統合デザイン学科4年生インタビュー#01 星菜生子
星 菜生子(ほし なおこ)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
永井一史・岡室健プロジェクト所属
ー自己紹介と統合デザイン学科に入学した経緯について教えてください。
東京都町田市という都会と自然が入り混じった街で大きくなりました、星 菜生子です。
昔からとにかく飽き性で楽しくないとすぐ放り出す性格で、唯一続いたのがサッカーと美術でした。進路を決める際に、サッカーチームの友達の、クラブチームを移りたいという話や、体育系の大学に進んだ兄の話をすごく他人事で聞いていたので、体育系は自分が真剣に進みたい進路じゃないんだろうなと思い、美術の道に進もうと決めました。
それから大学の進路を美術系にするなら美術予備校に行った方がいいんじゃない?と親に言われて、美術予備校に通い始めました。当時はデザイン系に進もうかな、となんとなく思っていたけど、グラフィックとかプロダクトとか自分に何が向いているかわからないし、できるなら全部やりたいと思って、最初は学科が分かれていない芸大のデザイン科を志望していました。それから二浪して統合デザイン学科を知ってから、色々できそうなところ他にもあるんだ!と思って統合デザイン学科を受けて、入学しました。
ー自身の制作スタイルについて教えてください。
私は考えを広げる時は人としゃべりたいけど、制作する時は静かに打ち込みたいところがあるから、自分がこれ作るぞ!ってなった時はひとりにして欲しくて。だから制作スタイルとしては、みんなと相談して形にしていくよりは1人でやっていく感じかなと思います。
ーこれまでに制作した作品について紹介してください。
クリックしている間、器の形が変わり続けるクレイアニメーション
『へたっぴ陶芸』
大学2年次にインタラクション(*)という授業で取り組んだ、マウスのクリックで切り替わるアニメーションを作る課題についての話で、これはアイデア重視の課題でしたが、私は面白いアイデアを考えるのが苦手で。
そこで、周りは平面のアニメーションを作る人が多いから人よりめんどくさいことすれば被らないだろう、と考えて立体アニメーションを作ることにしました。
クリックした時に手触り感があればいいと思って、そこから先生にほとんど相談にもいかずに不安になりつつもひたすら制作に打ち込みました。
ミニチュアの背景の木は丸い木を切って貼り付けて作って、木の質感を出すためにニスを塗って。小物も全部切って作ったり、壺は粘土そのままだと形が変わっちゃってアニメーションにならないからオーブンで焼いてて、実は全部硬いんです。それをいちいち配置してコマ撮りしました。
講評時に先生から「インタラクションとしてはまだまだだけどこれだけ打ち込めたのはいい経験になったんじゃない」と言ってもらえて嬉しかったです。
また、限られた時間内でこの作業量をこなせたという自信がついて、思い出深い課題になりました。
※インタラクション
"インタラクションとは英語の「 inter(相互に)」と「action(作用)」を合成したもので、その基本は「人間が何かアクション(操作や行動)をした時、そのアクションが一方通行にならず、相手側のシステムなり機器がそのアクションに対応したリアクションをする」ということです。
例えば、携帯音楽プレーヤーの再生ボタンを押すと、音楽がちゃんと再生されるような関係のことを指します。"
引用:インタラクション
一人でしっとりお酒を飲むための食器
『STILLER』
それからこの時期、手を動かして精度の高いものを作ることは得意だと思っていたけど、グラフィックデザインにちょっと苦手意識があって。楽しいけどちょっと向いていないのかもしれないと思いはじめた時に取り組んだのが、プロダクトの授業で行ったお皿のブランディング課題でした。
お皿をCGソフトで造形し、カタログなどのコミュニケーションツールを作る課題で、グラフィックデザインへの苦手意識からコミュニケーションツールに最初はすごく困っていました。
でも「湖の波一つ立たない水平線」っていうイメージをコミュニケーションツールを作るときに足して。お皿を立たせるためにもう1個アイデアをプラスしたら、カタログデザインやパッケージデザインについてすごく考えやすくなりました。グラフィックへの苦手意識がなくなった課題です。
私は、アイデアは最終的に写真にした時に素敵になればそれはいいものなんじゃないかと思ってるところがあって。最終形の素敵な状態のイメージがついてから、そのイメージに近づくためにこういう手段にしようって決めてます。
日本語の繊細さを表現するお香
『花かくれ』
「日本の魅力を伝えるものをデザインする」というプロジェクト課題で制作した作品です。椿は「落ちる」、梅は「こぼれる」など日本語では花が朽ちる時に色んな言い方をします。私はそこに朽ちるものに対する日本人の繊細な捉え方(さび)を感じ、見えない日本の美意識を持って帰れるような小さいものに落とし込めないかと試みました。
花の散る姿を昔から日本で親しまれているお香で表現し、種類・散り方の違う花のお香を5種と、合わせてパッケージやお香たても制作しました。
雨の日を楽しくする服
『ameful』
「新しい伝え方をデザインする」というプロジェクト課題で制作した作品です。雨と人との関わりを憂鬱なものではなく楽しいものにしたいと考え、雨に濡れると綺麗な模様が浮かび上がる服を制作しました。
ー統合デザイン学科で様々な分野を学んできた中で、自分の興味ある分野はどのように移り変わってきましたか?
入学時はとりあえず楽しそうなことは全部やってみようというスタンスでいました。
授業などで色々な課題に取り組みましたが、全部楽しかったんです。私、楽しいもの減らすのが苦手で。絞るとどれか捨てなきゃいけないと思ってしまうので、向いてる向いてないをあんまり考えないようにしていました。向き不向き考えずに全部取り組んでいたので、就職活動が終わった今でも実は絞れてないんです。
就職する会社は中小企業のブランディング系の会社なんですけど、決めた理由も、紙媒体も空間も組織運営も携われることで。とにかく広い領域に携わりたいからって理由で選んだから、卒業するこの段階でも全然分野は決めてないです。
全部楽しいから全部やればいいじゃん!って言う感じで、アウトプットの領域はあんまりこだわっていないですね。
ー卒制のテーマとそれに至った経緯についてお聞きしたいです。
今、都会だとどこにいっても集団生活をしていて、皆スマホを見てたり駅の階段とかで同じ方向に進んでるのって、改めてゾッとするタイミングがあると思って。「よくわからないけど不安」という気持ちを表現するインスタレーション作品を作りたいと思っています。
私はものづくりとかちまちま作る方向が合ってるんだけど、あまり卒制でその集大成を作ろうっていう意識がなくて。今までも自分がやったことないことをやりたいと思って作品を作ってきたので、卒制も同じ思いでいて、今回初めてインスタレーション作品に取り組むことにしました。もし失敗しても良い経験になると思い、日々制作しています。
ー就職先は中小企業のブランディング系の会社だそうですが、選んだ理由などはありますか?
私、お香とか日本に昔からあるものが結構好きで、それを作っているのが小さい規模の会社だったりするんです。時代を牽引するのは大企業ってイメージがあるけど、それに追いついていかないと無くなってしまうのが中小企業だと思っていて。そこをちゃんと繋がないと日本の昔からあるものって続いていかないのかなと。
最終的には中小企業のインハウスデザイナーになりたいんですけど、そこに必要なスキルが今の私には全然足りてない。だからまず修行として今回就職が決まった企業で働いて、色々な会社からの依頼を受けて、webや紙媒体や空間など、力になれるスキルをいろいろ身につけたいと思っています。
ー卒業後はどんなことをやっていきたいですか?
今のデザインって結構、ものの良し悪しというよりもちゃんとストーリーが伝わるかで売り上げが決まるイメージがあって。売り上げが伸び悩んでいるとか、いい物作ってるはずなのにそれが伝えられなくて昔からある企業がなくなっていくのが切ないと思っていて。
その手助けを、方法を絞らずに楽しくやっていきたいです。
(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和)
次回の統合デザイン学科4年生インタビューは…!
「とりあえずやってみるか」
野中大地(のなか だいち)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
菅俊一プロジェクト所属
「とりあえずやってみるか」という精神を大切に制作を行っている野中さん。
自身の興味のある部分を深堀りをしていくとそれは「物理的なものと映像の関わりがあるもの」で...?
ではそこからどのような作品作りを行っていったのか、4年生インタビュー第2弾は明日公開です!乞うご期待!