【What I am】#09 梶垣諒
紙の性質から鑑賞体験を設計する
梶垣諒
多摩美術大学統合デザイン学科大学院1期生
【指導教員】菅俊一
学部の時はグラフィックデザインを専攻しており、そこではアートディレクションの美しさやブランディングの重要性などを学んでいました。
大学院では、論文や資料の読み方、文章の書き方など学部の時にはあまりやってこなかった事も学びました。自分は人がものを見る時の仕組みに興味があり、そこから何か制作はできないかと考えていました。
そうした興味から視覚認知についての文献など勧められ、自分の限られた視野では知る事のできない知識も得ることができました。
1年次は、オプアートや隠し絵、またその原理である形態知覚のリサーチをし、そこから表現に利用するための足がかりとして、グラフィックデザインにおいて重要なメディアである紙に着目し、紙の性質から考察やポテンシャルの検証をしていました。
従来、ポスターなど鑑賞者が見るという、受動的な行為しか出来なかったメディアに対して紙の性質から鑑賞者の能動的な行為を表現に取り入れることで既存のグラフィック表現のメディアを拡張することができるのではないかと考えています。
動的な表現は映像などのデジタルメディアが得意としますが、紙というメディアも視覚表現の可能性があります。
作例の一部を見せながら説明していきます。
折るという行為で情報取り出す表現
折るという行為によって図像を変化させることで情報を取り出す表現となっています。
この表現は紙を折って隠すという行為によって妨害的要素を取り除くことで情報を取り出しています。妨害的要素とは無意味図形やパターンのようなノイズ(意味を生まない情報)のことで、地面に描かれた無意味に見える図像から、ひらがなの「あ」という意味のある情報が急に現れます。
このように紙の性質から鑑賞体験を設計することで、紙に対する行為によって視覚的な効果を体験させる表現の可能性を見出せました。修了制作ではそうした関係から生み出された表現を提示したいと思っています。
グラフィックデザインは色、形、レイアウトなど造形に対しては様々なアプローチによって探求されています。
こうした造形表現とは異なる立脚点で探求してくことで表現の可能性を広げ、グラフィックデザインの発展に寄与できないかと考えています。
なので自分は紙の性質から鑑賞体験を設計するというアプローチをとっています。
しかし、こうした試みは出発点であり、表現研究としても基礎的な部分です。社会へ効果をもたらすものにするには、もっと探求し続ける必要があります。
この研究では紙に対する行為によって視覚的な効果を体験してもらう作品なので写真や映像では伝わりづらい部分もあります。是非足をお運びいただき、体験しに来て下さい。