統合デザイン学科卒業制作インタビュー #06廣田結萌果
廣田 結萌果(ひろた ゆめか)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
佐野研二郎・小杉幸一・榮亮太プロジェクト所属
ー卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。
三重奏の「カノン」という曲を視覚化した映像作品で、タイトルは「おとの鑑賞」といいます。
「カノン」という曲は複数のパートが同じ旋律を追唱することで音楽が構成されています。その音が繰り返されている構造を視覚的に表すことをテーマとして作りました。
ーこの作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
大学に入る前まで10年間バイオリンを習っていたのと、エンタメ鑑賞が趣味なので音楽を視覚化することに元々興味があって。
課題でもクラシック音楽を可視化することをテーマにした作品をいくつか作っていたので、卒制では映像演習(*)で学んだ技術を活かして音を動かそうと思って、映像作品を作ることにしました。
※デザイン演習
"3·4年次の専門課程では、全ての領域をつながった一つのデザインと捉え、各教員が社会に即したテーマをゼミ形式で行う「プロジェクト」を通じて統合的なデザインを実践します。さらに組み合わせを選択できるデザイン演習により、個々に必要とするスキルをより深く学んでいきます。"
引用:統合デザイン学科|受験生サイト 多摩美術大学
選曲には結構悩みました。自分が今までに弾いてきた曲の中から選曲しようとは思っていて、バロック時代の音楽には同じ旋律を繰り返したり、同じフレーズがたくさん出てきたりする構成があって形にしやすそうだったので、まずバロック時代の音楽に絞りました。
そこから色々と調べて「カノン」はみんなが知っている曲だし、自分にとって思入れのある曲だったのでこの曲に決めたんです。
※制作のために書き直した楽譜
ーテーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
大学3年の半ばくらいから旅先や展示会で制作のアイデア集めはしてたんですけど、実は去年の8月ぐらいまでは全然案が固まっていなくて。なんとなく頭の中では音楽を映像化したいっていうのは決まっていました。
そこから9月の中間講評の時までにだいたいの案と曲を決めて、その時点ではまだラフの状態だったので、そこからずっと曲を聴いて、音から自分がイメージする形を全部書き起こしていって…。
11月の後半くらいから映像を制作し始めました。
実はこの作品に使用されている音は自分で弾いたものなんですけど、音がないと映像が作れないので、まず音録りから始めました。
カノンは同じ旋律を3パートをずらして再生することで成立するようになっているので、3回音録りをしたものを編集して一曲にした後に映像に起こしていく、という作業をしています。
この曲は4小節ごとに同じメロディーが繰り返される構造になっていて、その4小節がワンフレーズだとしたら、曲が進むにつれてそのフレーズがどんどん違う形になって展開されていくことが特徴なんです。
そこから、それぞれが同じフレーズであることを幾何学的に表せるんじゃないかと思って形を書き出していきました。
形は、自分がバイオリンを弾いたときの感覚や、頭の中で思い浮かべた動きから作りあげています。あとはピアノとは違う、バイオリンの弓の動きなどを映像に落とし込みました。
この作品は幾何学、等角図、立体、幾何学模様のみを用いて制作しているんですけど、最初は音を全て幾何学的に表せるのかどうか分からないまま、制作は手探りで進めていました。
最終的にまとまったときに1曲が表現できるように、形の動き方などが被らないように注意しましたね。
ー展示空間はどのように考えていきましたか?
音を鑑賞するということで絵としての量が欲しくて、音の見せ方を大きく分けて3種類作りました。
※1番左の映像と、右上にある3つの映像と、その下にある映像の3種類で構成されている。
右上に画面が3つあるのは、この曲が3つのバイオリンをずらして演奏されるところから連想していて、それぞれが第一バイオリン、第二バイオリン、第三バイオリンの動きを表しています。
この3つの映像と右下の映像は同じフレーズで連動していて、全体の映像を見ると同じフレーズの中でそれぞれ違う形を持った音を楽しみながら鑑賞できるようにしたんです。
左側の映像は、同じステージ上を丸が動いていくことで音の動きを表現しています。
最初はモニターでただ流すだけの形を想定していました。でも「おとの鑑賞」というテーマがあったので絵画を鑑賞するようなイメージを意識して「額縁」に映像を流すことにしました。
額縁にモニターをはめるのは大変なのでプロジェクターを使って額縁に合わせて映像が流れるようにしたんですけど、鑑賞する人の影が映りこまないように壁の中に高い骨組みを作ってプロジェクターを調整しながら設置する作業が大変でした。
それから、実はプロジェクターは2台使っていて、静止画と動いている部分を別々にしているんです。
そうすることでレイヤーのように重なって動いている部分が目立って見えるように工夫しました。これは気付かない人が多かったですね。
また、実際の生の音や弾いている動きと映像を連動して鑑賞して欲しかったので、講評時には実際に曲を演奏してプレゼンテーションを行いました。
ー展示を行った感想を教えてください。
先生にまず「説明が要らない作品だね」と言われて、それを目指していたので嬉しかったです。
素通りしていくお客さんもいたんですけど、立ち止まって見てくれた方は「曲の構成が分かってきた」「新しい発見があった」と言ってくれて。
「ずっと観ていられる」といろんな人から言われたのは、とても作り甲斐を感じました。
あとは映像の玉の動きに合わせて体を動かしてくれる人もいたりして、面白いなと思って見ていました。
それから、今回流していた曲は編曲を行っていたので、オリジナルの楽譜を作って何の説明もなしに映像の前に飾って置いたんですけど、自然とその楽譜と照らし合わせて映像を見てくれる人がいて嬉しかったです。
白黒の楽譜を見ているだけでは味わえない新しい音の見せ方ができたな、と思っています。
改善点としては、講評時に先生から「今は3種類に映像を分けて流してるけど、全部を組み合わせて作ってみたらいいんじゃないか」と言われて。そこはもう少し考えられそうだなと思います。
ーこの作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。
実は高1の時点で進路は美大か音大かで迷っていて。音楽の道はすぐに諦めたのですが、美術と音楽は切っても切れない関係性があって、こうして学生生活最後に自分が今までやってきた経験を作品にできてよかったです。
私は昔からエンタメが好きで、人を楽しませたり、面白い!と思ってもらえるようなデザインがしたくて美大に入学したので、最終的にこの作品で目標を形にできたと思っています。
今まで、作ったものがそんなに評価されるわけでもなく、不完全燃焼で課題制作が終わってしまうことも多々あったんです。そんな中でも自分が夢中になってできる作業をこの卒制を通して見つけることができました。
また、この4年間で夢中だったことといえば、課題と並行してライブや舞台鑑賞、旅行など時間が許す限り出来るだけ沢山足を運んでいました。非日常の中で、生で感じた刺激や感動が制作に活きていると思います。移動中に課題をしたり、遠征先からそのまま大学に行ったりとにかく全力でした(笑)この全力になれた趣味が制作のモチベーションとなり、今では夢や新たな目標の根源になっています。今後は、デザインの力で人を楽しませる側になりたいですね。
卒業制作に向けて案がなかなか決まらなかった事もあって苦戦しましたが、
やっぱり自分が今まで見てきたものが参考になるなと気付きました。
私の場合は音楽とエンタメ鑑賞だったんですけど自分の経験を作品に落とし込むことで、他の人には表現できないものが作れるし、自分自身もそれに対しての理解が深まるので、色んなものを見ることや経験することって本当に大事だなと思っています。
(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和、田邉茜)
今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展Bでご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!
美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B
会期
3月13日(土)〜3月15日(月)
10:00~18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B