋の映像とかよく見たりすると思うのですが、誇張表現に馴れすぎてて波紋ってもっとこれぐらい起こらないと美しくない、嬉しくないみたいな感情があるなと思ったんです。
現象自体のハードルが少しずつ上がってきていて、みんなの感じる「水らしさ」が誇張されてきてるなと感じて、今回のテーマに至りました。
ーテーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
まず最初に作ったのは、水滴が点滴の装置から落下して、ディスプレイに波紋の映像が流れる作品だったんですが、この作品は「水が落ちる」という動きに縛られてバリエーションが出しづらく、広がっていかなかったんですね。
「水が落ちる」という動きだと制限があるけど「動き」がいけるってことは水が張って静止した状態もいけるんじゃないかと思って、最初にディスプレイに水を張ったレンズ現象を利用した作品を作りました。
模様が動いてきて、水のレンズ効果で模様が屈折するアイデア
この作品から「ディスプレイに水を置いて、それが若干レンズ効果で拡大される」ということについて考えていくと、例えば拡大された部分に誇張表現としてドットが見えてきたりしても人のイメージの中では割と成立するんじゃないかと思うようになりました。
それで、ドットのアイデアみたいな誇張パターンを最初は作っていました。
それが8月くらいだと思います。
前期にそれらを作り終わって、自分の中でいい感じの表現になったなと思っていたんですけど。8月から11月の間で作っていく中で中村勇吾先生になかなか表現が広がっていかないね、という話をされました。
その時は作品の誇張度合いを現実のルールにかなり即させていて、本当に起こっている様に見える表現という縛りを無意識にしていました。だからそこから全然発展していかなかったんです。
でも勇吾先生に、なんでもいいから水と映像の関係を来週までに30案作ってこいって言われて、30弱ぐらいは作ったんですね。
例えば、映像にぼかしがかかってて、水があるところを通ったらそこだけ見えるようになるとか。ちょっと変なのでいうと、種が流れてきて水のあるところで発芽する案とか。
結局その時に作ったものはほとんど没にしたんですけど、そのおかげで、自分の中でテーマに対する自由度が増したんですよね。
そこから、水滴が落下するパターンは展示の重機的に難しそうなのと表現に制限があったので今回は作品に入れずに、ディスプレイにレンズを置くパターンを増やして、この方向性で深堀りするほうが最終的な展示としてのまとまりがいいんじゃないかと思って、こういった展示形態になりました。
ー展示空間はどのように考えていきましたか?
最初は、誇張表現されていることを最後にネタバラシ的に伝えようと思っていました。
誇張されていない普通の表現に見えてたけど、最後解説を読んだら誇張されてたんだって気付いて、ハッとさせるという鑑賞の流れを考えていて。
でも結局できた作品が、これは嘘っぽいけど現実のようにも感じてしまうというリアルさに落ち着いたので、鑑賞しているうちに鑑賞者が気付くなって思って、ネタバラシの様な構造はなしにしました。
とはいえお客さんが一番最初に見る作品は、一番現実味があって導入として分かりやすい作品にしようと思っていて。
それが「基本のレンズ効果」についての作品で、4つ水が並んでいて、順番に円形のグラフィックが水のレンズを通過していく作品なんですけど、一番左は屈折も何もしない誇張のない状態にしています。
1作品目 「レンズ効果」
まず普通の水の状態をわかってもらって、それから段々誇張を強めた表現を見せる流れにしたんですね。そうすることで、同じディスプレイに明らかに違う現象が起きてる4つがあると、誇張しているってことが伝わるんじゃないか思ってその流れにしました。
だから6作品ある中で、最初の2作品は割とリアルなレベルにしています。
最初に作品を鑑賞した時に表現が誇張されすぎていると、見ている側が見るときのリアルっぽく感じる時のハードルを下げてる気がするんですよ。
一回そのレベルを下げちゃうと、次すごくリアルな表現を使った作品を見ても嘘っぽく感じてしまいそうだなという感覚が自分の中にあって。
誇張のレベルを少しずつ上げる方向にいかないといまいち作品に没入できない感じがしたので、最初の2作品は比較的リアルな「反射」と「レンズ効果」を応用した作品にしました。
この2作品は制作するとき「映像が水に影響する」というルールを設けていて。模様の映像が流れてきて、模様が水の近くを通ったら水に映り込むとか、それくらいの誇張表現にしています。
2作品目 「反射」
次の3作品目と4作品目は「映像が水に干渉する」というルールで誇張のレベルをあげるようにしています。
映像の点が水に溶けるとかそういう絶対現実では起きないような、ディスプレイに張ってる水自体が映像に干渉する設定で2作品作りました。
3作品目 「水溶」
最後の5作品目、6作品目では、映像が水に影響して水が振動を起こすようになってます。
そして振動して水が揺れた結果、映像に影響を与え、映像が揺れるという作品になっています。
このように、少しずつ誇張の度合いを上げていく工夫をしていました。
ー展示を行った感想を教えてください。
制作過程を共有する時は、中村勇吾先生や他のみんなはずっと一緒にやっていて目が慣れているから全然フレッシュな反応をもらえなくて、毎週よくない部分を指摘される感じだったので、ほんとはこれ面白くないんじゃないかとずっと思っていて。
自分は作品に水を補充するためにずっと展示場にいたんですけど、すごい不安というか。全然伝わらないんじゃないかと思っていました。
でも展示が始まって二組目ぐらいのお客さんがすごい面白いと言ってくれて、そこで「少しずつやってきてよかった、客観的に見て面白いものになったんだな。」という気持ちになりました。
よかったこととしては、自分はそもそも考えをまとめるのが上手くなくて、先生に展示のコンセプトが複雑すぎてわかんないねってずっと言われていたので、伝わるかずっと不安だったんです。
でもTwitterでの反応とか、会場で「普段見てる水、CGとかアニメーションで見てる記憶が呼び覚まされて、世の中の感じ方が変わった。」といった作品の意図が伝わっている感想をいただけて、すごく嬉しかったです。
自分の思ってきたことが作品を通して伝わって、直接そのコメントをもらえたのは卒業制作で初めてくらいだったのでそこが嬉しかったですね。
改善点としては、映像作品なのでどうしても始まりと終わりがあって。
それぞれの作品にはずっと見所があるように常にどこかしらが現象を起こしてるようにする工夫はしていたけど、それでも映像が終わるギリギリのタイミングでお客さんが見ちゃうと伝わらなかったり、何が起きているかわからなかったりしてすぐにいなくなっちゃうお客さんもいて、そこの工夫はもうちょっとやったほうがよかったかなと思いました。
ーこの作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。
コンピュータや技術が発達して、どんどん現実に近いリアルなCGやアニメーションが作られるようになって、だんだん現実とCGなどのバーチャルな空間との境がなくなっていくというのはよく聞く話だと思います。
今回の作品を通して、ただCGなどの技術が発展してるだけじゃなくて、人間の感性自体もそっち側に寄っていくような、段々バーチャルな空間に対して人の認知の方が寄っていくと感じたので、現実のものと映像という関係を切り口に今の人間にとっての「らしさ」を探る研究・制作をしていきたいな考えています。
現実のものと映像っていう関係をもうちょっと作っていきたいです。
Twitter:@asuuuuuuuya
(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和)
今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展Bでご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!
美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B
会期
3月13日(土)〜3月15日(月)
10:00~18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B