統合デザイン学科4年生インタビュー#02 野中大地
野中大地(のなか だいち)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
菅俊一プロジェクト所属
ー自己紹介と統合デザイン学科に入学した経緯について教えてください。
菅俊一プロジェクトで学んでいます、野中大地です。普段は主に映像やプログラムを制作しています。なぜか木を切って加工していることが多いです(笑)
自分は元々デザインに興味があったわけじゃなくて、イラストが好きで最初は専門学校に行こうと思っていたんですけど、親から大学には行きなさいと言われて美術予備校に通い始めて、統合デザイン学科に入学しました。
入学後は周囲の学生の画力が高過ぎてびっくりして。他にも統合デザイン学科でプロダクトやグラフィックのことを学んだ時に、いい形とかいいグラフィックってよくわからなくて。でもインターフェースっていう授業で変な課題を沢山やって、こういうのもあるんだなって知ってそこから少し興味を持ち始めました。
その後も色々な分野の課題に取り組んで、どの分野の課題も色々と作ってみないとわからないことが多くて試作を沢山作るんですけど、プロダクト系は作ることが結構しんどかったり、グラフィックには苦手意識があって。元々動くものや映像やインタラクション系のことが好きだったので一番楽しめたものが映像系の課題でした。
大学3年生になってからは菅先生の考え方や理論を教わりたいと思って菅俊一プロジェクトに入りました。
ー自身の制作スタイルについて教えてください。
菅先生からよく「とりあえず試してみるといいですよ」と言われていた影響で「とりあえずやってみるか」っていう精神を大事にしているかなと思います。特に映像の動きの良さとかは見てみないと分からないことが多いので、一回一回の動作を重くせずにとりあえずやってみるか、ぐらいの気持ちで軽く試すようにしています。大学2年生から3年生にかけてこの制作スタイルに落ち着いていきました。
自分は一回留年しているんですけど、留年する前あたりまでは変なところにこだわりを持って時間をかけて作ったものの結果的に上手くいかなかったことがあって。その時はスケジュールを詰めてずっと制作しているような感じだったので、メンタルが死んでしまって。それで留年した時に、メンタル的に楽になるようにするにはどうするか、みたいなことを探しているうちに「とりあえずやってみるか」というスタイルに落ち着いて。これによって結果に対するハードルが下がったというか、失敗したとしても次に活かせるしいいか、と思えるようになりました。
ーこれまでに制作した作品について紹介してください。
人が注意を向ける仕組みを利用した映像作品
『その先を見る』
これは、大学3年生の時にプロジェクトで行った「注意」をテーマにした企画展での作品です。人が注意を向ける仕組みを利用した映像作品になっています。
毎年11月頃に菅俊一プロジェクトでは「本から得られる知識をもとにして、そこから作品を作る」という展示課題をやっているんですけど、僕らのときは「注意」というテーマだったので、最初はよくわからないながらも「注意」に関する本を読んだりして、その中から気になったことを探っていきました。
その時に、他人が見ているものが気になって同じ方向を見てしまうという「共同注意」と言われる現象が気になって、その現象を利用した画面の外にあるものによって内容が補完される映像を作りました。
ディスプレイの前には動く三角形たちがいて、映像内の何かしらの対象の方へ注意を向け続けています。鑑賞者は動く三角形たちの先に注意を向けることで、実際には画面に映っていない映像を想像によって補完することができます。
三つの動く三角形は元々、大量にいるとか一つだけいるとか考えていたんですけど、三つ並べると一番左の三角形が他の二つに比べてよく遅れたりして、性格で言えばドジな感じで個性的に見えるんですね。三角形が生き物っぽく見えるとより映像の中に注意を向けているように見えて、その作品のコンセプトを強調できると思いました。それに、二次元上だと三角形が一個でもどこを向いているか分かると思うんですけど、三次元上だと複数個あることでより三角形が指し示している位置が分かるなと思ったんです。
実は先程言った三つの三角形のうち一つがよく遅れる現象は、中の機械の不具合が原因で偶然に起こったことなんですけど、それが良かったのでそのまま作品になりました。こういった偶然の発見があるので、試しながら作ることを大切にしています。
映像の方は短い動画をオムニバス形式でループさせてどこから見始めても理解できるようにしました。映像作品って大体始まりと終わりがあって鑑賞者がその場に拘束されてしまうので、それをなくしたくて。
他にも作品の左右の空間に何もないような展示空間を用意してもらったり、展示台も人の目線の高さに合わせる感じにしたくて普通の展示台より高く設計したりと、こだわって作りました。
この作品は自分の作ってきたものの中で一番、物理的なものと映像の関係性がわかりやすいなって思っています。
感触を楽しむためのゲーム作品
『Drop』
これは元々自主制作として作っていたもので、ソフトウェアという授業の課題で作品として提出しました。敵を倒しながらひたすら耐久してスコアを稼ぐゲームです。制作時期は大学3年生の10月頃で、就職活動を意識していた部分もあったし、ゲーム作品を作ってみたいという思いもあって制作しました。
最初に何かコンセプトを作らないと適当に作ってしまいそうだと思ったので、自分が好きだった画面上の擬似的な感触に注力して作ることにしました。それで、敵を倒した時の感触を気持ち良くするために何かしら感触のいいものを画面上の中に入れようと思って。
友達や先輩に実際に試作を触ってもらって、連続で倒していく感じが気持ちいいねって言ってもらえたので、その部分を意識して作っていきました。それと気持ちいい感触を作るための設定を考えていて、その時もどの感触が気持ちいいか周りから意見もらいながら作っていました。最終的に脆い石を砕くような感触になったんですけど、試しながら作ると意見をもらいやすくて制作しやすかったです。
この時初めて音とか全体のUIとかシステムとかグラフィックとか全部、悩みながら一人で作り上げて。全ての要素のデザインを統一することに苦労しました。一人でやってもこんなに大変なのに、実際は周りの人と連携をとりながら作り上げていかないといけないので、すごく大変だろうな、と思いました。
普段からゲームを作っている人達からしたらすごく簡単なものにみえると思うんですけど、初めて自分で作ったものなので思い入れのある作品です。
毎日の思いつきを表現するCreative Coding
『きょうのプロセッシング』
これは僕が毎日行っている半分趣味の活動です。processingを使ってプログラミングを書いて、動きとか映像とかグラフィックを作っています。簡単でもいいから毎日やっていこうと思って大学3年生の11月頃から始めました。
他の作品は基本的にコンセプトありきで考えながら最終的な表現を調整していくんですけど、これはコンセプトは特に無くて、表現が先行しているものです。どうなってもいいものなので偶然できた表現を残しておいて、後から別の使い道を思いついたりして、他の作品とは違う楽しみ方をしています。
ー卒制のテーマとそれに至った経緯についてお聞きしたいです。
今のところ「周りの環境によって映像の見え方が変わるもの」がテーマです。まだ完全に決まったわけではないので卒展時にはもう少しはっきりとしたテーマになると思います。
菅俊一プロジェクトでは大学3年生の後期から、菅先生と一対一で自分が興味を持っていることを話しながら卒制のテーマを考える機会が設けられていて、最初は「文字の動き」に興味がありました。言語化が出来ないことを動きによって表現できないか、とか右往左往しながら進めていって大学4年生の8月くらいにやっとテーマが決まってきました。今思い返すと、最初に興味を持ったことが知的好奇心くらいの興味で、すごく曖昧だったんだなと思います。知りたい興味と自分が作りたい興味は違うなと気付きました。
このテーマになったきっかけはとしては、先程紹介した『その先を見る』という作品でもそうだったんですが、自分は物理的なものと映像内の関わりがある作品が好きだなと改めて思ったからです。先輩の卒業制作を見ていいなと思ったものも、物理的なものと映像の関わりがあるものが多かったので、そういった作品を作りたいと思いました。
ー就職活動はどのように進めていきましたか?
自分の興味のあることについて考えたときに、ちゃんと興味があるものってゲームぐらいだなと思って、ゲーム系の会社を探していました。他にもプロジェクトで学んできたことが役に立ちそうだなと思ってアミューズメント系の会社も検討していて。自分はインタラクション的なことが好きだったのでそのどちらかに行けたらいいなと思いつつ就職活動をしていました。
その中でエフェクトデザイナーという職種があることを知って、これは敵を攻撃した時に光ったり風が吹いたりっていう演出をデザインしたりする人なんですけど、メディア上の感触が好きなのと、人を誘導することとか活かせそうだなと思って興味を持って志望しました。それでインターンに行ってみたりして志望を固めていきました。
※エフェクトデザイナー
主にゲーム業界で、爆発、炎、煙、雷、水、光など自然現象やイメージをCGを用いてゲームを盛り上げる演出・視覚効果をデザインする人
ー卒業後はどんなことをやっていきたいですか?
今まで作ってきた作品って結構原理をそのまま落とし込んでいるものが多いので、今後はエンターテイメント感を出したものを作りたいな、という気持ちがあります。
卒業制作も普通に見せるだけだったら幾何学図形とかで作る選択肢もあったんですけど、今は人のアニメーションを描いて制作していて。見てて楽しいものにしたいな、という気持ちが最近どんどん強くなってきているので、今後はエンターテイメント性を持たせつつ、コンセプトのところに人の知覚を扱ってるものを作れたらいいな、と思っています。
結構落とし込みとか選び方とか大変だな~と思っていることもあって、最近はアニメーションが描けるように練習したりしています。まだその技量が足りないなと思っているので今後はその部分を強化していきたいです。
(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和、田邊茜)
次回の統合デザイン学科4年生インタビューは…!
「熱のこもった若い作品を作りたい」
上田海帆(うえだ みほ)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクト所属
3年生になって、自分がどうなっていきたいのかわからず悩むようになったという上田さん。
そんな中教授にかけられた「上手いんだけど作品に熱がないね。」という言葉にこれまでの作品を思い返した時、彼女が夢中になれた作品とは。
4年生インタビュー第3弾は明日公開です!乞うご期待!