統合デザイン学科卒業制作インタビュー #03東千鶴
東 千鶴(ひがし ちづる)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
深澤直人・長崎綱雄プロジェクト所属
ー卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。
私は「類似点をつなぐ」という、素材から食べ物を表現した作品を作りました。
食べ物らしい特徴をもつ素材を見つけ、その特徴を活かして少しだけ加工をした作品群です。
実物とは違ってもそのものだと判断するとき、人はなにを手がかりにしているのか。無意識に類似点を探したり、何かと比較している面白さがあると考え制作しました。
ーこの作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
大学3年生の頃に、私の所属している深澤直人・長崎綱雄プロジェクトでの授業で「犬をつくる」という課題がありました。
その課題は深澤先生がよくいう「found object」という、ものから発想する・ものをよく観察して特徴を見つけ出していく視点をもとに犬をつくる、というものでした。
私は、犬が喜んだ時のしっぽの振りをメトロノームがリズムを刻む様子で表現する作品を作りました。私の中で1番謎な作品の誕生でした。
この課題は犬の造形や特徴をただ捉えるのではなくて、みんなが共通して持っている犬に対する認識を掴んで形に落とし込むというもので、それが私的に新しくて、答えがない感じが楽しくて、今の作品に繋がっていきました。
でも元々のアイデアは今のものとちょっと違っていて、最初は個体差や個性といったモノらしさや人らしさに注目していました。
りんごをかじった形が人それぞれ違うとか、食べ物の皮でそれぞれ剥き方が違うとか「それぞれで同じように見えて違う」という方向で進めようと思っていました。
その気づきをはじめは木彫りで表現しようと思っていたんですけど、途中から木という素材に絞らずに、本当に適した素材で表現するという方向に変えて、今のような形になりました。
「食べ物」という括りにしたのは、個体差がわかりやすく、かつ種類が豊富なモチーフだと考えたからです。それぞれの特徴が違う点と、販売時だったり食前・食後などで状態の変化があり、表現の幅が広い点が決め手でした。
ーテーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
木という素材に絞らないと決めた時点で、ホームセンターや百円均一、雑貨屋などの雑多にいろんな情報が詰まっている店に行くようにして、そこで使えそうなもの、きっかけになりそうなものを見つけて買っていました。
一番最初にできたのが芋で、これはファンデーションのパフなんです。
モチーフを食べ物にしようと決めた時期から食べ物っぽいものを探していて、ファンデーションのパフをみたときに「何かに見えるな」と思って早速購入。帰って着彩してみたら、着彩しただけで芋に見えて、これは面白いなと思いました。
あとは、ただの紐を四角に並べただけでうどんに見えるとか。
普通は束ねられて売られているけど、解して四角く並べるだけでうどん味を増すことが面白くて。
家で素材を加工している時に、ちょっと加工するだけで食べ物として認識してしまうことが面白いなって気付きました。
あと面白かったことは、作品を作っているうちに違うモチーフに見えてくることがあったんです。
例えば、瓶を割ってコーヒーゼリーを作ったんですが、元々はキクラゲにしようと考えていました。
キクラゲを作る時、最初は茶色いゴムをそのまま使おうとしたけどあまりにそのまま過ぎて、透け感やカーブが似ていると感じた瓶を割って作ってみようと思って。でも写真撮ってみたらキクラゲではなくてコーヒーゼリーに見えてしまったんです。友達にもコーヒーゼリーに見えたって言われ、モチーフを変更しました。
加工しているうちに素材の特徴を細かく理解できたり、もっと共通したものを探れることも、制作する中での発見だったと思います。
加工についてはどこまでを表現するか、ということが難しかったですね。
苺を作った時はラベルはいるか、値段などの表記はあったほうがいいか、と迷ったし、魚を作った時も皿はあったほうがいいかどうかと迷いました。
魚に皿があるならバウムクーヘンにも皿はあった方が良いのか。でもバウムクーヘンは皿がなくても伝わるかもしれないな、と本当に行ったり来たりしていました。
ウニは私がノリノリになっちゃって行き過ぎましたね。笑
どこまで表現するかというルールは自分の中で決めていなくて、作品を見た人が「この食べ物だ!」と思っても、確実に真似ることはしたくなかったんです。素材と食べ物の間を行き来できるくらいにしたくて。
苺だったら完全に苺に寄せちゃうとそのまますぎるけど、ゴルフボールって姿がわかるくらいにとどめておいて、それを苺って言ってしまう面白さを見た人に無意識に感じて欲しくて敢えて曖昧な表現にしました。
ー展示空間はどのように考えていきましたか?
展示では木の板に作品を並べました。
元から木の板を展示台として使いたいという思いがあって、それは多分食卓とかまな板とか潜在的に食べ物がのっているものというと木の板が自然だという認識があったからだと思うんですけど。
展示空間では素材が食べ物に見える感じをストレートに伝えるために、一列に並べて全作品に平等に光が当たるようにしました。
元々は大きい机に転々と並べて可愛らしいオブジェクトとして展示する予定でしたが先生と相談していくうちに、転々と並べる方法だと一個一個を見たときに背景に絶対別の作品が映り込むからそれぞれの良さがぼやけてしまうのでは、という意見をいただいて展示方法を変えました。
最終的に一つ一つの良さに集中して指をさしてもらえるような展示方法になったので良かったです。
また、今回冊子を作って作品の隣に置いていたんですけど、これが付属品にならなくて良かったなと思います。
冊子を作ったのはこの作品が「類似点をつなぐ」っていう素材と食べ物の類似点をつなげるものだから、素材のことについても言及したくて。
ひと作品ずつ文字と一緒に見ることができるように文字は素材と作品を繋いだレイアウトになっていて、下に素材の特徴とどう加工したかを簡潔に記録しました。
最初はポスターなどの大きなグラフィックで伝えることも考えていたけど、手のひらで見られるような答え合わせ本があるといいかなって思っていたので反応をいただけて嬉しかったです。
ー展示を行った感想を教えてください。
作品を見た人が食べ物じゃないこの作品を指さして、食べ物だって言っているのが面白かったですね。
「美味しそうだね。」とか「お腹空いてきた。」と言われると、それはあなたの目が面白いんだよって思っていました。
ものが持つ新鮮な艶やシズル感や質感を見て、人が勝手に美味しそうと思っているのが愉快で、人間ってそれくらい単純な思考でものをみてるんだなと気付きました。
面白いって言われるために作ったわけではなかったんですけど、結果的にユーモアのある作品の出し方ができたかなと思います。
改善点としては、18点という作品数がちょっと多かったかなと思います。これでもだいぶ絞った方なんですけど、まだ多かったかも。
作品数が多いと可愛らしくて楽しい雰囲気が出るけど、自分の中でこれは絶対に外せない、という10点だけで構成していたらもっと素通りされない作品になったかなと思っていて。
食べ物のことも、素材のことも考えられて「確かに。」というくらいの密度があれば良かったかなという反省があります。
あとは曖昧さの加減を感覚で決め過ぎていたから、そこを言語化できていればと思いますね。これがないと認識できないけれど、あれがあれば認識できるっていう境界線をしっかり整理しておけば良かったなと。
それから展示空間について、もう一歩こだわれたかもしれないという点があって。
今回はもの本体を見せたかったので、大きなポスターなどのアイキャッチは余計だと考えていたけど、少しこじんまりしすぎたかな?と個人的には思っています。
ーこの作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。
作品を展示するまでは、完成した作品を見ただけだとそこに辿り着くまでにかかった労力が伝わらない作品だなって個人的に思っていました。
でも思考を重ねたり試したりという部分が意外と言わなくても見ている人に伝わっていたので、そこが嬉しかったです。見てくれる方の反応を近くで見ていると楽しんでくれているのがわかって、モチベーションになりました。
また、自分の制作に対する姿勢も変わりました。もともとは先に最終目標をがっちりと決めがちだったんです。木彫り表現でいこうと決めたら木材も彫刻用具も揃えていたし、何をどう作るかということまでまとめようとしていて。でも縛りを無くし、思いついたアイデアから手を動かしていく方が性に合っているんだと気付きました。実際11月に木彫りからシフトした時は不安でしたが、今の形になった方が制作が楽しくて作品数も増えたんですよ。
今回の作品のきっかけになった課題から卒制のアイデア出しを通して、普段からものを見る目が鍛えられたというか、前よりはものとものの関係性に敏感になりました。「共通点探し」はやって良かったなと思うし、これからもやりたいことです。
この制作と日々の観察を、これからも続けていきたいなと思っています。
(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和、中島知香)
今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展Bでご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!
美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B
会期
3月13日(土)〜3月15日(月)
10:00~18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B